第1691話、異世界勇者たちを送還
よくもまあ、これだけ異世界人を集めたものだ。
俺は、異世界転移の杖を使って、召喚という名で拉致された異世界勇者たちを順番に、それぞれの世界に帰した。
青色の桜のような木が花びらを散らす公園だったり、摩天楼の屋上だったり、水族館、もとい海底都市だったり……。
それぞれの人に付き添ったわけだけど、みんな凄い場所をイメージしてくれるよなぁ。
チラ見する分には楽しいし、ちょっと観光したい気持ちにもなるけど、そこは抑えて、彼、彼女が家なり、所属する組織の人と合流するまで付き添った。
学生、サラリーマン、学者……。ファンタジーな世界では、戦士とか魔術師に見えた人たちも、元の世界に戻ると、それぞれの世界の服装をまとい、平凡なる日常に戻っていく。
気が狂ったんじゃないかと心配になるほど歓喜した人もいれば、故郷の景色に涙を流す人がいて、大切な異性と久しぶりに再会して大泣きした人などなど。
異世界に召喚された日々の長さは、それぞれだろうけど、気が緩むと、大人も子供のように泣いてしまうわけだ。
反乱に加わり、しかし王都攻撃に参加しなかった勇者8人を送り届けて、再びフィンさんの世界へ。
「お待たせ、アリス。君の番だよ」
「わたしの番か……」
女性騎士アリス・ロッターさんは、そこで微妙な表情を浮かべた。
「何か用が残っていたか?」
「いや、それは……うん、まあ。世話になった人に挨拶くらいはしておきたいかな、とも思ったんだが」
かなり迷っているような顔をするアリス。
「ただ、クロウの反乱のせいもあって、今、異世界勇者への風当たりが酷いことになっている思う。特に、王都では」
「だろうね」
頼みの異世界勇者が、こぞって王国に牙を剥いた。アリスは、王国側に立って参戦したけど、あれだけ派手に破壊されてしまうと、王都住民からは勇者だからという理由で、八つ当たりをされそうでもある。
守った側なのにと言ったところで、守れてないだろうというカウンターが突き刺さりそう。この手のことでの民衆の怒りの矛先が、理不尽な方向に向くのは、俺も経験上知っている。俺はよそ者だけど、そういうのは見るのも聞くのも不愉快なんだよね。
……特に、この手の問題で、真に責めを負うべき者じゃないのに、怒りをぶつけられるのを見るのはさ。
「ジン殿、わたしもこのまま帰ることにするよ」
迷いを吹っ切るように、アリスは言い、微笑んだ。本当はあれこれ考えているんだけど、口に出したことで、迷いを断ち切ろうとしたんだと思う。彼女は真面目そうだから、一度口にしたら、それを実行しようとなるタイプみたいだし。
では――
「こちらの杖をどうぞ」
異世界転移を何度もやっているから、壊れないように自己補修機能を使って、新品状態にさせた杖を渡す。膨大な魔力を生み出すシードリアクターは、今日も淡く輝いている。
複数回もこなせば、説明するのも手慣れたもので、ちゃっちゃとレクシャーを終えて、いざ、転移。
「……わお」
どこかの展望台のような場所だった。雲海が見え、ここが空に浮かんでいるのだと察する。この高さ、景色は浮遊島から見たものによく似ている。
太陽の光を浴びて、赤く染まる雲。雲だらけで、地表が見えないな。……何か飛んでる。あれは飛行艇か? テラ・フィデリティアとは違うが艦艇や航空機がいくつか見えた。
アリスのこと、てっきり中世っぽいファンタジー世界の住人だと思っていたけど、近未来風世界から召喚されたのか。ちょっと意外。
そのアリスは、言葉もなく景色を見やり、そして静かに泣いた。故郷への帰還に、感極まったんだろうね。
おかえり、アリス。
・ ・ ・
彼女からしつこいくらいにお礼の言葉をもらった後、俺は異世界転移の杖で、元のピラミッド遺跡に戻った。
全員送還し、遺跡は実に静かだった。
いるのは、俺とベルさん、フィンさんに、クロウだけ。俺はネクロマンサー先生に尋ねる。
「取り戻せたかい?」
「ああ、大体はな。不足分は、弁償してもらった」
それは重畳。さて、フィンさんの件が解決したなら、ここからは異世界勇者召喚という犯罪行為に対して、制裁会議といこう。いつ被害者が出るかわからないから、早々に片付けたいところだが……。
「まず、確認しないといけないことがある」
俺が言えば、フィンさんが発言した。
「まだ、この世界にいる異世界勇者の送還、あるいは処理」
処理というのは、少々物騒な言い回しだが、そういえば、この世界に召喚された勇者って、まだいるんだよなぁ。どれくらいいるんだろう……考えたら、少し頭が痛くなってきた。
聞き分けのある人ばかりだといいけど、いるんだよな。チート万歳、好き勝手やるぜって襲いかかってくる奴も。
「まあ、そっちについては、追々ね」
希望者は、全員返してあげることになるんだろうけどね。どれくらいいるかな……。でも、仲間はずれとか、置いてけぼりは可哀想だから、希望者は一人残らずやるけどさ。
「それよりも、俺としては知っておきたいことがあるんだ」
「というと?」
ベルさんが首をかしげる。なので、俺は言った。
「この世界の、魔王ってやつがどういう存在なのか」
「魔王は……魔王だろう?」
ベルさんの発言に、クロウもフィンさんも同意するように頷いた。魔王はそうだろうけど、そうじゃないんだ。
「魔王が危険だから、異世界から勇者を召喚する――筋書きとしては、定番というか、よくある話ではある。……召喚される方としてはクソ迷惑だが」
うんうん、と仮面のネクロマンサーは首肯した。俺は続ける。
「で、クロウ。君は、この世界にきて何年目?」
「……この世界での暦で、三年くらいかな」
「だよな。そう聞いている」
フィンさんが、ディグラートル大帝国に召喚されて、三年くらい経った今に戻ってきているからね。その時は期待の新星とか言われていたんだっけ?
「何年も経っているけど、その間、魔王ってこっちの世界で何かした?」
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