第1726話、次の怪獣
「閣下、面倒なことになりました」
同盟軍第一艦隊旗艦『トレランティア』に戻った俺とベルさんを、グレイ・オクトーベル大将が司令塔で出迎えた。
ベルさんがすかさず返す。
「もう面倒に巻き込まれているよ」
「他に怪獣が出たとか」
俺も続いた。揚陸艇で聞いた速報では、大陸南方の国エルガシオ方面――ハーランディから救援要請が出ているって。
「ええ、怪獣のようです」
オクトーベル大将は深刻さを滲ませる。
「まだこちらが片付いていないというのに」
「もう片付くんじゃね?」
ベルさんが戦術モニターを見上げる。我らがスーパーロボット、ベルクドライが、ブァイナ装甲材製の巨大ブレードを、再生中のヤドカリ型怪獣に対して構える。
「あれ? 中にマギアブラスターをぶちこんで焼くんじゃなかったっけ?」
「特に手順は話していないから、プリムが好きにやるんじゃないか? それか、後の研究のために、ブァイナブレードでどこまで切れるか試したり」
「でもブァイナブレードって、とりあえず折れない、欠けない剣ってだけだろ?」
「魔力を通すと硬度が増すけど、威力のほうもあがるんだよあれ」
俺が言うと、ベルさんが目を剥いた。
「そうなのかよ。けっ、オレ様も専用のやつ作らせようかな」
魔王様は全部自力でできちゃうもんねぇ……。それはそれとして。
「やるぞ」
ベルクドライがヤドカリ型怪獣に上段からの斬撃を見舞った。
「それは無茶ってもんだぜ」
ベルさんが突っ込む。ありゃ一番硬そうなところだもんな。背中の山のような装甲を――
「おお?」
火花が散っているね。刃を押しつけているが、表面をチェーンソーの如く削っているような。……ああいうことできるようになってるんだ、あの剣。俺の知らない間に、武器も進化していたんだな。
俺はコンソールを操作して通信機能をオンに。
『だーっ、ダメだぁ!』
プリムの絶叫が響いた。タイミングが悪かったな。
「一番硬いところは駄目だったな」
『やだ、パパ!? 見ていたの!?」』
通信機から俺の声が聞こえて、びっくりしたんだろうね。通話入ってるよー。
「俺だけじゃなくて、皆が見ているよ」
『オーケー、ちゃんとやる』
ちゃんとやってなかったのかい! とまあ、彼女の発言をそのまま受け取るとあれだけど、この場合のプリムは、気合いを入れるとかそういうのであって、仕事は真面目にやっている人間なので、そこは誤解なきように。
ベルクドライは、ヤドカリ型怪獣の頭部部分にブァイナブレードを突き入れた。そして剣の刃が発熱し、そこから赤い炎――マギアブラスターのそれを放った。……新機能か!
「あれってそういう剣だったっけ?」
ベルさんも初見だったらしく、俺に確認してきた。俺も知らなかったよ。
ともあれ、内側から強烈なマギアブラスターを喰らい、怪獣は中から溶けた。これはさすがにくたばったか。
「やったか?」
「ベルさん、それはフラグ」
艦隊からの確認では魔力、生命反応は観測できず、怪獣は死んだと判定される。改めて調査班を送って近くで調べさせるとして。
「とりあえず、ここは終わったか」
「そう思いたいですな」
オクトーベルは首肯した。
「確実に倒せたのであれば、次はエルガシオの怪獣ですが……」
「まだ同盟議会からは、出動要請は来ていない」
「そうなります」
あくまで同盟議会は、ゴーラト王国の救援要請に応えての艦隊を出撃させた。これで別の怪獣が現れたからと、即同盟艦隊が動くわけにもいかない。国家間の問題になってしまうからね。戦時ならともかく、今は平時だ。
「今頃、ジャルジーが議会の緊急招集をかけてるんだろうな」
「組織がデカくなると、初動がどうしても遅くなるからな」
ベルさんが皮肉った。
「大陸南方と聞いて、レヴィアサンの卵が孵ったのかと思ったぜ」
「確かに。クレサータとエルガシオは比較的近い……というか」
「隣ですな」
オクトーベルは、戦術モニターを操作し、大陸南方地図を出した。海岸線のあるクレサータより西に内陸へ入った隣がエルガシオ地方である。
「こいつは偶然か? タイミングも含めて、レヴィアサンと位置が近いのは」
それに対して、答えられる者はこの場にいない。
エルガシオに現れた怪獣のデータが送られてくる。全長80メートルほど。四足の亀――いやドラゴンのようなそれが、地上を闊歩している。背中には、びっしりとトゲのような突起が生えている。
「一般的なドラゴンとも違うっぽいなぁ」
ベルさんがそうコメントした。これまで見たことがない種だからだろうね。ドラゴンというより、まさに怪獣という形をしている。
「それより、これ、どこに向かっているんだ?」
「東に向かっているようですな。ひょっとして」
オクトーベルは嫌な予感がしたようで、戦術モニターの表示を操作する。クレサータ地方のレヴィアサンの卵の位置を表示、エルガシオの怪獣の針路を出すと――
「重なるな」
「あの怪獣、レヴィアサンの卵を目指しているってか?」
「これも偶然、と否定するには材料がないな」
俺は首をかしげる。
「仮にあの怪獣が卵と接触してどうなるというんだ? 卵を壊すのか? それとも喰うとか?」
「厄介の種を減らしてくれるんなら、それはありがたいことなんだがね」
ベルさんは、真面目ぶる。
「どうにも、悪い想像しかできないのはオレ様だけか?」
「俺も同感だよ」
理由はわからないが、接触させてはいけない気がする。根拠もどぼしいが。
「とりあえず、俺たちだけで行くか」
「そうだな」
俺の提案に、ベルさんは頷いた。同盟艦隊は、すぐには動けない。平時の軍隊はお国の指示に従うものだ。
「オクトーベル大将。ここの後始末と、同盟議会の指示を待つように」
「了解です。……しかし閣下は?」
「俺とベルさん、ここではオブザーバーだからね。軍人としているわけではない」
だから、自由にやらせてもらう。
「俺たちはSランク冒険者なんでね。魔獣退治に関して、国や地域の許可は常にオープンなんだよ」
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