第177話、コバルト金属の量産
俺とベルさんは、ストレージ内にいた。
サフィロを稼動状態で同行させ、コピー・コアの収集したコボルトをガーティアンとして登録。魔力を使ってコボルトを召喚した。
召喚したコボルトは、さっそくすでに加工された金属をコバルト金属に変換できるかの実験に用いられた。
結果は、大成功だった。
鉄素材は、コバルト金属に変換されたのだ!
俺のいた世界でのコバルトは銀白色だが、この世界では若干青みが含まれているのが特徴だ。なお、色もだが、元の世界のコバルトと性質も異なっていると思う。専門家ではないので詳しくはわからないのだが、この世界では鉄よりも堅く、熱に強く、錆びない金属である。とはいえ、ミスリル銀ほどではないが。
ただ、問題があった。
それはコボルトは、のべつ幕なしにコバルトへの変換ができるわけではない、ということだ。この鉱物や金属を変換するのは、魔法の一種であり、それはつまり使えば魔力を消費する。コボルト自身の魔力があるので、当然自身の魔力がなくなれば使えなくなる。
そして問題とは、コボルト単体の魔力の総量が大したことがないことにある。鉱物ならともかく、加工され金属化したモノに対して消費する魔力が大きいというのも問題だ。
休憩を挟んでも、コボルト一人あたりの一日の変換個数は数個程度。変換するものが加工済みで、大きいものであればその分だけ魔力を喰うのでさらに個数は減る。
ではコボルトの数を増やすという手もあるが、今度はそれを用意する俺ないしサフィロの魔力の消費が大きくなる。使う魔力に対しての変換効率はあまりよくない。
戦利品から加工した鉄資材の全コバルト化の目論みは、暗礁に乗り上げたか……ということも実はなかったりする。
魔力を喰うなら、他から補充すればいい。魔力の有り余っている人間から魔力を吸収、転用するとか、DCロッドの蓄えている魔力をまわしたりすれば、補いはつく。コボルトを人海戦術で、コバルト変換させることも魔力さえあるなら可能だ。
が、実はそんなことをしなくても、もっとお手軽な方法がある。
ストレージ内に変換前の鉄が保存されているのだから、コボルトを一人か二人、ストレージに送り込むのだ。
中は外と時間の流れが異なる。ダンジョンコアを一緒に送って監督させれば問題はないだろう。
ストレージ内の時間がどれくらい流れているかは知らない。だがこちらで数時間も経てば、コボルトも休息をとりながらでも充分に予定量の変換が終わって、さらにお釣りがくると思う。小人さん、もとい妖精さんは一晩でやってくれるというわけだ。
そんなわけで、外の世界に戻ってきた俺は、新たな装備製作や、今後の翡翠騎士団の予定などを考えながら、その日は休んだ。
・ ・ ・
翌日は日曜、学校は休みであり、世間様も基本お休みである。
昨日たっぷりダンジョンにこもって、皆お疲れだろう。完全休養日にあてようと昨日話しあってあるので、フリーである。……まあ、アーリィーは休みだから、俺たちと常に一緒に行動するんだけどね。
とはいえ、アーリィーは相当お疲れだったようで、いつもなら起きてくる時間になってもベッドでぐっすりお休みだった。
俺とベルさんは、メイドさんがいれてくれた朝の紅茶をいただき、軽い朝食でパンケーキをモシャモシャと食べる。
俺の作業部屋こと、魔法工房に行き、まずはストレージ内の様子を見る。サフィロは完全に待機モードになっており、コボルトの姿はなかった。たくさんのコバルトのインゴットが山となっていて、作業は終わったようだった。
確認のためにサフィロを外に引っ張り出して起動させる。
『おはようございます、マスター』
「おはよう、サフィロ。報告を」
『かしこまりました』
ダンジョンコアは、予定の鉄をコバルトに変換が完了したことを告げた。さらに魔法装甲車『デゼルト』、スクワイア・ゴーレム『ブラオ』の鉄部品のコバルト変換処理が済んだことを報告した。
『デゼルトの金属部位の変換により、重量が軽くなりました。それにより消費魔力量の軽減。微量ながら速度が上がりました』
軽くなって、動力が変わらないならスピードが上がるのは道理だ。
あと、スクワイア・ゴーレムは、表面の材質が変わったことから、メタリックな鉄色から青みがかった色にカラーリングチェンジがされていた。
……うーん、もうちょっと鮮やかな青色に塗装すべきかな。コバルトブルーって色あったよな。せっかくコバルト金属使ってるし……というのは関係ないか。
さて、のんびりできる休みなので、工作の時間と行こう。
「お前も好きだねぇ」
ベルさんが窓からの日差しが当たる机の上に、スライムクッションを敷いて横になる。くつろいでるねえ、この猫は。
「休日はのんびり過ごすのが正しい生き方さー」
ベルさんはゴロゴロしながら言うのである。一理ある。まあ、俺にとっては作るのは気分転換になるんだけどね。
俺は素材を作業台に並べて、さっそく作業に入った。
形をイメージして合成。魔法の輝きが室内を照らすが、集中している俺は気にしないし、ベルさんは目を閉じてお休み中。
それなりに魔力を使うので疲労する。……休みなのに、疲れるとはこれいかに?
でも気持ちは充実している。工作は楽しい。
そこへアーリィーがやってきた。
「おはようジン!」
「おはよう、アーリィー。もうお昼近いぞ?」
「うん、せっかくの休みを損した感じ!」
アーリィーは元気だ。ベルさんが片目を開けた。
「ゆっくり寝れたんだろ? 損したと思うほうが損だぞ?」
「いや、ベルさん。貴重な休みに何もしないのは贅沢だが、起きた時に休みが残り少ないと感じるから、やっぱり損だと思うぞ?」
俺が言えば、ベルさんは「そうか?」と首をかしげ、目を閉じた。
アーリィーが作業台までやってくる。彼女の後ろについてきたメイドさんが、お茶を淹れると退出した。王子様(お姫様)にとっては朝のお茶となるそれを堪能しながら、アーリィーは聞いた。
「で、ジン。ここにあるのは盾だね?」
銀縁に青色の盾が二枚、作業台に並んでいる。カイトシールド――正確には騎兵用ではないのでヒーターシールドである。
「同じものが二枚。……ただの盾じゃないね?」
アーリィーのヒスイ色の瞳が俺を見た。よくぞ聞いてくれた。
「コバルト金属を手に入れてね。ブラオに持っていかせるつもりでいるけど」
「そういえば、ブラオ君は二枚、盾を持っていたね」
スクワイア・ゴーレムに君付けか。俺は思わず口もとを緩めた。
「アイツにはオーク軍が使っていた盾を持たせていたが、次からこれを持たせる」
「コバルト金属製だってね。前より堅いんだ」
「他にも機能を持たせてる。あと、アーリィー。君が盾を欲しがっていたから、それ用でもある」
「持っていい?」
アーリィーが確認してきたので、俺は「どうぞ」と応えた。彼女は手に取ると、盾の裏のバンドに腕を通しながら言った。
「それで、この盾の機能って?」
コバルト金属、略して『コバ金』




