第1714話、大きな卵というだけで
我が家は子供が多い。
人が増えるとまあ騒がしくもなるわけで、夕食の席の一つで揉めたりするわけだ。小さい子たちはママのそばがいいみたいだけど、4歳組より上は、ね。
それで毎日喧嘩となると、子供もそうだしお母さんたちもカリカリしてしまう。いっぱい愛しているのに、お父さんお母さんだって神様じゃない。体調もあれば精神的に疲れていることもあるわけだ。
だから、うちではゲーム感覚でクジ引きをやって、席決めをすることになっている。3歳より下の子は、基本それぞれのお母さんの隣と決まっているが、パパがいいという場合はクジ引き参加。4歳組以上はクジ引きだ。
昔はそれでも揉めたが、子供だって慣れるもので、最近ではそれで喧嘩になることは、ほとんどない……。たまに、昨日もだったじゃんとか、ずるいとか、そういうのはある。
とまあ、賑やかな日常的夕食を、家族揃って過ごす。この時は、子供たちだけでなく奥様方もいて、こちらはこちらでお話をしている。
さて、子供というのはお腹いっぱいになると現金なもので、仲のいい者たちと遊びに出かける。もちろん外出ではなく、家の中でだ。
食事前はあれだけギャーギャーうるさいのに、食べたらさっさと食卓から離れていくんだからね。もちろん全員がそうではないけど。
俺は、食後のお茶を飲みつつ、やってきたジャルジーに、とある写真を見せた。
「これが、マスターダスカが置いていったやつ」
「……卵だな。普通の」
ジャルジーが写真を取り、しげしげと見つめる。俺は微笑する。
「100メートルはあるらしいけどね」
「周囲に比較できるものがあれば、わかりやすいが、これだけだとイマイチわからんな」
ジャルジー王、為政者の顔。昔だったら、わー、すげー、ってガキみたいな反応をしてから、真面目な話に入ったものだが。王様の貫禄も板についてきたんじゃなかろうか。……貫禄と言えば。
「話は逸れるがジャルジー。お前さん、口ひげを生やしていただろう?」
すっきりして昔みたいに戻っている。まだ三十代前半だから、王として貫禄がどうこうと言っていたおぼえがあるが。
「どうしたんだ?」
「うむ、カリーンに言われてな。お髭がないほうがいいって」
末っ子ちゃんに言われてしまったわけか。なるほどなるほど、親馬鹿だなぁ。
「そうなのかい、カリーンちゃん?」
「お髭ないとジンおじさんみたいにハンサム」
近くでルマ、ジュイエとお絵描きしながらカリーンちゃんは言った。
「あらま」
俺を引き合いに出したのか。確かにおじさんはお髭は毎日剃っているけど。こういう言われ方されると、ジャルジーパパもね……。
「俺は何も言っていないぞ」
「わかってる。しばらくは若さアピールでやっていくことにした」
ジャルジーは手を振った。そして写真を見やる。
「それで、話を戻して、これは何の卵なんだ?」
「まだわからない」
ダスカ氏もお手上げだと言っていた。
「ドラゴン系の卵が近いらしいが……。なにぶんこのサイズだろう?」
「卵でこれなら、こいつを産んだ生き物はどれだけデカいんだって話になる」
ジャルジーは唸った。
「だが、そんな生き物がいたという話もないしなぁ」
10年に一度の災厄であるフォルミードーという超巨大飛竜でも、このサイズは胴体より大きくて無理。まさか卵が成長して大きくなった、なんてあり得ないしな。
「中身が何にしろ、産まれることになったら怖いな」
ジャルジーは正直だった。
「ベビーの時点で、このサイズだろう? 大人になったらどれだけデカくなるんだ?」
「地下世界には、馬鹿デカいモンスターもいたけど」
ワームヘッドモンスターか、数年前に確認されたワニ型の巨大化け物――昔行った水の古代神殿に出てきた化け物によく似たのとか、地下で確認されてはいる。
「それと比べても、こいつは破格だな」
「生きているというのが、何より問題だ」
ジャルジーは眉をひそめた。
「化石であるなら、大昔にこんな生き物がいました、で済むが、産まれた時のことを考えたら……」
「何がもんだいなのぉ?」
うちの長女であるリンが、俺の背中に張り付いて、覗き込んできた。写真を見て『何のたまご?』と聞いてきたので、それがわからないんだと答えた。
娘たちが集まってくる。
「わたし、図書館でしらべます!」
次女のリュミエールが、役に立ちたいアピールをしてくる。
「よろしく頼むよ」
「はい!」
素直で可愛い。我が娘は癒し。ジャルジーが咳払いした。
「この卵が何にせよ、これまで発見されてこなかったものだ。この卵を産んだ生物の最後の一体かもしれない。……そうなると、研究者たちがうるさい」
「保護しろ、とか、何かに利用できないか、とか。外野はうるさそうだなぁ」
「一国の王の立場から言わせてもらえるなら、これが安全な生き物ならばともかく、人類にとって危険な生物だった場合に備えて、卵のうちに処分してしまうべきだと思う」
「すてちゃうの?」
リンが聞いてきた。処分と聞いて『廃棄』と結びついているのか。賢いな。
「腐っちゃったの? お料理につかえない?」
「中身が生き物として形になっちゃったら、卵焼きはできないな」
子供って、時々怖いことをさらりと言うことがあるよね。
「そういえば、ベルさんにはこれのことを話したのか?」
ジャルジーが、そもそも、という顔になる。
「あの人なら、もしかしてこういうのに心当たりがないか?」
「まだ聞いていない」
子供がいっぱいいるから、夜遅くならないと来ないのよねあの人。今日はエマン前王が来なかったから、たぶんベルさんと飲んでいるんじゃないだろうか。エマン前王も、うちの常連だからね。
「後で聞いてみるよ。一応、卵のほうは研究機関が調べるが、万が一のこともあるから、頭の片隅に入れておいてくれると助かる」
「何もないことを祈っているが……無理か」
ジャルジーはため息をついた。そりゃあ、何もない方がいいけどね。
「生きているらしいからね。これまで眠っていたからって、今日明日にも動き出さない保証もない」
覚悟はしておいたほうがいいよ。何せ――
「今は卵の調査にかこつけて、周りがうるさそうだし」
その刺激で目覚めるなんて、ありそうなんだよね……。
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