第1713話、夕食前は、大混雑
地下世界に眠る古代遺跡。そして巨大な生き物の卵――浪漫だねぇ……ではちょっと済ませられないなぁ。
ダスカ氏から相談を受けた俺は、シーパング情報局に通知しておく。情報局局長のグレーニャ・ハルに、何かお話を伺えるのを期待して、だ。
……いやまあ、この手の情報があるなら、当に地下世界探索手引きなどに記載されているはずだから、望み薄ではあるけど。
ただ、ハルさんは、吸血鬼帝国にいて地下世界には、俺たちより詳しいからね。
ということで、ダスカ氏がお帰りになって、夕食のお時間。この時間は、まあ騒がしい。それでなくても、お子様が多くてね。
庭で遊んでいる子、家の中で遊んでいる子などなど、幼稚園じゃないかってくらいに騒がしくなる。毎日がパーティーやってるようなものだ。
メイドさんたちも大忙し。メイド長のネルケさんやヴィンデ、シェイプシフターメイドのヴィオレッタ、ヴェルデ、ヴェルメリオなどなど。皿を並べたり、それぞれの料理を運んだり。
そっちも忙しいが、俺の周りもね。子供たちが三々五々集まってくるわけだ。
「おとーさん、かたぐるまー」
「ずるーい! ジュイエも!」
三歳組のルマとジュイエが、もう俺にべったり。ルマは、リムネ。ジュイエはアヴリルの娘だ。この辺りは特に甘えたい盛り。可愛いやつめ、可愛いやつめ!
「ジンおじさん!」
おや、新しくやってきたのは、カリーンちゃん、3歳。おじさん呼びなのは、この子はジャルジー王とエクリーンさんところで長女……いや末っ子というのが正しいかな。
「こんばんは、カリーンちゃん」
「おひめさまー」
「カリーンちゃん」
同い年であるルマとジュイエが反応する。カリーンちゃんがこっちへ来たということは――
「兄貴」
「やあ、ジャルジー王」
ジャルジーとエクリーンさんがご夫婦で到着。随分とラフな格好なのは、俺の家でのルールというやつだ。呼び方や敬称についても、ここでは重視しないことになっている。
俺がジャルジーを呼び捨てにしようが、エクリーンさんをさん付けしようが自由だ。というより、ジャルジーが王城にいると、部下の前で肩肘を張らなければならないから、俺の家で息抜きをするのだ。
王族の礼儀とか作法にうるさくないとなると、ジャルジーとこの三兄妹がこっちへ来るのもまあ、わからないでもない。
そんなお二人のそばにいた次男のリーゲン君4歳が、うちの4歳組のところへ走っていく。ユーリ、ジュワン、ラッタが、やってきた王様の息子にフレンドリーな挨拶を交わす。
「アニキは?」
「うちの姉ちゃんと、ケンカしてる」
ユーリがやれやれという顔をすれば、ジュアンが肩をすくめる。
「こりないよなー、あの二人」
四人が視線をそちらに向けると、うちの長女とジャルジーの長男が、何やら言い争っている。
リーゲン君は、ラッタを見た。
「きょうは何をあらそってるの?」
「いつもと同じだよ。剣と魔法、どちらがつよいかって話」
4才児ながら、この中では長男のせいか落ち着いてみえるラッタである。……実際、この子、もう字の読み書きがそこそこできるのよね。
それもこれも、お姉さん組が一般の書物に手を出して、日頃から読書している影響なんだろうけど。
「お父さん」
おや、幼女なのに大人びている感じのこの声は――
「リュミエール」
エレクシアと俺の子であるこの子は、ただいま5歳。エレクシアの娘としては長女だけど、子供全体で見れば、リンに続く次女ということになる。
母親譲りの銀髪は、この子だけで、エレクシアが元々絶世の美女ということもあって、5歳にしてその片鱗が見えている。凄く大人しいけど、気弱ではなく、女王である母に似て、お淑やかなのよね。
子は親に似るというけど、リュミエールは間違いなくエレクシアを見て育っている。この歳にして秀才で、大人でも頭を悩ませる本でも普通に読んでいる。……ちゃんと意味を理解しているかは、ちょっと怪しいけど。
「今日は何の本を読んだんだい?」
俺は、リュミエールが後ろで隠すように持っている本をチラチラ見ながら言えば、彼女は満面の笑みを浮かべて、その本を見せた。
「魔術師とお姫様というご本です!」
最後まで読めました、褒めてくださいと顔に書いてある。
「よくできました」
頭を撫でてもらうと、凄くうれしそうにするんだ、リュミエールは。……ただ、この『魔術師とお姫様』ってあれだよな。プロヴィア国のベストセラーで、要するに俺とエレクシアをモデルにしたやつ。
俺とリュミエールのやりとりを見ていたエクリーンさんが、ふふっと笑う。ジャルジーもニヤニヤしている。
「ずるーい!」
「あたしもー」
はいはい、娘たちが頭を撫でてほしくて強請ってくる。仕方ないなー、こうもせがまれるとね。
「ここはいつも賑やかでいい」
ジャルジーが言うので、俺も食堂へ一緒に歩く。
「ここに来ると、子供たちもちゃんと自分の意思があるんだなって再確認できる」
「王城じゃあ、作法で雁字搦めだろうし、大きな声も出せないからね」
やれ家臣が見ている云々。王族って大変だよね。……と、さも他人事を決め込んでいるが、俺も王族に半分足を突っ込んでいるから、気持ちはわかる。
「だから、ここへ来たがるんだ」
「迷惑だったかい、ジャルジー?」
「とんでもない! オレも晩餐は、賑やかなほうが好きだ」
自分の子供の頭を撫でても、甘やかし過ぎでは云々と、小言を食らうことはない。
城では子供に我慢させねばならないこともある分、ここでは思う存分愛情を向けることができる。
そうであれば、子供に自分は愛されていないんだ、と思わせて悲しい気持ちにさせなくて済む。
「さーて、チビども」
ジャルジーは食卓につくと言った。
「今日のオレの隣は誰だー?」
毎日恒例となっている席決めのクジ引きのお時間だ。
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