第1724話、同盟軍艦隊 対、ヤドカリ型怪獣
怪獣は、ゴーラト王国の王都を目指している……というのは間違いない。
しかし、そこは生き物。闇雲に一直線というわけではなく、あっちへふらふら、こっちへふらふらと、どうも動きが怪しい。
これは昆虫の動きが、人間には理解し難いのと同じかもしれない。右へ逸れたかと思えば、突然立ち止まり、しばらく休憩したかと思えば、左へふらふら。それでも王都のある方角へ修正されているから、何とかしなくてはならない。
地上部隊を展開させていたら、待ち伏せるにしても、かなり待たされたのではないか。シーパング同盟軍艦隊は、空からヤドカリもどき怪獣を視界に捉えた。
「全戦艦、横陣に展開せよ」
第一艦隊を率いるオクトーベル大将は指示を出した。
ドレッドノートⅢ級戦艦8隻は、単縦陣から単横陣に陣形を変更する。艦首を怪獣に向けて、艦首全プラズマカノンの砲身を正面に向ける。艦尾側の主砲は、四十五度角度をスライドさせ、艦上構造物を避けて、艦首側にその砲口を向けた
トサ級、キイ級突撃戦艦と同様の回転式甲板により、全主砲を正面に揃える。
『各艦、目標を照準』
『目標、現在、静止中』
怪獣も、正面上空に現れた艦隊が見えているのかもしれない。止まってくれれば、ほぼ必中だろうが、こっちが撃ったら、即避けそうだな。
『第一、第二戦隊、射撃準備よし』
「閣下」
オクトーベル大将が司令長官席から視線を寄越した。うん、俺から言うことは何もないよ。
頷きをもって返事すれば、オクトーベルは正面に向き直った。
「第一、第二戦隊、撃ち方はじめ!」
ドレッドノートⅢ級戦艦のプラズマカノンが青い閃光を放った。
18門の40.6センチプラズマ弾、16門の30センチ弾、それが8隻分。144と128、合わせて272発。普通の生き物ならば、一発でも致命傷になりかねないそれが嵐のように叩き込まれる。
戦艦群が一斉に放ったプラズマ弾は、怪獣に吸い込まれ――着弾の寸前、怪獣が横歩きを始めた。
その山にも見える部分を含む胴体に、青い光弾がぶつかる。怪獣は殴られるサンドバッグのように揺さぶられた。移動した分、はずれた光弾が後方、遥か彼方に落ちて地面を抉り、土埃を飛び散らせる。
「足が細い割には、よく耐える……!」
あれだけ打撃を受けた怪獣だが、踏ん張って転倒を免れた。着弾によって爆発がいくつも起きたが、それらは表面に留まり、貫通した様子はなかった。
『怪獣、依然として健在!』
飛散した土煙を漂わせながら、その偉容を誇示する。アンバンサーの宇宙船だって、吸血鬼軍の戦艦だって破壊したプラズマカノンの雨を受けてなお、動けるとは。ワームヘッドモンスターもそうだったけど、デカいやつはタフだねぇ。
「第二射、撃ち方はじめ!」
オクトーベルは命じた。
「艦砲射撃、3分、集中射」
8隻の戦艦のプラズマカノンが怪獣めがけて、さらに撃ち込む。そうそう、一回耐えたからって、連続して当てたら、もしかしたらあの強固な背中の装甲も剥がれるなり割れるなりするかもしれない。
むごいようだが、3分間、怪獣はひたすら連打を浴びることになる。果たして、その装甲が壊れ、息絶えるか。はたまた耐えきるか。俺は、それをじっと見守った。
「――お、やってるな」
不意に声をかけられ、振り向けばベルさんがやってきた。
「怪獣が現れたと聞いて、見物にきたぜ」
「暇人だなぁ」
ゴーラト王国の人たちにとっては、そんな観光とか見世物感覚じゃあ済まされないんだけど。
「どんな様子だ?」
「予想はしていたが、やっぱり頑丈そうだ」
「ほう」
ベルさんに、俺は怪獣のデータと戦術モニターごしに現状の様子を見せる。あっという間に3分が近づき、ベルさんは口元を緩めた。
「すっかり爆発と煙で見えなくなったな」
「だが着弾しているということは、まだそこにいるということだ」
「くだばっているか、それともまだ立っているか……」
「撃ち方やめ!」
3分となり、オクトーベルは砲撃の中止を命じた。
さてさて、おそらく5千発を超えるプラズマカノンを浴びた計算になるんだけど、どうなっているのか。城や要塞だって、残らないくらいの猛撃だが。
うっすらと煙が晴れ、その山のようなシルエットが見えてくる。うーん、これは――
『目標を確認! ただし、動きは止まっています!』
バラバラにならずに、いまだその姿を留めているとか、悪夢だねぇ。
「だが止まってるってことは、くたばったか?」
ベルさんは言ったが、次の瞬間、怪獣の目とおぼしき部位がキンと光った。
「?」
次の瞬間、光が俺たちの乗る旗艦――その右に位置していたドレッドノートⅢ級戦艦を直撃した。艦首からひしゃげ、そして戦艦が爆発した。この威力は……!
『「アグラーダ」、轟沈!』
「目から光線だと……!?」
オクトーベルは呻く。
「各艦、防御シールド展開! 怪獣はまだ生きているぞ!」
「ジン」
ベルさんがマジトーンの声を出した。ああ、わかってる。
「光線を放つ生物か。あれは魔法か、それとも改造生物の成れの果てか」
嫌になるねぇ、ほんと。
「閣下、魔導放射砲を使います!」
オクトーベルが宣言した。俺は頷いた。
「やってくれ」
まあ、あれだけプラズマカノンの雨に耐えた奴だ。正直、魔導放射砲でもダメかもしれない。マギアブラスター級か、アレを使わないといけないかもな。
『目標、前進!』
「構わん! 魔導放射砲、発射せよ!」
7隻になったドレッドノートⅢ級戦艦から、バニシング・レイ――魔導放射砲が放たれた。圧倒的な光は怪獣もろとも地面を抉りとり――
『怪獣視認! ですが、活動停止の模様!』
観測員の報告に、どよめきが起こる。戦術モニターに拡大して映し出される怪獣。その胴体は焼け焦げ、装甲にも破断の跡。何より――
「手足がないな」
「吹っ飛んじまったんだろうよ」
ベルさんはニヤリとした。
「だが胴体が残っているってのは、大したやつだな」
「本当に倒したか確認だな。……提督、怪獣に対して警戒配置を維持」
「了解です。……調査されますか?」
「そのつもりだ。ベルさん――」
「おう」
俺、そしてベルさんは、降下艇に乗って、怪獣調査チーム――倒した後のために待機させていた研究者たちと、地上に降りた。
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