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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1782/1961

第1772話、いざ、救助へ


 誰しも何かの迷惑をかけている。それは自分からもあれば、周りの誰かから、ということもある。

 さて、ヴァラン国の虐殺行為をやめさせるのは、現時点では至難の業。というか、シーパング同盟や国や組織に迷惑をかけない手段においては、今のところ浮かばない。


 どこにでも迷惑をかけていいのなら、戦艦『バルムンク』で直接乗りつけて、大砲を撃ち込んで、襲われている民間人を救出すればいい。

 その結果、俺が個人的にやってたとしても、シーパング同盟に戦争の意思ありと、ヴァラン国が同盟に宣戦を布告するか、敵対国として対立状態になるだろう。


 英雄魔術師で侯爵で、って身分がある人間がやると、個人での行動じゃ済まないのが政治の世界というものだ。


「ということで、こちらの正体がわからないように、こっそりやる」


 俺が言えば、ベルさんは笑った。


「つまり、戦艦で乗りつけたり、魔人機で暴れるのはなしってことかい?」

「いやいや。魔人機はありさ」


 戦艦『バルムンク』に積まれていく、黄色いカラーのドゥエルタイプ魔人機を親指で指し示す。


「ニーヴァランカ正当軍仕様のドゥエルやカリッグは使える」


 つまりは正当軍残党に見せかけるってことだな。

 襲っているのが大帝派のヴァラン人で、ニーヴ・ランカ人を虐殺して回っているから、その民を守護する立場にある正当軍であるなら、何の遠慮もなく戦えるというわけだ。


「使えるのか? あれ、ネーヴォアドリスで回収した奴だろ?」


 正当軍が隣国であるネーヴォアドリスに越境し、攻めてきた機体――に見えなくもない。


「まさか。あれは、うちで生産した機体に、ニーヴァランカ塗装をしたものだよ。乗り込んできた機体は、ネーヴォアドリス軍が全部破壊して、残骸は回収されているからね」


 仮に借りられたとしても、一から修理が必要だっただろう。それはそれで手間だ。


「こっちのは中身を最新型にしてあるからね。見た目は旧式だが、性能は悪くない」

「よかった。廃棄寸前のポンコツじゃなくて」


 ベルさんは皮肉った。

 俺たちは格納庫デッキから、戦艦『バルムンク』に乗艦する。黄色い塗装のドゥエル、カリッグの他、ASS-1シェイプシフター、さらに傭兵用の機体があった。航空機では、レイヴン偵察戦闘機やゴーストⅡ戦闘機が搭載されている。

 ただ、ニーヴァランカ正当軍仕様は、使うかどうかまだ迷っている。


「小さな戦闘集団だな」


 ベルさんが言った。


「久々に、レーヴァテインを引っ張り出そうと思ったけど、正体バレしたら駄目って言うんじゃ使えないな」

「バルムンクにしても、今回はステルス・キャリアーに徹する予定だからね。俺個人が動かせる戦力には限りがあるのさ」

「個人で、戦艦と機動部隊を持っているってのはどうなんだ?」

「一般人なら問題だが、俺はお貴族様だからね」


 今度は俺が皮肉る番だった。


「上級貴族なら、私設軍は持っているものだよ、ベルさん」

「そりゃあそうだ」


 俺たちは、格納庫から艦内通路を進み、やがて艦橋に上がった。


「で、今回は、『バルムンク』だけか? シャドウ・フリートは動かないのか?」


 シーパング同盟の秘密艦隊。ステルス行動と奇襲、特殊作戦を得意とする戦力ではあるが――


「シャドウ・フリートは、同盟軍の戦力だ。あれを投入したら、同盟軍はヴァラン国と戦うって意思表示になるから、使えないよ」


 現状、シーパング同盟とヴァラン国は中立の関係で、敵でも味方でもない。だがニーヴ・ランカ人救出に内政干渉をすれば、明確に敵対行動だからね。


「使えるフネは、『バルムンク』と、揚陸船の『ペガサス』だな」

「『ペガサス』! それって、かなりの老朽艦じゃね? まだ動いていたのかよ」

「ベルさん、それは言い過ぎだよ」


 確かにシーパング同盟結成前にすでに存在していた旧式だけどね。

 機械文明時代の輸送船に、アンバル級クルーザーの艦体をくっつけた不格好な船で、上から見ると、ハンマーみたいな形だから、ハンマーヘッドなんて一部では呼ばれていた……というのは後になって聞いた。


 大陸戦争でも、後期には主力をはずれ、輸送任務や、艦隊を動かすまでもない俺のちょっとした用事の足に使った。

 戦後、同盟軍再編の際、戦力に組み込む性能にないというので、退役となって売却。俺が買い取って、汎用輸送船として所有している。


「何気に難民救助任務と縁があったりするんだよ、この『ペガサス』は」


 俺はキャプテンシートに座る。チーフ・オペレーター席には、当然のようにラスィアがいて、出航のための準備、確認作業を進めていた。俺の秘書ポジションだからね、このダークエルフさん。それでも俺より先に艦橋に来ているのはさすがというところだ。

 物資の搬入、その他諸々の作業が完了。シップコアであるバルムンクが振り返った。


『マスター、発進準備、整いました。いつでも』

「了解。――ラスィア、『ペガサス』は?」

「こちらも、準備完了。いつでも行けます」

「よろしい。では、『バルムンク』発進」


 ヴァラン国の民間人救出のため、超戦艦は出航した。



  ・  ・  ・



 ヴァラン人と、ニーヴ・ランカ人の対立の歴史は根深いものがある。

 元々、ニーヴァランカとされている土地に住んでいたのは、ヴァラン人であり、北方の蛮族が攻めてきて、国を乗っ取った。

 蛮族は、ヴァラン人を殺し、差別し、迫害し、自らの領土を広げていった。ヴァラン人は征服され、搾取されるために生かされた。


 先祖の代からの恨みを持つヴァラン人は、大帝国によってニーヴ・ランカ人の政権が崩壊したことで、立ち上がり、正当軍と対抗した。

 その正当軍が、隣国に手を出したことで報復を受けて、自滅。大帝派と言われるヴァラン人は、この機を逃さず、先祖の土地を奪回。積もり積もった恨みを晴らすべく、ニーヴ・ランカ人の迫害を開始した。

 虐殺行為は、至る所で発生し、噂を聞いたニーヴ・ランカ人は北と南へ逃げている。


「……ここまで聞くと、ニーヴ・ランカ人が悪いように聞こえるな」


 ベルさんが率直に言った。俺は苦笑する。


「まあ、それはヴァラン人の歴史、彼らの見方だからね」

「というと?」

「そもそも北方の蛮族って聞いて、不思議に思わなかった? あの国、北は海なんだぜ? 北方の蛮族ってどこからきたって話になる」


 俺は、戦術マップを操作する。


「色んな資料から推測される、数百年前の国の形を出す。ニーヴァランカ国の領土の北方……この辺りは、ヴァラン人が蛮族と呼ぶニーヴ・ランカ人が住んでいた土地なんだ。ヴァラン人と出会う前から、ね」

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