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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1775/1883

第1765話、抗戦派魔術師たちの最期


 圧倒的な力の差だった。

 シェールィ・カニェーツは、その光景に目を奪われた。


 ジン・アミウールとクルフ・ディグラートル、そして連れの暗黒騎士。前者二人は自称ではあるが、そんなことはどうでもよくなっていた。


 神聖・魔法国の抗戦派――ジンやクルフの話から、逃亡を選ばなかった者たちは、彼らの一派を率いて戦いを挑んだ。

 相手が高度な術者であるのは、会談中に魔法をぶっ放したこちらの攻撃魔法を、涼しい顔で防いでいた時点でお察しであった。


 そもそも、彼らはたった三人で敵地に乗り込みながら、まったく動揺していなかった。自分たちを害する者などいるはずがない、と根拠なく信じる上級貴族のようでもあり、最初は鼻についた。

 そういう人間は、口先だけでいざという時には大したことがないものだ。

 だが、彼らは違った。


 真の実力者が故の傲慢なる態度、太々しい発言。真の王者とはこういうものだ、と有言実行してみせている。

 魔法が駄目ならアンチマジックウェポンで。


 相手はたった三人。仮に本当にジン・アミウールやクルフ・ディグラートルだったとしても、数で囲めば倒せる。

 そう考えて、抗戦派は戦いを挑み……蹴散らされている。


 クルフと暗黒騎士は、近接戦を挑む魔術師に、武器とはこう使うのだ、と現実を叩きつける。

 それなりに武器も使える。そこら凡人よりも鍛えていると豪語していた神聖・魔法国の魔術師らが、本物の近接職を前に己の命を以てわからせられているのだ。


「……!」


 しかし何より、シェールィの心を掴んだのは、ジン・アミウールだ。

 彼は他の二人と違い、魔法を織り交ぜて応戦していた。近接戦も、抗戦派魔術師より格上であることを見せつけるが、攻撃魔法の使い方が何よりトリッキーだった。

 彼らは、神聖・魔法国の魔術師が対魔法防御に秀でた防具を身につけていて、攻撃魔法が効きにくいのを知っていた。だからクルフと暗黒騎士も、剛腕を以て魔術師を切り捨てていた。


 だがジン・アミウールは、その効きにくいとされている攻撃魔法を使って、抗戦派魔術師を血祭りに上げていった。

 多数で取り囲めば勝てる? 前衛と後衛が連携すれば倒せる?

 常識的に考えればその通りなのだろう。だがジン・アミウールには通用していない。


 彼の行動の一つ一つは、実に教育的だった。多人数を相手にする時は――、攻撃魔法が効きにくい相手には――、その戦いぶりは、シェールィには実戦でお手本を見せられているように感じた。


 こんな風にできたら、私にもできるだろうか――などと魅せられた。

 しかし、次第にシェールィにはとても真似できないと思わせるものに変わる。地味ながら、そこらの魔術師にはできない技を使い始めた。

 飛んできた矢を無理矢理軌道を変え、それぞれを別の魔術師に当てたり、防御魔法を使っている魔術師に直接風魔法を当てたり。


 何をしたかわかるが、どうやったのかわからない。そんなジン・アミウールの魔法を目の当たりにし、シェールィの脳裏にある言葉が過る。


『ジン・アミウールは、アミール神そのもの』


 それを聞いた時、誰もが信じなかった。シェールィもまた、感情がぐちゃぐちゃになっている時に聞いたとはいえ、信じられなかった。あの状況で、神であると信じるほうがどうかしている。

 だが、実際に魔法を使って戦っているさまは、なるほど伝説になっているジン・アミウール本人であると言われても納得できる。


 そして彼の伝説が本物であるとすれば、神であるという話も信憑性が出てくる。殲滅魔法を見ていないが、神聖・魔法国の魔術師を手玉に取るところを見れば、その恐ろしさは伝わる。

 彼が雑兵のように薙ぎ払っている魔術師は、世間一般の力量でいえば、冒険者でAランク級。それが十人もいれば、大体のことが解決する。


 シェールィは、ニーヴァランカの低レベルな術者はもちろん、複数の国で魔術師を見てきた。それらと比べても、神聖・魔法国の魔術師たちは優秀であり、彼らが決して口先だけで今の地位にいるのではないのを知っている。

 それが、一般兵よろしく捻られているのは、いかにジン・アミウールが地味に強いのかを物語る。


 ――私が彼と対峙したら、何秒保つ……?


 防御魔法をすり抜ける魔法の使い手。遠距離からの攻撃は、ジン・アミウールも防御魔法を展開しているからほぼ無効。アンチマジックウェポンで挑んでも、器用にヒョイヒョイ躱す上に、隙を見せれば剣で切られる。


 通常攻撃魔法が効きにくいなら、実体の剣や槍を魔法で飛ばして直接刺せばいい。こちらが弓矢でやっていることを、近接武器を飛ばして、複数同時に倒しているのだから始末が悪い。


 攻撃する人間の死角を巧みに使うのも恐ろしい。建物の屋上で落とし穴とか、普通そんなところで魔法を使う? その無意識の隙を衝いてくるのも、相手をよく観察している証拠である。


 遠近隙がない。一斉にかかって動きを止められない時点で化け物だ。神聖・魔法国の魔術師たちと、見ているところが違う。

 見れば見るほど、彼は、本当にアミール神なのではないか、そう思えてきた。



  ・  ・  ・



 抵抗する者に容赦しない、というのは、ベルさんもクルフも同じだった。

 片や大魔王、片や大皇帝。

 偉い人というのは、まあ逆らう奴には遠慮をしないのだ。


 俺たちと戦い、戦意を失ったネオ・ナチャーロの魔術師の生き残りは、降伏すればいいものを逃亡を図った。

 怪獣による世界破壊をお望みな連中である。そんな奴を逃がしていいのか? 否、逃がさない。


 交戦直前、ベルさんが遺跡全体にボス・フィールドを張った影響で、この一帯から出ることができなくなった。


 刃向かったネオ・ナチャーロの魔術師らは、見えない壁によって閉じ込められている現実が信じられず、どうにか脱出しようとして、ベルさんとクルフによって掃討されていった。


『あー、あー、主。聞こえるか?』

『やあ、ディーシー』


 遺跡の外で、アドヴェンチャー号でモニターしていたディーシーが念話してきた。


『そっちは終わりそうだが、気づいているか? 戦闘の前に、十数人が遺跡を離れたことを』

『おや、全員じゃなかったか』


 さすがにベルさんの閉鎖空間が展開される前に離れたのなら、仕方ないな。問題は、それが戦う気がある奴らの仲間か、それとも今回の事件から手を引き、どこぞで平和裏にナチャーロ魔法国を復活させる穏健的思考の持ち主かどうか、だ。


『追跡は?』

『もちろん、追っているよ主。抜かりはない』

『なら、よし。ここを片付けたら、しばらく様子見だな」


 俺は、荒れたゴーロス遺跡を眺める。空しい戦いであった。

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