第1751話、近づくもの
名前繋がりというわけではないが、カニェーツ・ナチャーロという王妃にして予言者のことを調べる。
……というのをベルさんたちに任せると、俺は一度図書館を出て、アドヴェンチャー号に連絡を入れた。シーパング情報局と通話するために中継してもらうためだ。
少し待っていたら、通信機に、情報局局長のグレーニャ・ハルが出た。
『何か成果があったのかしら?』
「どうかな。前進しているとは思う。ただ、ちょっと調べてほしいことがあってね」
『何かしら?』
「シェールィ・カニェーツについて」
今どうなっているか聞いてみれば、グレーニャ・ハルは答えた。
『ニーヴァランカ正当軍の方では行方不明ね。シーパング同盟軍が、正当軍に対して報復攻撃を開始したから、現地はそれどころじゃないけれど』
「戦闘に巻き込まれた?」
『いいえ、あの事件以降、姿を消しているのだわ。今も探しているけれど、情報局でも足取りが掴めない』
「ふうーん、そうか……」
マールスティル氏が死んでから、今に至るまで不明のまま……。怪しいね。師匠の殺害に関係があるんじゃないかっていう推測、関係あるどころか犯人説濃厚だ。
『で、唐突にシェールィ・カニェーツのことを聞いてきたということは、何かあったのかしら?』
グレーニャ・ハルが問うてきた。
『まさか、ただ思い出したから聞いたってわけじゃないわよね?』
それほど暇じゃないのよ、と怒りそうな雰囲気だったので、「ただ思い出したから」と冗談を言うのはやめておこう。
「こちらの調べ物をしていたら、カニェーツの名前が出てきたから、ちょっと気になってね」
ということで、俺はナチャーロ文明人の予言者の話と、最後の予言者がカニェーツの名前を持つ王妃様だったということを報告する。
『単なる偶然……の可能性はあるわよね?』
「偶然にしては、ちょっと色々怪しいのが重なっているんだよね」
だから、本当に偶然だったとしても、マールスティル氏を殺害された事件を解く鍵として、シェールィ・カニェーツのことは調べておきたい。
「殺害はともかく、その後の研究室の火事の犯人の可能性は高い。ナチャーロ文明、予言の証拠品を燃やされたと考えると、どこかしらでカニェーツ・ナチャーロと関係があるかもしれない」
『子孫?』
「可能性があるなら、調べるべきだろう」
『わかったのだわ。こちらでも重要参考人として追跡態勢を強化する。何か――』
そこで通信機がノイズを拾った。というかグレーニャ・ハルの声が聞こえなくなった。
「ハル? 局長? ――アドヴェンチャー号」
通信を中継しているアドヴェンチャー号の方で何かあったか確認する。機にはシェイプシフターがいるが――
『マスター、遠距離通信が妨害されているようです』
「妨害だって……?」
どういうことだ? 魔力式通信に妨害って。
『何かフィールドのようなもので遮断されたようです。この都市の周囲にのみ影響しています』
「警戒しろ。どうやら歓迎したくない奴が現れたかもしれない」
『了解』
「ディーシー、聞こえるか?」
俺は周囲に視線を走らせつつ、念話で呼びかける。
『どうしたのだ、主?』
「この都市に魔力を通さない結界のようなものを張られたみたいだ。もう一度魔力スキャンをかけろ」
侵入者かもしれない。どこの何者か知らないが、通信を遮断してきたところからして、たまたま遺跡を見つけた探索者ではないだろう。
図書館からベルさんが出てきた。
「敵か?」
「可能性は高い」
「フン……」
ベルさんも周囲を窺う。ディーシー――ダンジョンコアほどの広範囲スキャンには及ばないが、精度の高い魔力スキャンができる。それ以外にも、独特の嗅覚のようなもので、敵意をキャッチする。
『主よ』
おっと、ディーシーさんが全体スキャンを終えたようだ。
『反応なしだ』
反応なし。つまり異常なし――
『だが先のスキャンで確認した生き物の数が減っている区画がある』
「どういうことだ?」
最初のスキャンの時に確認した生き物の数を覚えて、その違いに気づいたってことか?
『また、1体消えた。主、これは推測だが、魔力スキャンを回避できる何かがいる。それが針路上にいる生き物を無視できず、排除しながら進んでいるようだ』
なるほどね。生き物が連続死というのも奇妙な話だ。クローキングアイテムを持った何者かが、障害を排除していると考えれば、この不自然な消滅ももっともらしく聞こえるというわけか。
「その不自然なロストは、こっちに近づいているか?」
『おそらく。何せ、『それ』が何かこちらから観測できていないからな』
オーケー、相手の正体を確かめたいところだが、魔力スキャンを逃れる一方で、姿が見えるという保証もないからな。目視でも見えない場合を想定すれば、外で見張るのは危険だ。
「ベルさん、何かわかるか?」
「いや、まだわからんな。もう少し近づいてくれば、もしかしたら」
「図書館の中に戻ろう。『それ』が俺たちを追っているなら、向こうからやってくるだろうさ」
待ち伏せしてやる。もし俺たちが目的でないなら、ディーシーのスキャンで、この都市にいる地下生物の反応が消え続けていけばわかるだろう。
「なあ、ジン、何だと思う?」
「この都市に棲む肉食獣……という可能性は低いよな」
魔力スキャンが効かない生物かもと思ったが、それが現れる前に、都市の外との魔力通信を遮ったことを考え合わせると、人間か、それに準ずる知的生命体だろう。
「ここを知られたらマズい者……」
もしかして、シェールィ・カニェーツか、その関係者か?
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