第1697話、宣戦布告
「はっ! 10億リデルの賠償!? はっ、勇者召喚をするな、だと! ふざけるな! 貴様は、我々に魔族に滅ぼされろと言うのか!?」
パーネイアス王は喚いた。
「馬鹿馬鹿しい! 何も知らない部外者がっ! 国王だと!? 怪しい奴め!」
王は声を荒らげた。
「何が異世界制裁機構だ!? 貴様、さては私を騙して大金を得ようとしているのだろう!? その手にはのらん! その者どもを斬れ!」
騎士たちが剣を抜いた。……あーあ、やっちゃった。一国の王であるなら、いくら怪しい、信用できないでも、ちゃんと裏を取るまで慎重にやるべきなんだ。
仮にも、こっちは王族を名乗っているんだ。それを確認もなく刃を向けたら、それ宣戦布告と同義だよ、わかっているのかな?
国に災いを呼ぶ悪手。それも相手の力量も見定めずに戦争なんて、愚の骨頂。
「クロウ」
俺が言ったその瞬間、クロウの必殺スキルが発動した。抜剣した騎士たちは瞬時に絶命する。
バタバタと倒れる騎士に、まだかかっていない騎士たちが二の足を踏んだ。
「騙し取る? とんでもない」
俺はパーネイアス王を見上げた。
「これはあなた方が拉致誘拐した異世界勇者たちへ、あなた方が支払うべき賠償金ですよ」
自分でも声が冷ややかになっているのがわかる。
「よろしいか。あなた方も貴族や王族が他国に誘拐されたとあれば、攻められてもおかしくないほどの過ちをしていることくらいはわかるでしょう? それを賠償金と勇者召喚の禁止で済ませてあげましょう、と言っているんですよ」
これでもね、精一杯の譲歩をしているんだ。それもわからないようだけど。パーネイアス王と周りの者たちの猛りよう、どうも冷静さを欠いているようだ。
「こちらの寛大な案を蹴飛ばすというのなら……」
「寛大、だと!? どこまで上から物を言うのだ! この国の王は私だ! 私が絶対だ! 誰の指図も受けぬ!」
「馬鹿め」
ボソリと、つい言葉が漏れてしまった。まあ、いいだろう。
「あなたの意思はわかりました。オーダー王国ならびに異世界制裁機構への宣戦布告を確認しました。……戦争です」
俺たちは踵を返す。話し合いの時間は終わった。口頭ではあるが、こちらも宣戦を布告した。そのまま円盤に引き返す。
「に、逃がすな! 殺せっ! 不埒な賊を討ち取れい!」
背中にぶつけられたその言葉。そこでクロウが、ニヤリとするのが俺の視界の片隅に映った。そこでニヤニヤするの、最高に気持ち悪いよ。
何人かの兵が向かってきたが、クロウによってたちまち死んでいく。
「おい、ジン」
ベルさんが注意を促した。
正面を重盾を構えた兵士たちが壁を作る。通せんぼ、そして挟み撃ち。少数の敵には囲んで殲滅は王道だよな。
だが!
「ヌン!」
ベルさんが片腕を突き出しただけで、衝撃波が起きる。重盾の壁があっさりと吹っ飛び、兵たちを叩きつけた。……そうなるよなぁ。
結局、俺たちを止めることはできない。無事に円盤にまで戻ることができた。
「それじゃ、王城を破壊する。戦争をさっさと終わらせよう」
ふわりと浮き上がった巨大円盤は、王城より距離を取ると、下面に搭載されたプラズマカノンを撃ち込んだ。
青い光弾が城に吸い込まれ、その城壁を一撃で砕いた。クロウは歓声を上げる。
「凄い! いいねぇ、これ!」
「そんな喜ぶものではないよ」
今の一撃で、どれだけの人間が死んだ? 城で働いていた者たち。王の愚かな選択が、彼、彼女らの命を奪ったのだ。
「これも、勇者召喚なんてしなければ失うことがなかった命だ」
誘拐、拉致、強要。それがなければ、こんな事をしなくても済んだのに。物事には何にでも原因がある。その根本を辿れば、また違うのかもしれないが、どこかで折り合いをつける場所も必要になる。
今、勇者召喚をやめさせるとしたら、この世界の偉い人たちが、それを実行するのを阻止するのが一番なのだ。
その間も円盤は、王城を攻撃する。完膚無きまでに。
「ジン、ボクにやらせてよ!」
「ゲームじゃないんだぞ」
とはいえ恨みが一番強いのは、召喚されて勇者にされた者たちだからな。クロウにも報復の権利はある。パーネイアス王の言動を見ると、俺も同情はできない。
「王都には撃つなよ」
「うん!」
年相応の子供のようだった。やっぱり引き金を渡すべきではなかったか。少々の不安を抱いたものの、クロウは俺のいいつけをしっかり守って、王城を狙い撃ちにした。
ざっと王都の方を観測していた俺は、やがて、城の近くの建物の屋上に、何やら旗を振っている数人の騎士と貴族に気づいた。ベルさんが覗き込む。
「何だ、ありゃ。降伏か?」
「昔見たアニメに、降伏のつもりで白旗を振ったら、相手からは徹底抗戦の色だから、滅茶苦茶に撃たれたという話があったな」
「何だいそりゃ」
「異文化コミュニケーションは難しいって例だよ」
自分たちの常識が通じると思うのは、思い上がりも甚だしいという教訓だ。
「そもそも白旗って交渉しましょう、って合図だから、別に降伏と決まっているわけじゃないんだよな」
白旗=降伏って勘違いされているみたいだけど。実際、降伏のための交渉という件が多いから、そう思うのも無理はないんだけど。
「クロウ、攻撃中止」
「終わり?」
名残惜しそうに言うな。
「ここが最初で最後じゃないからな。……個人的には終わりにしたいけど、まだまだ武力の出番はあると思う」
「そう」
クロウは頷いた。円盤を、例の旗を振っている人たちのもとへ。お話しましょうという人を問答無用で撃ったりはしない。
スピーカー、オン。
『あー、こちら、異世界制裁機構です。ご用件はなんでしょうか?』
円盤が喋った、と、どよめく人たち。騎士の一人が耳打ちした貫禄ある貴族が前に出た。
「グリーンスピン公爵だ。異世界制裁機構とやら、どうか王城への攻撃をやめてもらえないだろうか?」
『貴国は、我ら異世界制裁機構に対して、侮辱と無礼を重ねた上で宣戦布告をした。貴国とは戦争状態にある』
「それは、聞いている。その上で、貴国が提示した内容について、こちらにも応じる用意がある。停戦を提案したく、どうかお聞き届けいただきたい」
……。
この戦争、もう終わりかな。開戦から、そろそろ30分?
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