第1700話、皆で守ろう
勇者憲章加盟国の代表を集めた会議が開催された。
セッティングとお迎えは、俺たちでやったんだけど、この頃になると、異世界勇者のリストも上がってきて、俺は天を仰いだ。
その様子を不思議そうに見ていたクロウに、俺はリストを渡した。
「うわー、こうして見ると、異世界召喚っていっぱいやられていたんだね」
「百人超えているんだよな……」
んで、そのうちの半分が安否不明と死亡者。死亡者とされているのは、公式に死が確認されているもの。安否不明は、純粋に行方不明もあれば、死亡の可能性があるけど証明できないため、不明扱いらしい。
「今、残っているとされる勇者に帰還できると通達し、集まってもらっている」
「……これ、全員来ると思う?」
クロウが、俺の不安をズバリ衝いてきた。
「やっぱ、全員来ないかな?」
「うーん、ボクが声をかけて回った時も、反応はそれぞれだったからねぇ」
目を細めるクロウ。
「勇者と言われてピンときていない人もいれば、元の世界より自由に力が使えるからって、未練のない人もいたし」
「――故郷の家族や恋人のため、すぐにでも帰りたいって人もいるだろう」
パルバー王国王都での勇者反乱。それに加わった勇者たちは、まさに縮図だろう。勇者は勇者で、こちらも一筋縄で行かない。
「そこは個々の面談次第というところだな。……面接して、他の異世界勇者と照らし合わせて、リストに漏れがないか調べて、帰るというなら、そのまま帰還かな」
「大変そう」
「大変だよ。でも帰りたい人にとっては、一日も早く帰りたいものさ」
そういう人の気持ちを考えるとね、愚痴ってばかりもいられない。……俺も帰りたい。
だが、きちんと始末をつけてからでないとな。中途半端だと、周りで行方不明者が出た時に、全部異世界召喚が絡んでいるんじゃないかって疑ってしまうかもしれない。
気にし過ぎとも思うが、余計な可能性のせいで、時間を浪費しかねないから、この世界では異世界召喚は絶対させない。
・ ・ ・
「――お集まりいただいた、諸国の代表者。この参集に応じていただき、まずは感謝を。異世界制裁機構から、お国に雷を落とさずに済んでよかった」
と笑えないジョークで、場を萎縮させながら、俺は、勇者憲章加盟国のお歴々との間に会議を開いた。
改めて、異世界制裁機構からの通達を読み上げる。
・異世界からの誘拐である勇者召喚の禁止と、設備・技術の破棄。
・召喚した勇者のリストの作成と、その送還のための協力を惜しまないこと。
・召喚勇者の解放と、それぞれ賠償金を支払う。
・また勇者がこれまでにこの世界に与えた損害に対する一切の賠償責任は発生しない。すべて召喚した組織が責任の義務を負うものとする。
「――以上を守っていただく限り、我々、異世界制裁機構は、この世界に干渉することもありません」
よろしいですか。
「我々があなた方に再び現れる時は、約束を破った者がいて、その者のせいで魔王より先に世界が滅ぼされるのです。努々、お忘れなきよう」
どの国がやったとしても、連帯責任をにおわせる。互いに監視してください。
「……その魔王が攻めてきたらどうするのだ」
唐突な発言に周りがざわつく。口を開いたのは……ヴェール帝国の代表だ。厳めしい顔つきにがっちりした体格は軍人上がりだろうか。腕を組み、こちらを睨んでくる。
「我々は、魔王軍と何度も矛を交えている。奴らの侵略に対して、犠牲は増えるばかり。頼みの勇者もいなくなれば、我が帝国は、否、この世界が滅ぶ」
ざわざわと、各国の代表らも顔を見合わせる。
ヴェール帝国。この世界の人類強国の一つで、数多くの異世界勇者召喚を行っていた。……勇者の死亡率が高く、魔王討伐のためにもっとも多くの犠牲を払っている、などとほざいている国である。
人をさらい、勇者として死地に追い込んでいるだけの連中が何を言うのか。
「魔王は、もうあなた方など眼中にありませんよ」
俺の発言にヴェール帝国の代表者は、眉をひそめた。
「どういうことかな?」
「こちらで調べたところ、魔王軍はあなた方が攻め込まない限り、手を出していない」
「我々は、頻繁に交戦しているが?」
「報復行動です。あなた方も記録はとっているでしょう? 確認してください。ここ数年、魔王軍サイドからは攻め込んできていないはず」
黒い靄の壁の秘密については話さない。あくまで人類側の攻撃に対する報復であり、実は攻め込んだ人間が、魔物となって戻ってきているだけ、ということも。
「攻撃を控えれば、報復もありません。攻めてこないなら、戦う必要はないでしょう?」
「魔族は略奪者だ。先祖の土地を奪い、多くの勇敢なる騎士や兵たちの命を奪った――」
「あなた方は略奪者だ。魔王を倒すためと言い、人を連れ去り、その命を奪った――」
「……!」
「異世界から勇者を召喚し、無駄死にさせてきた」
「む、無駄だと!? 貴様!」
代表は席を立った。俺はそれをじっと見据える。
「異世界から拉致してきた人間を勇者と言って戦場に送り出して死なせた。故郷を離れ、家族にも会えず、異郷の地で果てる。あなた方に戦わされ死んでいった勇者たちに、あなた方は何をしましたか? 騎士たちにしたように、ご遺族に慰謝料を払ったことが一度たりともありますか?」
静かな怒りだった。自然と滲み出てくるからね、しょうがないね。ざわついていた代表たちも石のように固まる。
「この世界のとある国の王陛下にも言いましたが、あなたのご家族が有無を言わさず別の世界に連れ去られ、そして戦うことを強制され、死んだ……そうなった時、あなたは許せるんですか?」
「……」
「あなたも一度、経験されますか?」
周りの代表者らが息を呑む。ヴェール帝国の代表者も不承不承ながら席についた。
そこからは、勇者召喚の禁止と、設備・技術の破棄についての確認。魔法陣のある現場をチェックし、関係資料を焼却、破壊。
「あくまで執行猶予なので、もし密かに、異世界召喚をしたら、次は通告なくその国を滅ぼします。もし隣国でそのような動きを知った場合、当方に連絡を。その国には被害が出ないようにやります。気づいて通報しなかった場合は、連帯責任で滅ぼします。通告しませんし、もう言い訳は聞きません」
異世界制裁機構は怒っている、というアピール。こうして話し合いの場を設けているだけでも、幸運なのであると脳裏に刻んでほしい。
「代表の方々も、お国の責任者には、念を押すのを忘れないように。次はない、と」
それでは皆さん――
「自分の世界のことは、自分たちの力で解決しましょう。ではまた後日、お会いしましょう」
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