第1746話、対ニーヴァランカ報復戦闘
シーパング同盟軍は、ニーヴァランカ正当軍に対して戦闘行動に移った。これは議会での報復出動の発令、そして宣戦布告の直後、速やかに実行された。
第17機動部隊が国境に展開していたように、同盟軍はただちに戦争に突入できるよう準備を進めていた。
平時において、たとえ敵対していない国に対しても、戦争になった場合、どう行動し、相手を打ち負かすか、その研究は行われている。
平和であっても、軍は戦争のことを考え、備えなければならない。いざ事が起こった時、これからどうしましょうか、では話にならないのである。
シーパング同盟軍の想定する対ニーヴァランカ正当軍への対応は、まず彼らの拠点を空爆。彼らに欠けている航空能力を一方的に見せつけ、砦や城が何の役に立たないことを思い知らせる。
その後、陸上部隊による空挺降下で、拠点を制圧。圧倒的な戦闘力の差を見せつけて、降伏を迫る――それが同盟軍の対ニーヴァランカ正当軍への戦略となる。
シーパング情報局が収集した正当軍の軍備、戦力と照らし合わせた結果、策定された攻勢作戦となる。
かくて、その第一波として、トロヴァオン大隊が、正当軍南部拠点アヴェーン砦を急襲した。
『上空に敵影なし』
「トロヴァオンウイング。こちらトロヴァオン・リーダー」
マルカス・ヴァリエーレ中佐はトロヴァオンEⅢのコクピットから指示を飛ばす。
「第二中隊は、砦への攻撃を開始せよ。第三中隊は、突入準備。第一中隊は、上空警戒」
『了解、トロヴァオン・リーダー。第二中隊、続け!』
ジェイス・ウィチェック大尉率いる第二中隊が高度を落とし、砦への対地攻撃を開始する。
地上の砦の周りには、これといって防御設備は見当たらない。しかし砦の尖塔の一つには魔法砲台が設置されている。
これはアポリト魔法文明時代の巡洋艦が搭載していた砲を無理矢理使えるようにしたものだが、広い範囲を射界に収めていた。連射はできないが、当たればトロヴァオンとて無事では済まない。
「……それにやられるような間抜けはいないだろうが」
マルカスが見守る中、第二中隊のトロヴァオンは対地誘導弾を発射。一番危険な砲をまず吹き飛ばし、さらに尖塔、城壁を破壊した。
「第三中隊を突っ込ませる必要はないか……?」
12機のトロヴァオンが通過した砦は、すでに半壊状態であった。城壁は崩れ、砦そのものも二階以上は破壊されている。
「これでは訓練と変わらないな」
もはや実弾演習そのもの。おそらくニーヴァランカ正当軍側は、同盟軍の報復攻撃をまるで考えていなかったのだろう。そんなところに先制攻撃を受けてしまえば、ろくな防衛もできず為すがまま。
大戦から数年。ニーヴァランカ正当軍だって、大帝軍と戦い続けて、まったくの素人というわけではない。
むしろ戦い続けているだけに、兵士としての練度は高いのではないかとマルカスは思う。
だが彼らは近代的な航空戦力に関しての知識にまったく欠けていた。大陸戦争の時と同様、ディグラートル大帝国の機械軍団によって蹂躙されてしまった時から、想像以上に進歩が見られない。
――航空機がなくても、それがどういうものかの知識くらいはあると思っていたが……。
せっかく用心したのに、その意味もなかったのではないかとさえ思えてくる。もっとも、これはこの状況だからこそ言えることであって、警戒するのは間違っていない。
「だがこれでは、気を付けろと言ってもルーキーたちは、ニーヴァランカを格下に見てしまうんだろうな」
油断するなと言っても油断してしまう。犠牲なく任務がこなせるのはよいことで、戦闘処女を問題なくこなせたのは、新人たちには喜ばしいことだが、相手が弱すぎても、彼、彼女らのためにならないのだ。
・ ・ ・
シーパング同盟軍の報復攻撃は、ニーヴァランカ正当軍の南部拠点を一日のうちにほぼ壊滅させた。
ネーヴォアドリス遠征に、有力な魔人機を投じたことで、機械戦力が不足。同盟軍の機械部隊の前に、為す術がなかった。
同盟側としては、ニーヴァランカの内情について関わるつもりはなく、正当軍、大帝軍、どちらが勝とうが関心は薄かった。
しかし結果的に、正当軍の戦力を減らすことは、大帝軍に利する行為となった。元々、シーパングと関わっていた政権側の正当軍ではあったが、今回のネーヴォアドリスへの侵攻は、己の首を絞める行為に他ならなかったのだ。
一方、ネーヴォアドリス軍は、旧トレイス領に侵入した正当軍の撃滅に動いていた。幾つかの集落が襲われ、破壊と略奪があったと見れば、ネーヴォアドリス軍は怒りに燃えてニーヴァランカ正当軍へ猛攻を仕掛けたのである。
次々に駆けつけるネーヴォアドリス軍によって、前進はおろか、退路も絶たれ、包囲殲滅される正当軍である。
ネーヴォアドリス軍の魔人機アズゥの新型は、正当軍のカリッグやドゥエルタイプといった旧式機を次々に撃破していった。
『くたばれ、穴熊ども!』
ネーヴォアドリスは、大帝国にも屈さなかった列強である。連合国でも同じく武装強国だったニーヴァランカだが、その差は歴然だった。
シーパング同盟と共に歩んだネーヴォアドリスの装備と戦術は、ニーヴァランカ正当軍を圧倒する。
マギアライフルの射撃を浴びて、正当軍のカリッグが倒れる。弾幕に怯み、遮蔽に身を屈ませる正当軍魔人機だが、その隙に前進したアズゥ・ドイスの別動隊が肉薄。サンダースパイクを突き刺した。
『馬鹿な!? こんな――』
驚愕する正当軍指揮官だったが、彼のドゥエル・ランツァに、アズゥが斧を振り上げ襲いかかった。
『お前らがここまでこれたのは、数の優位というだけだ!』
ヒート斧が、ドゥエルの胴体に刺さり、両断される。
『数が同じ状況ならば、負ける要素はない!』
ネーヴォアドリス軍は、旧トレイス領に侵入した正当軍を殲滅し、倒れた守備隊の仇を討ったのであった。
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