第168話、ストレージ内作業
ゲーム世界だと、アイテム欄にあるモノは基本的に腐ったり劣化したりしない。
異世界モノのファンタジーなどによくあるアイテムボックスやインベントリも、まあ、そういう世界の設定を引き継いでいて、食べ物だったり魔物の死体だったりが腐らずに保存できたりする。
この世界に転移して、想像魔法を使えるようになった俺も、そういった便利な保存システムがあったらいいなと思い、色々試作した。
最初に作ったやつは、保存というより倉庫として、色々なものを入れておける代物だった。保存のことを考えていなかったので、果物入れてたら盛大に腐ったのは笑い話である。
試行錯誤を繰り返した結果、ちょっとした偶然と事故により、時間が異なる特殊空間を作り出すことに成功した。
それが現在のストレージである。この中に入っているものは外との時間の経過が異なる。俺がここで数日作業しようとも、外の世界では二、三秒程度しか経っていないというとんでもない時間差が発生した。
数日過ごしたら、数百年経っていたという浦島太郎の逆である。
ストレージ内で過ごすと、外の時間がほぼ止まった状態になるので、何かをやり過ごすとか、そういう使い方はできない。もとに戻っても数秒しか経っていないのではね。
だが、ストレージ内で過ごせば……あら、不思議。一晩で靴を完成させる小人さんたちよりも早くモノを作ったり、魔法や体術やらの修行ができるということだ。
想像魔法をベルさんから得たとはいえ、二年前まで素人だった俺がそれなりに戦闘できるようになったのも、ここでの修行を時々やったからだ。……ただストレージ内は時間の経過がどれくらいかわからないので、外との誤差がどれくらいあったのかわからないが。
こんなものを作れたのだから、時間を操る魔法が使えるのではないか、と思われるかもしれないが、現在のストレージに関しては事故と偶然の産物なので、意識して使えるのは、多少自分や周囲を加速させたり、対象を遅くしたり、わずかな時間ストップさせたりする程度である。時間を止めるやつは魔力がべらぼうに消費するので、あまり使いたくない。
閑話休題。
ストレージ内で、製作作業に入る。
王都防衛戦で手に入れた戦利品――オーク軍の武具、その鉄を一定量集めて高温で溶かす。それにコールタンという黒粉(たぶん炭素じゃないかと思う)を混ぜると、強化鉄が出来上がる。あとはこれを適当な形に整えればいいのだが、間違っても素手で触ってはいけない。まあ、普通の人間なら、火傷で済まないだろうことはひと目見ればわかるだろうが。……冷えるまでは、魔力で運んだり、整えたりする。鉄は熱いうちに叩けとも言うがね。
基本となる素材を作った後は、成型し、各種パーツを製造。
ひとりでやると面倒なので、ストレージ内に格納している魔法車からサフィロを取り出す。待機モードなので休眠状態であるコアを叩き起こし、お手伝いのできるガーディアンを召喚させる。
魔石エンジンの製造。これはやはり王都防衛戦で回収した魔石を合成により、一つの大型魔石にする。大気中の魔力を吸収する魔法文字を刻むことで、消費した魔力を自動的に蓄え、回復させる機能を盛り込む。
ジャイアントスパイダーの糸を用いた魔力回路を作る。これを車の各機能と繋げることで運転に必要な挙動をすべて行えるようになる。まあ、このあたりは魔法車を作った時と同じだ。
外部装甲は、水の地下神殿で手に入れた超弩級ワニの外皮を使用……あれは図体がでかいから、まだ余ってるんだよね。……そういえばアレを使った鎧とか作ってなかったな。ちょっと作ってみたくなった。
時間の経過がわからないのだが一日くらい経ってるのかもしれない。疲れてきたので、スライムベッドを出して寝る。やはりどれくらい寝ていたかわからないが、起きてすっきりした後、ハンドル、椅子、その他必要な部品を揃い、組み立てを開始。
全長はおよそ七メートルほど。幅は約三メートル、高さは二メートル五十センチくらい。全体的に平らな車体で、大型のタイヤは八つ。これはダンジョン構造物である強化スライム壁を応用して製作している。
無骨で何となくブルドッグを思わす車体前面のせいで、遠くから見たら魔獣に見えるかもしれない、とふと思った。
装甲魔法車。名前はサフィロ繋がりで『デゼルト』と仮の名をつけておく。どちらもサファイアの意味だ。どこの言葉だったか……忘れた。
前部に運転席と助手席、ベルさん用の専用シート。後部には四人が座ることが可能なシートが二つ。向かい合うように座るが、椅子は可動によって向きを変えることもできるようになっている。
デゼルトには上面にハッチがあり、魔法機関銃やその他装備を後付けできるようになっている。さらに天井上面はサイドの手すりを上げることで露天の荷物置き場や乗車スペースにすることもできる。
完成! 終了……ではなく、次の製作に移る。
スクワイア――騎士見習いである。
こいつについては、ゴーレムの魔法を応用するつもりだ。
魔法騎士生自体が、言ってみれば騎士見習いのようなものだ。見習いに見習いをつけるのも馬鹿みたいだし、人材にあてもない。そもそも面倒が増えるだけである。
さて、ゴーレムであるが、魔法で具現化させるものは、保有魔力の関係上、長時間の可動には向かない。その体を動かすのは魔力であり、魔力がなければただのゴーレムの姿をしたオブジェだ。……いや、オブジェならまだマシだ。関節を稼動させている魔力の繋がりが切れれば、ゴーレムはもとの材料も同然に崩壊してしまう。
ちなみに、関節部分が魔力で繋がっているから、岩だったり鉄だったりするゴーレムは動くことができる。よく考えればわかるが、ストーンゴーレムやアイアンゴーレムの手足、すべてが岩や鉄でくっついていたら、どうやって動くんだ、という話である。
ボディは強化鉄――本当は耐久性を考えて、もっと上位の金属を使いたいが、そこはまあ手に入れたら考えるとしよう。
その内部にはダンジョンコアないしコピーコアを積むスペースを置き、稼動用の魔力を生み出す魔石を搭載する。ちなみにこの魔石は速やかに交換できるようカートリッジ型にしておく。
大きさについては一メートルほどの小型を想定。二本の手足を持ち、頭も持つ。人型ではあるが、胴長短足というべきか、人形めいたスタイル。
各部可動する関節は、スライム材を球形にして構成。中に魔力回路を通すことで、各部位を動かす神経とする。
「……」
顔がないのっぺらぼうというのも寂しいので、とりあえず単眼を付けてみたが……はて、どこかで見たんだよなぁ、この顔。サイクロプス? いやいや、そういうのではなくてだな……。
兵器系ロボットらしく、複雑な形にすることも考えたが、そもそもこの頭に人間用の兜を被せて運ぶスペースにしようと思ったので、角とかつけられないことに気づく。決して成型が面倒だったからではない。
仕上げに向けて少々、暴走したが、スクワイア・ゴーレム1号が完成した。
途端に疲れが押し寄せてきた。そういえば結構長い時間ぶっ通しで作業してたような。
俺は、サフィロ・コアをスクワイア・ゴーレムの胴体に収納させて、ストレージ内で動かして動作チェックするように命じると、スライムベッドに横になった。
何日かいたような気もするが、ここにいると腹が空かないんだよなぁ。何でかはわからないんだけど。まあ、生ものが腐らないんだから、たぶん、そういうことなんだろう。
充分に休んだのち、俺はストレージを出た。
これで時間にして、わずか数秒間の出来事なんだから、何とも不思議な気分だ。
かくて、俺は帰還した。
その一時間後、アーリィーが訪ねてきて、たっぷりとお寝んねした。久しぶりな気がするが、ここでは別れてからわずか四時間しか経ってないんだよな……。




