第1673話、それが友情ってものだろう?
ただの金品目的の強盗――と言うと、途端に仮にも勇者がすることかと呆れる他ない。
実際、ベルさんは呆れていたし、財産を奪われたフィンさんからすれば、勇者許すまじの感情を滾らせている。
……本当、これ。勇者側の考えがある程度、推測できてしまうから、俺としては居たたまれなくなる。
邪悪な死霊術師の秘密の研究施設があるらしい。死者の魂を玩ぶネクロマンサーは悪い奴だ。そいつを討伐するのは、世のため人のため。そしてその危険な施設を制圧したら、金品、マジックアイテムなどがあった。
これはきっと悪いことをして貯めた財産に違いない。悪党を退治した勇者が、報酬代わりに押収しても罰は当たらないだろう。何故ならば、正しいことをしたからだ。正義の味方として、悪をまた一つ倒したのだ。
……お金については、魔王討伐のための準備金にするなり、恵まれない人々に配ってもよい。いやいや、個人的に命をかけて挑んだ自分へのご褒美に独り占めしてしよう……などなど。
客観的に見ると、すごーく独善的で、ゲーム的、漫画的思考に毒されているよなぁ。
異世界から召喚されて勇者になった人の思考を考えてみたけど、異世界ラノベというより、ゲームパターンが過ぎるか? 異世界モノなら、割とネクロマンサー差別は少ない気がするから、むしろ、そういうのを読まないような人がやりそうなテンプレな気もする……。
いや、そもそも異世界勇者が何も日本からきた日本人と思い込むのも、異世界モノに毒されているんじゃないか? ディグラートル大帝国が、色々な世界から召喚していたように、こっちの世界の勇者召喚とやらも、様々な世界からじゃないのか。
……うん、日本人の異世界テンプレで考えすぎると、見当違いの推測をしてしまうかもしれない。俺もベルさんのように素直に考えよう。
「おい、ジン。お前、何を考えているんだ?」
「ちょっと思考の海を泳いでいた。すまない、ベルさん」
話を戻そうか。
「フィンさん、これからどうする?」
屋敷は滅茶苦茶。お金も盗まれて、空っ穴というのなら、この世界におさらばして、俺たちと元の世界に戻るという手もある。あっちの世界なら、俺がシーパングでもヴェリラルド王国でもプロヴィア王国でもエルフの里でも、どこでも手配できるぞ?
「我が家の遺産も含まれている」
フィンさんはきっぱりと告げた。
「死霊術に関しての資料もある。盗られましたで放置しておいていいものではない」
「それはマズいな」
死霊術の資料とか、表に出ていいものでもないだろう。当然、奪回せねばならないだろう。……オーケー。
「じゃ、盗られたものを回収に行きますか」
「そうだな」
「……いいのか、二人とも」
フィンさんはいつもの調子で言った。
「これは私の個人的な事だ。君たちには関係がないだろう?」
「友人が困っている時こそ、助けないとな」
「ああ、仲間だもんな」
俺もベルさんも、向こうの世界で共に戦った戦友の苦境を見てみぬフリをするほど、薄情じゃないんだ。
「相手は、異世界の勇者だ。……もちろん人格面では、とても勇者と呼べない者が多いのは認めるが、その能力は侮れない」
「チートだもんな。わかっているよ」
「いや、わかっていない。ジンは結婚を控える身だ。私の事柄にまきこんで、未亡人を増やしたくない」
本気の心配をされた。確かに、チートを相手にするなんて、普通じゃどうにもならないんだろうけど。
「……言ってなかったっけ?」
「言ってないんじゃないか」
ベルさんが頷いた。言ってなかったかなー、覚えてないや。
「フィンさん。俺、不老不死なんだ」
「そっ、こいつ、死なないの」
ベルさんが俺の肩を叩いた。
「だから心配すんな。オレ様もジンも、死なないんだよ」
「でもまあ、チートの中には、それを超えてくる敵もいるかもしれない」
それがチートってものだからな。
「用心は必要だと思う。だから、慎重にやるさ」
「わかった。君たちがそこまで理解しているなら、協力を仰ごう。よろしく頼む」
「水臭いよ、フィンさん」
仲間だもんね。友情っていうのは、こういうものなんだよ。
・ ・ ・
「で、どこを探そうというんだい?」
「適当な村で聞き込みすればいい」
フィンさんは簡潔だった。
「ネクロマンサーのアジトを潰した勇者と聞けば、噂くらいにはなったはずだ。それでいつ頃で、どんな勇者がやったのかわかる」
死霊術師に対する世間の目からすれば、魔王の手先をやっつけた程度には、周りにも受け入れやすい。悪質な勇者が少なくないらしい中、ちゃんと働いている勇者もいるアピールとしては、格好の材料と言える。
「後は、その勇者の足取りを追い、本人から取り立てるか、あるいは財産の在り方がどうなったか聞き出して回収する」
「なるほど」
「情報収集って大事だなー」
ベルさんは棒読みだった。
「こういうのヨウが得意だったよな」
「いない人の話をしてどうするの」
「いいじゃねえか。ちょっとした思い出しってやつだろう」
ああ、そうね、そうだ。俺たちは地下を出て、廃墟屋敷の外へ出た。
「ちなみに、近場の村はどれくらい離れている?」
「徒歩で二日」
「遠い」
乗り物を用意しよう。魔法車を出してもいいけど、森と山で、きちんと舗装されていない道を走るのは建設的じゃない。
そうなれば――
「アドヴェンチャー号!」
小型飛行艇。自家用車気分で空が飛べる乗り物。戦闘機より大きいが、船というには大きくない。でも複数人が乗れるし、休憩所も寝床もあるんだ。空飛ぶキャンピングカーってところかな。
ストレージから出したそれ、後部ハッチを開き、いざ搭乗。
「これは目立つのではないか?」
「安心してくれ、フィンさん。こいつはステルスでも飛べる」
これであっという間に、近くの村へ! まさしくひとっ飛びだぜ。
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