表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1711/1884

第1701話、帰還手続き


 異世界勇者の召喚とそれに伴うその他取り決めだった勇者憲章は、異世界勇者の召喚禁止条約に変わった。

 加盟国の皆様には、異世界勇者に頼らず、自分たちの世界は自分たちで面倒を見てもらいたい。

 異世界人を拉致するのはやめてもらう。


 さて、紙の上では、条約が締結された。問題は、それがしっかり守られるか否かだ。

 条約は破られるためのもの、という寝言はゴミ箱にでも捨ててもらうとして、現実として、条約を守っていますよー、という裏で、実は密かにやってたりするのが世の中というものだ。


 こればかりはね、本当に世界を滅ぼすくらいしないと、変わらないんじゃないかなー。……そんな暇人じゃないし、クルフ・ディグラートルでもないからやらないけどね。

 現状での各国の異世界制裁機構への態度、条約の批准する気があるレベルかは、現在の勇者たちの送還作業への態度で、ある程度測れるだろう。

 俺は、この異世界で、言いように利用されてきた勇者、あるいは飼い殺し状態の勇者たちとそれぞれ面談し、送還の手続きをとった。

 要するに面談である。


「帰れるんですか!」


 そう言って、泣いて喜ぶ人たち。これはわかりやすい。


「……少し、考える時間をくれないだろうか」


 一瞬、嬉しそうな顔をしたかと思えば、考え込んでしまう人たち。このタイプはわかりにくい。

 帰りたいが、こっちの世界で、何か帰りずらくなる理由がある者。よくしてもらった程度なら、長いホームステイしたという気分で、自分の世界に帰ればいい。

 だがそうでない場合もある。


「実は、こっちの世界で家族ができまして……」


 はい、わかるよ、わかる。俺もアーリィーという奥さんができたからね。現地世界の人とくっついちゃった場合も、そりゃああるよね……。


「魔族は敵! 仲間の仇討ちをせねば、帰れぬ!」


 どこぞの世界の騎士様は、自分の信じる騎士道に殉じるおつもりらしい。こっちの世界の偉い人に利用されているだけなんだけど、個人で因縁を作ってしまった場合。

 こう異世界召喚者たちを一人ずつ見ていくと、召喚された異世界も色々あるわけだ。俺のいた世界で、よく異世界召喚、転生物ジャンルの読み物で、特に日本人がそれに巻き込まれるというのがあるけど、そういうこともなく……。


 いや、そうでもないのか。このリストの中に、日本人が五、六人くらいいるっぽいが、全体の傾向からすると、召喚されやすいのか?


 そういえば、ディグラートル大帝国の召喚でも、俺、ヨウ君、橿原は日本人、リアナも未来世界っぽいが地球人だった。……やっぱりあるのかな、そういう召喚されやすい何かが。


 閑話休題。因縁やら家族やら恋人を作った者たちには、要相談ではあるが、結局は自分で決めてもらうことになる。提案はするけど、俺は個人の意思は極力尊重したい派だからね。……尊重するとは言っていない。


「はあ? 私はこの世界がいいの。帰る気なんてないわ!」


 こういう勇者もいる。手に入れたチート能力を、上手く活用する術を得た者たち。元の世界より断然いい暮らしができるという、ある程度、未来設計ができているタイプ。……中には未来設計ではなく、チートがあれば何とかなるでしょ、という人生を楽観しているような不安な人もいたけど。

 中には元の世界に戻ると奴隷に戻るとか、借金地獄が待っているから嫌、というのもいた。


「借金なら、両替する必要はあるが、賠償金で精算できるだろう? それでも嫌か?」

「それなら、まあ……」


 お金で解決できるのはまだ優しい。チート頼りで成り上がりや安定生活を目指すタイプは……うーん。

 この手のタイプは、個人の意思がもう結構な部分で固まっているから、俺としては、元の世界の話を聞いて、戻れるのは今回だけですよ程度に説得するしかないんだよね。


 でもまあ、これらはまだいいんだ。

 問題は、リストにあるのに面談に現れない者、そしてリスト漏れの者だ。

 異世界のそれぞれの国側から提出されたリストにあるのに、現れない勇者のタイプは三つ。


 1、帰る気がない。

 2、すでに国の指示を聞かない。

 3、連絡がとれない。


 ……最後の奴は、国といざこざを起こして逃げているとか、最悪、すでに死んでいる可能性もある。

 1に関しては、話は聞いたけど、面倒臭がりなのもいるだろう。チートで生きていく、それでいいでしょ、ということで出向くのが面倒とか嫌とか言うタイプ。

 まだ面談に来てくれるだけマシというのがこれなんだよね。


 厄介なのは、2。すでに国の言うことに聞く耳を持っていない。1と被っているのもいるが、それ以外となると、二つのタイプが考えられる。

 一つ、召喚されたが勇者にされたことに反発し、自分から脱走した人。二つ、チート万歳。国? 魔王? そんなの関係ねぇ――こういうタイプの悪目立ちが、異世界勇者に対する社会の悪評に繋がっていると思う。


 前者は、話さえできれば、元の世界への帰還に乗ってくれるのもいるだろう。ただ中には人間不審を極めて、誰の話も聞かなくなっている場合も考えられる。

 後者は、クロウの反乱に乗ったような、キリ・バーゴウやアンドリュー・バルガスのような好き勝手したいという、元の世界でもお引き取り拒否されそうな犯罪者率が高そうだ。


 運命に翻弄されて、こうなってしまった例もありそうだけど、残念ながら、あまりにあまりなら、処理しないといけないのかなぁ。……誰も幸せになれない。


 3の連絡がとれない勇者については、現地の国々にも協力してもらって探すしかないな。国が手伝うのは、呼び出したのは自分たちでしょう、アフターフォローしろよ、ってことではあるけど、2が混じっていると国の捜索から逃げまくって、雲隠れか。


 本当に、面倒ばかり引き起こしてくれる。勇者の数が一人二人じゃないから、大変なんだ。夏休みの宿題を手伝わされる家族の気分だぜ。

 今は、こうして直接会える人たちを優先する。それでなくても多いんだから。


 こちらとしては、帰る意思の確認と、勇者リストを見て、漏れがないから勇者たちに一人ずつ確認する。

 彼、彼女らが全員の勇者を知っているわけではない。中には忘れてしまった場合もあるんだろうけど、顔見知りの勇者なのに、リストに載っていないとか、何か心当たりがあるだけでもだいぶ助かる。

 この世界の勇者憲章加盟国の誠実さ、あるいは管理能力の把握に役立つからね。


 そうやって聞き出すと、やっぱり数名リストの漏れが出てくる。……当然ながら、リストに載っていない勇者が、こちらの召集の件を知らないから来るはずもなく、そこのところどうなっているの、と関係国に問い合わせを行う。

 大抵は記載し忘れ、という答えになるのだが、中には後ろ暗いというか、口の重いのもいるわけで、それをさらに問い詰めると――


「こちらが把握する前に、逃走したことがありまして……」


 チート以前に、どこぞの世界で魔術師だったらしく、その場で魔法を使って逃げられてしまったという……。

 召喚で暗殺者や騎士を引く例もあったからな。一流魔術師という当たりを引いたが、わけもわからず誘拐されれば、そりゃあ逃げますよ、って感じか。


 聞けば、それ以後、それらしい人物は現れなかったというので、この世界に順応して生きているか、あるいは死亡しているかもしれない、という答え。……こういうわからないのが一番困るよな。

 他にも同様の記載漏れがあったが、大抵は死亡しているから、リストにいれなかったとかいう例が多かった。


「……本当かな?」


 俺は、とある王国――シャルベランの担当官を、じっと見つめる。


「この勇者、物質を金銀財宝に変えるチート能力があるようだが……。本当に死亡しているのか?」

英雄魔術師@コミック第10巻、発売中です! 累計35万部突破! ご購入、よろしくお願いします!

1~9巻、発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

小説家になろう 勝手にランキング

『英雄魔術師はのんびり暮らしたい 活躍しすぎて命を狙われたので、やり直します』
 TOブックス様から一、二巻発売!  どうぞよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
その能力故に国に囲われている勇者も居ると言う案件。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ