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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1757/1884

第1747話、戦闘の行方


「――ネーヴォアドリスに侵攻したニーヴァランカ軍は全滅……」


 ジン・アミウールの分身は、戦艦『バルムンク』の艦橋にて、その映像を見ていた。本物のジンは、今頃、遺跡探索中である。

 クルフ・ラテース――かつてのディグラートル大皇帝の記憶を辿り、怪獣とか崩壊の日とか、その手の説に決着をつける証拠探しのために。

 それまで代理として任された分身は、シーパング同盟軍からの呼び出し――救援要請があった場合に備えて待機中である。


「ニーヴァランカに乗り込んだ同盟軍部隊も順調のようだね」

「そのようですね」


 戦艦『バルムンク』のチーフオペレーター席にいるラスィアは、その長い黒髪をかきあげた。


「双方の軍備の差を考えれば、当然の帰結というものでしょう。同盟軍の策定した対ニーヴァランカ戦略通りに進んでいるようです」

「報復については、数日で終わるんだろう」


 分身は首を傾けて、胡散臭(うさんくさ)そうな顔になって戦術モニターを見やる。


「正当軍は、早々にネーヴォアドリスに詫びを入れないとおしまいだろうな。……まあ、大帝勢力が、この隙を見逃さないだろうけど」


 正当軍勢力が弱体化するのは避けられない。そこを大帝軍が攻めかかり、一気にニーヴァランカを統一する。

 国が一つにまとまれば、治安の問題は多少は改善するだろうが、問題は――


「大帝派勢力というのは、シーパング同盟についてどう思っているか、なんだよな」


 今回の正当軍弱体化の原因は、まさに自滅ではあるが、それを後押しするシーパング同盟の行動について、大帝勢力が要請したわけでもない。

 つまり、勝手にやっただけだ。それを恩に着るような考えは持たないだろう。それで恩を感じろというのは、厚かましいけど。


「国を一つにまとめ上げた後、独立独歩を行くのか、同盟に加わるか、加わらないまでも友好関係を築くのか」

「ほんと、謎ですからね」


 ラスィアも考えるように目を閉じた。


「同盟と協調路線の方針があるなら、とうに接触してきてもおかしくないんですけれど」


 統一したら仲良くしましょう。あなた方の敵になるつもりはありませんから、お手伝いしてくれませんか?――などなど、そういう接触は、今のところシーパング同盟は受けていない。


 武器や物資を売ってくれ、というのもなし。大帝勢力は、正当軍――前政権とシーパング同盟は繋がりがあるだろうから、関係は結ばない、と考えているかもしれない。

 敵に近いと見ていたとしても、ここまで敵対行動をとらなかった辺り、きちんと戦力差を見定められるだけの目はあるのだろう。


「今のところ、敵とも味方とも思っていないように見える」

「下手にこちらに手を出したら、正当軍のように攻撃されるから触れなかったのかもしれませんね」

「極めて妥当。まともだね」


 敵かもしれないと疑わしくても、刺激を与えて完全に敵に回すつもりはないわけだ。


「やっぱり、統一してからかなぁ、本格的な接触は」

「今回、私たち同盟側が正当軍を攻撃しましたから、少なくとも敵としては見なくなるかもしれません」

「平和が一番だよね」


 大帝派、ヴァラン人と、正当派、ニーヴ・ランカ人の争い。……日本にいると、こういう争いについて疎くていけない。多民族国家の悩み、争いというのと疎遠になりがちである。


 分身は、魔力缶のプルタブを開けて、それを取り込む。元はディーシーが魔力供給目的に作ったものだが、魔力で体を構成している分身も魔力チャージに魔力缶を使っていた。人間用のマジックポーションなどとは違うため、普通の人間では魔力缶で魔力チャージはできない。

 本当はこんな飲むような真似をしなくても、魔石に触れるとか、シードリアクターの魔力を直接取り込むこともできる。


 閑話休題。艦橋内に着信の音がなり、シェイプシフター通信士が応じた。分身は皮肉げに笑みをつくった。


「そろそろ呼び出しかな?」


 ネーヴォアドリスに出現した怪獣――オオサンショウウオもどきの対処。現在、同盟軍がこれにあたっているが、上手くいっていない。それでも民間人に被害が出ても困るので、ジンの分身と『バルムンク』は待機しているのである。


『閣下、同盟軍艦隊より、怪獣の対処要請です』


 案の定、助けてくれという話だった。分身は苦笑する。


「さて、本物は怪獣を倒してしまっていいかを調べに行っているわけだけど、クルフ・ラテース氏のお話だと、あれは倒してしまっていいんだよねぇ」

「倒しますか?」

「倒せるか、って問題もあるけどね」


 オオサンショウウオもどきの体表のドロドロが外部からの攻撃を防いでいる。同盟軍艦隊が魔導放射砲を使ったが、これでも倒せなかったという。ヤドカリ型も面倒だったが、こちらも相当なタフさである。


「こっちにお呼びがかかったところからして、地形がグチャグチャになっても許容されるって解釈でいいんだよね?」


 11連魔導放射砲やレールガンなど、着弾による周囲の地形破壊は相当なものである。だがそれでも同盟軍が呼んだということは、それくらいしないと倒せないと認めたことに他ならない。


「ラテース氏の見解を信じて、倒す方向でやろうと思います」


 分身は宣言した。


「それで通用しなかった場合、本物が何か有用な情報を持ち帰るまで、転移で振り出し作戦をやります」


 要するに転移照射装置を使って、怪獣が出現した地点まで戻す。怪獣が移動したら、一定のところまで進んだらまた戻す。これの繰り返しで時間稼ぎだ。

 プランBまで用意したところで、分身は『バルムンク』の移動を命じた。ヤバい時はジン・アミウール頼み――その代理を任される分身であるから、その役割はきちんと果たすのである。

 分身はキャプテンシートについたまま目を閉じ、念話を使う。


『あー、あー、聞こえるかな、ジン本物氏』

『――聞こえるよ、分身君』


 ジン本人も念話を返してきた。


『君が知らせてきたということは、バルムンクにお呼びがかかったんだな』

『そういうこと。一応、倒す方向でやるけど――』

『言わなくても、俺の分身だ。何を考えているかわかるさ」

『だね……。で、そっちの状況は?』


 何か怪獣に関係するヒントなどあればとも期待する分身。ジンは返した。


『今は、地下都市ニェードラに到着したところだよ。これから下りるところだ』

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