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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1784/1885

第1774話、救出活動とは、かくも危険なもの


 成りすます、というのは、本当はよくないんだ。

 国際法的な見地からしても、よその国の軍隊になりすまして行動するというのは、それが引き金に、紛争や国家間の大きな戦争へと発展する可能性が高くなる。


 たとえを出そう。ニーヴァランカ国内において、ニーヴ・ランカ人とヴァラン人が争っている。そんな場所で、大帝国軍の紋章を掲げた軍隊が武力介入したら、どういうことになるだろうか?


 ヴァラン人はもちろん、ニーヴ・ランカ人どころか、隣国のネーヴォアドリスでさえ、かの大陸戦争の再来、大帝国が攻めてきたと受け取るだろう。そして外交的抗議に始まり、場合によっては戦争状態に突入する。


 だがこの大帝国軍が、実は紋章を掲げただけの別の国の軍隊だった場合は、どうなるか?

 関係ない大帝国に罪を着せて、ニーヴァランカと争わせて、共倒れないし弱体化を図ることができる。ヘイトは大帝国に向けさせて、自身は美味しいところを掻っ攫おうというのだ。


 終わってみれば、少ない消耗で、ニーヴァランカ領地をごっそり手に入れる、なんてこともできるかもしれない。


 とまあ、そんなわけで、こういう裏工作によって戦争を起こして、漁夫の利を得るやり方というのは、歴史を紐解けば、至るところであったわけだ。特定の国がどうこうというものではなく、今よりさらに法が機能していなかった頃は、戦略の一つとして割と使われていた。


 故に法が整備されてくると、この手の工作、スパイ活動に対する厳罰化は留まるところを知らず、実行者は裁判もなく処刑ということも珍しくなくなる。

 それだけ、この手の国を滅ぼし兼ねない工作やスパイの存在は危険極まりないということだ。些細に見える行動で、何千、何万の人間を死に追いやり、国を不幸にするのである。


 だから、この手の工作員には国際法も適応されないし、別のものに成りすまして行動する者は、たとえ民間人の格好をしていようが撃たれても文句は言えないのだ。


 ……この民間人の格好をして武器を持っている、攻撃してくる奴は最悪だ。こいつのせいで、本物の民間人が巻き添えで死んだり、村ごと虐殺される原因の一つとなっている。ゲリラと一般人の見分けがつかなくなると、虐殺行為に言い訳ができてしまうところがさらに始末が悪い。


 と、かなり脱線してしまったな。

 何が言いたいかというと、俺たちはこれからニーヴ・ランカ人の民間人を救出するため、ヴァラン国に不法侵入し、場合によってはニーヴ・ランカ人の軍隊のふりをして、ヴァラン人の虐殺部隊と交戦する可能性があるということだ。


 人道上の理由とはいえ、法律をいくつか破った上での行為。当然、戦場に飛び込むわけだから、命の保証はないし、捕虜でもなればスパイとして処刑。最悪、身元がわかれば、シーパング同盟にも迷惑をかけるから、証拠になるようなものも残せないという、ハードな仕事をこなす。


 諜報、工作、スパイに共通していることだが、俺たちのやっていることに関して、シーパング同盟は関知しないので、何かヘマをして国際問題になっても、助けてはくれない。


 それを覚悟してやらねばならない。これは国家の意思ではなく、俺たちがボランティアでやることだから、国の助けをそもそも期待してはいけない。全て自己責任ってやつだ。


「まあ、正当軍のフリをしてまで戦うつもりはないけど」


 あくまで保険の一つ。こちらのボランティア活動において、妨害する者は撃退するつもりだけど、ニーヴァランカ正当軍に見える兵器は使わずに済ませたいのが本音だ。

 ただ、謎の武装組織――外国勢力の介入と受け取られるのも面倒なので、実際の場で、どちらを使うのがいいか総合的に見て判断することになると思う。選択肢は多い方がいいってことだ。


 

  ・  ・  ・



「――ということで、ネーヴォアドリスの国境は封鎖されている」


 その男が説明すると、避難民たちはざわついた。


「そんな……」


 ニーヴ・ランカ人たちである。ヴァラン人による虐殺の噂を聞き、国外へ逃れようとする人々だが、その行き先についても暗雲が立ち込めている。


「正当軍が国境侵犯をしたことで、ネーヴォアドリスが殺気立っているんだ。下手に越境しようとすれば、撃たれるかもしれない

「こちらは、武器も持ってないのに……」

「いや、持ってるだろう」


 魔獣対策に自衛手段を持っている者は少なくない。もっとも戦士でもない者が大半だから、道中の獣の群れに襲われ、命を失った者もいた。


「あちらさんからしたら、難民なのか工作員なのか、正当軍の残党なのかわからないって」

「じゃあ、どうすればいいんだ……」

「このまま、ヴァラン人に殺されるのかい?」


 赤ん坊の泣き声がして、避難民たちの表情はさらに暗くなる。

 説明している男は言った。


「そこで、皆さんによい知らせを持ってきた。どこの誰とは言えないが、あなた方ニーヴ・ランカの難民を救おうと立ち上がった、とある国の貴族様がいてな。空中船を用意して、君らを国外へ連れ出してくれる」

「貴族?」

「国外へ……!?」


 ざわつく声は大きくなる。ヴァラン人の魔の手から逃れられる。そう顔を綻ばせる人がいる一方、怪訝な顔になる人もいた。


「それは罠なんじゃないか?」

「え……?」

「だっておかしいじゃないか。都合がよすぎる」

「ヴァラン人の罠じゃないのか?」


 国外へ連れ出すと言って、実はヴァラン人のもとへ戻して引き渡す、とか。あるいは都合のいい労働奴隷とするため、国外へ連れ出すのを餌に、難民を捕まえようとしているのではないか。つまり、奴隷狩りではないか、と。


「そう思うなら、残ればいい」


 その男は言った。


「あくまで助かりたい、と逃げている人々を危険を冒して救助にきた。だからその救出活動の足を引っ張るなら、放置していいとおっしゃっていた。一人でも多く虐殺から救えれば、それが子供だろうが老人だろうが関係ない」

「わしゃあ、行くよ」


 とある老人は言った。


「この歳になっても、殺されたくないから逃げてきた。他に手はないんじゃ。老人でも助けてくれるというなら、わしゃ行くよ」


 一人、二人と、謎の助けに従い、動き始める。納得できない、怪しいという思いを払拭できなかった者たちは国境の方へと歩き出す。

 大陸戦争、そしてその後の荒廃した社会。善意を信じられない人間が多いのも仕方のないことなのかもしれない。

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