第1758話、どこまで本当かわからない話
あれだけ内容の怪しい話ばかりしておいて、遺跡内の神聖・魔法国のアジトに通されるというのは、不思議な気分だった。
まあ、立ち話でする内容でもないと判断したのかもしれない。俺が話すはずだったのに、クルフが勝手に話を進めているせいで、こっちが聞こうと思っていた話は何も進んでいない。
ただ……無視するにも内容が気になって、そっちも聞いてみたい気になっていたりもする。
「――カニェーツ・ナチャーロ王妃。彼女はツヴェート公爵の娘であった。カニェーツ・ツヴェート、それが王妃になる前の名前だった」
クルフ・ディグラートルは、ラテースだった頃の話をして懐かしんでいる。一方、子孫であるらしいシェールィは、不機嫌そうである。
「どうして、私の知らない先祖の話がポンポン出てくるのか不思議でならないんだけど?」
「私は不死身。ついでに言えば不老不死。ナチャーロ文明時代では、私はラテースの名前で、君たちの先祖と矛を交えた。それだけの話だよ」
「そんな与太話を信じると思って?」
「信じるかどうかは、聞き手が決めることだ。私はただ事実を語るのみだ」
……さも真実を言っているふうを装っていますがね、この人。嘘とか記憶違いとか混ざっていそうで、いまいち鵜呑みにできんのよな。
俺でさえそれなんだから、シェールィたち神聖・魔法国の者たちには、演技が上手いのか下手なのかわからない詐欺師を相手にしている気分だろうな。
「ちなみに、王妃を見逃したという話はどういうことかしら?」
「最後の最後で、ナチャーロ王が王妃を捨てた。それを不憫に思って、保護したというか……うむ」
そこで黙り込むクルフ・ディグラートル。……どうしたの?
「子孫を前に言うべきことか、迷うのだが……」
「何、気になるじゃない」
「巷では、ナチャーロ人狩りが横行していた時でね。私は彼女を保護したのだが……一年後、子供ができたのだよ」
「……っ!?」
「……」
シェールィと、同席していた神聖・魔法国の者たちが絶句した。俺とベルさんは、そっと顔を見合わせた。
これって、アレだよな。
そうそう、こいつ、やりやがったぞ。
言葉にも念話にもせずとも、俺とベルさんの間にそんな内容が飛んだ。クルフ君の話が本当なら、カニェーツ・ナチャーロ・ツヴェートの子孫であるシェールィ・カニェーツは、もしかしたらクルフの遠い血縁の可能性が……。わぉ、何てこったい……。
「嘘よ、嘘!」
シェールィが席を立った。
「カニェーツ・ナチャーロが、反逆者クルフと子供!? それも私の――」
「落ち着け、シェールィ」
仲間の魔術師がなだめようとするが、シェールィはキンキンと響く声を出した。
「落ち着いていられる!? 先祖に、そして私に、反逆者の血が混じっているかもしれないなんて!」
「どうせ嘘に決まっている」
「――嘘かどうか、決めるのは聞き手だ」
クルフが非常に落ち着いた声で告げた。
「信じないことで、自分を守ることも人間の防衛本能だ」
「……とか真面目なことを言って」
ベルさんが、とうとう口を挟んだ。
「何をやることをやってるんだよ、お前は」
「当時の私は独身だったのだ」
クルフは肩をすくめた。
「未亡人を抱いた、それだけだ。何も罪に問われることはしていない」
……それはまあ、反乱に加担とか、別件におけるナチャーロ文明からしたら重罪人ではあるが、こと男女のことでいえば、文明崩壊後で王が死亡していて、かつ独身であるなら、不倫でもなく、普通に関係をもってのこと、となるのか。
ストン、とシェールィが席に座った。そして頭を抱えている。彼女の中で状況を整理しているのだろう。色々こんがらがっているようだから、すぐには終わらないだろうな。
もういいだろう。俺は、シェールィの隣に座っている幹部らしい魔術師を見た。
「話を進めましょうか」
「あ、はい……」
ちら、とシェールィを見て、その幹部は仕方なく応対した。大皇帝が鎮座していて、神聖・魔法国の者たちもどういう態度が正解かわからなくなっているようだった。
「今回、大陸の各所で、怪獣――これは便宜的な呼び方ですが、巨大な生き物たち、これを使って、地上にある文明を攻撃させている。これは、あなた方、神聖・魔法国の仕業ということでよろしいですか?」
「ええ、はい。まあ、そうです」
何故に敬語? 俺もそうだから、合わせてくれているのかな? それはともかく、あっさり認めたな。
まあ、尋問したルィーナクから大方は聞いていたから、こちらはそれをなぞるだけでいいんだけど。
「怪獣が世界を滅ぼしたら、あなた方は、魔術師だけの楽園である神聖・魔法国、神聖・ナチャーロ魔法国を建国する……。そういうつもりで、今回の騒動を」
起こし、と言いかけ、そういえば生物兵器の封印が自力で解けなかったから、時効まで待っていたって話だったな。
「――利用した、と。ここまで何か訂正すべきことは?」
「ありません」
幹部らしき魔術師は認めた。尋問での証言の裏はとれたな。よしよし――俺が満足していると、幹部魔術師は手を挙げた。
「一つ、よろしいか?」
「何か?」
「あなた方は、ここへは何をしに来られたのでしょうか?」
元大皇帝であるディグラートルがいるせいか、だいぶ畏まった口調である。魔術師至上主義のナチャーロ文明の後継者を名乗る者たちも、よくも悪くも偉大な大皇帝という評判の人物を前にしては、萎縮してしまうのかもしれない。
さらに宿敵クルフ・ラテースかもしれない云々と聞かされ、たぶん信じていない方が多そうだが、感情の置き方に困っているのかもな。
言っていいよな? 俺がベルさんを見ると、無言で『言え』と言わんばかりに顎を振った。周りの連中が一斉に襲いかかってくる事態も予想されるが、いいよな?
「我々は、怪獣騒動の決着のために動いています。有り体に言えば、あなた方の野望の阻止です」
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