第1719話、その頃の連合国は――
「おとーさん」
自宅で、ナチャーロ文明についての資料をシーパングのデータベースで検索していたら、愛しの娘であるリンが声をかけてきた。……ジャルジーところの長男、ボルク君も一緒だった。
君たち付き合ってる? と六歳児を見て思う俺は、過保護だろうか。
「どうした?」
「れんごーこくのことなんだけど」
「連合国?」
いきなり何だ? 事情を聞いてみたら、きっかけはボルク君だった。王族のお勉強で、大陸の地理についてやったらしい。
「それで国が九つあるんですけど……」
ボルク君が、俺に対して礼儀正しく振る舞う。これであのジャルジーの息子なんだぜ――という偏見。
「さいごの一つが思い出せないんです」
ふむふむ、人がパッと聞いて認識できるのは七つまでらしいから、それ以上出るとわからないものが出てくるよねー、うんうん。知らんけど。
「よしよし、じゃあ、連合国について、ちょっとお勉強しようか」
「おべんきょー、やー」
リンちゃん、反抗期。ボルク君が、うちの娘を睨んだ。
「お勉強できないとバカになっちゃうんだよ!」
「ばかじゃないもん!」
はいはい、ケンカはしないでねー。しかし、ボルク君も6歳なのに、もうがっつり勉強しているんだよな。教育熱心なのはパパかな、ママかな?
「七、八年前かな。かつて連合国がありました」
「いまはないの?」
「おっ、鋭い」
俺が言うと、リンちゃんにっこり。
あの大陸戦争の後、連合国は崩壊した。
かつて九つを数えた国々は復興しつつあるが、クーカペンテ、プロヴィア、ネーヴォアドリスが、シーパング同盟に加入し、連合を離脱。
「くーかぺんて、ぷろう゛ぃあ、ねーう゛ぉあどりす……」
ボルク君が指を折って復唱した。国名をカウントしているのだろう。さて、どの国の名前を忘れているかな?
残る国は六つ。……なんだけど。
「ニーヴァランカ、ウーラムゴリサ」
真・ディグラートル大帝国の侵攻で国家として消滅した。さらに大帝国とスティグメ吸血鬼帝国との戦いで――
「カリマトリア、トレイス」
こちらも消滅。九つのうちに四つが滅びてしまったんだよ。つまり、お国ないない。ボルク君の手が片手から両手になった。
「テレノシエラ」
不毛なる山岳地帯の小さな国。周囲から放置された結果、存続しているが独立独歩。元連合国への義理はなく、さりとて外国と付き合う気もないようで、同盟とは細々と交易をしている程度の繋がりである。
残るのは。
「セイスシルワ――」
「それだ!」
ボルク君が声をあげた。答えがわかってスッキリした顔になる。そうかそうか、セイスシルワだったか――ふーん。
「おとーさん……?」
リンが心配そうな顔で、俺を見た。おや、表情に出たかな。
「この国には因縁があるからね」
「先生も、あまりよくないって言ってました」
ボルク君の発言に、リンは首を傾げる。
「なにがよくないの?」
まあ、因縁だよ。では、悪名高いセイスシルワの話をしようか。
あの戦争を生き延び……しかしその後、まあ大荒れしたんだよ。
オターロ王という日和見の無能は、大陸戦争への参加も消極的で、しかしいざ国が戦場になった時、王は民を見捨てて逃亡。さらに庇護下においてもらおうというシーパング同盟の女王坐乗の旗艦と衝突事故を起こすというおまけ付き。
そんなんだから同盟からも白眼視され、戦後復興に関しても、どこからの支援も受けられなかった。
そもそも俺は、最初に言ったんだよ。戦争協力の度合いによって支援するって。だが軍備だけもらって、戦争に貢献しなかった――途中に一度だけ参加したが役に立たず――、それで支援だけクレクレなんて、虫のいい話が通るわけがないのだ。
結果、王に対する不信が募っていたセイスシルワで反乱が起き、オターロ王は打倒された。
せっかく戦争が終わったのにね。民は、王の本性を知ってしまったわけで、こんなのの君臨を許さなかったのである。その件に関して、同盟に加わっている元連合国の代表たちは、まったく同情していなかった。因果応報。
「それで、いまその『せいすしるわ』という国はどうなったの?」
「王様がいないから、今も揉めている」
オターロ王の親族と有力貴族の中で、王座に収まるために争っている。王族だから次の王になるのは当然という親族と、無能王の一族も戦犯と怒りが収まらない勢力が、ぶつかっている感じ。
シーパング同盟に加入していないので、こちらは基本的にノータッチだ。復興に忙しいのはどこも同じだし、まずは加盟国優先は当たり前。
そもそも、そのお国同士で争っているところに行くのは内政干渉になるから、頼まれない限りは手を出さない。交易しているわけでもないし。
「だから、今、連合国を自称している国は、二カ国になるわけだ。テレノシエラとセイスシルワ」
三つがシーパング同盟に。四つは滅び、テレノシエラは連合国というより独立しているムーブだし、セイスシルワはわからん状態。実質、連合国は滅びたと言ってもいいかもしれないな。
「ちなみに、リュミエールのママであるエレクシアママは、プロヴィアの女王様だ」
「おおっ!」
リンとボルク君が同時に声をあげた。我が家は、実は結構関係あったのよ、今のお話。
俺は、デスクのスクリーンを表示して、子供たちに連合国辺りの地図を見せた。かつての連合国九つ。これが同盟に加入して――こっちがなくなって――と時系列ごとに色を変える。
そして今の地図にすると、ボルク君が目を見開いた。
「ねーう゛ぉあどりすが大きくなってる!」
「戦後に元トレイスとカリマトリアに勢力圏を伸ばして、自分の国に併合したからね」
国を治めている人たちがいなくなって、崩壊してしまった国だ。特にトレイスは住民もほとんどいなくなっていて、すんなりネーヴォアドリスに吸収された。
が、カリマトリアはそうはいかなかった。
「ここには前の住民も残っている地方があってね。合併反対ということで小競り合いが起きているんだ」
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