表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1673/1885

第1663話、異世界帰還者その2


「あたしのいた世界は、まあこっちの世界に似ている」


 そう、リーレは説明した。

 浅黒い肌に黒髪をショートカットにした女性は、自称魔獣剣士である。


「機械はないが、魔力を使った道具、剣と魔法で栄えている」


 普通に魔法も使える世界らしい。

 彼女の実力は疑いようがない。戦士としての強さ、魔法のレベルはベルさんほどではないにしろ、人間のそれを上回っている。何より不死身らしく、リーレは何度も死にかけたが、全てきちんと生還している。


 右目が眼帯で覆われているが、傷ではなく、彼女の持つ魔眼を抑えるためにしている。……少し厨二感があるが、本物だから仕方ない。

 その黄金眼は、魔力を解体する。なお片目を隠しているのでお察しかもしれないが、リーレはオッドアイである。


「それで――」


 ベルさんが尋ねる。


「お前さんの世界の治安はどんなもん?」

「この世界とどっこい……、いやシーパングと比べたら、天と地ほどの差はあるな。人間と亜人は対立しているし、人間同士でも対立している」


 乱世乱世。どこの世界も、争いが絶えないんだろうな。


「こことお前さんの世界、どっちが治安はいいんだ?」

「いやにこだわるじゃねえか、ベルさん」

「オレ様はこれでもノーブルな身分なんでね。無礼な奴は、その場で処すからな」


 治安が悪い。喧嘩をふっかけられたらブチのめす。うーん、わかりやすい。


「それでも、やっぱ戻りたいのか?」

「……まあ、一応あたしにも家族ってもんがあるからな」


 リーレが少し恥ずかしげに頭の上のベレー帽に触れた。


「血は繋がっていないが……、いや繋がっているのか……? んん-」

「どっちなんだ?」

「まあ、親は違うだろうが、血はもらったから――ああ、いや、そのへんを話すと面倒なんで、勘弁してくれ」

「俺たちがそれを知らないと死ぬわけじゃないからな」


 俺はベルさんを窘めた。プライベートな話は深く突っ込まない主義なんでね。


「それはそうと、異世界転移の杖の使い方は教えた通りだ。イメージが明確なほど、誤差もなくなるはずだ」

「イメージなら魔法で慣れているさ」


 リーレは、鼻歌を歌うような気楽さで返した。


「これ時間もある程度コントロールできるんだろう?」

「イメージが重視されるから、ないものは無理だぞ」


 知らない未来とか過去とか、そういうものには反応しないからね。


「ヨウ君は、召喚される前の自分と鉢合わせすることがないようにしたら、マージンを取り過ぎたか、三週間ズレたからね」

「何で、自分と遭遇しないように、なんだ?」

「俺の世界でな、タイムスリップに関係する話なんだけど、同じ時間に同じ人間が遭遇すると、何か知らんが世界が吹っ飛ぶとか、よくないことになるんだと」

「なんだそりゃ」

「俺も専門家じゃないから、科学的に説明できなんだけど、昔からそういう考えがある。どうしてそうなるかわからないけど、子供でもそういう事象が起こるらしいくらいは知ってる」


 漫画やアニメ、小説の影響なんだけどね、その辺りは。


「実際にそうなのかは知らない。ただいざ遭遇した時に、面倒なことになりそうというのは想像できるから、俺にしろヨウ君にしろ、接触は避けたんだ」

「ふうん……。よくわかんねえけど、ヤバいことが起こるのは勘弁だな」


 そうリーレは納得した。


「じゃあ、場所は人の気配がないところがいいな」

「面倒を避ける意味でも、それをお勧めするね」


 で、どこに移動するつもりだ?



  ・  ・  ・



 牧歌的な草原が、なだらかな傾斜を描いていた。ここは山の麓か?

 しかし柵が見え、振り返れば洋風田舎の木と石でできた民家――だったものがあった。

 鼻腔を焦げた臭いが刺激する。


「なあ、ジン」


 ベルさんが、どこか嫌そうな声を出した。


「戦場の臭いだ」

「血と炎。――おい、リーレ」


 ひょいと異世界転移の杖が飛んできたのでキャッチ。リーレは素早く駆け、民家だったものに足をかけるとその屋根に登った。


「くそっ……」

「何だ、リーレ? 何が見える?」

「ヴィグパール大公の軍勢だ!」


 リーレは声を荒らげて答えると、グローダイトソードを抜いた。


「……誰だって?」

「亜人差別主義者の親玉の手下どもだ!」


 そう言うなり、獲物に飛びかかる獣のような勢いで屋根を蹴って行ってしまった。

 ベルさんが頭を巡らせた。


「どうやら、あまりよろしくない場に居合わせたらしい」

「そうみたいだな」


 できれば、別の世界の出来事に首を突っ込みたくはないんだけどねぇ。用が済んだら、すぐ帰るつもりだし。

 ただ問題は、リーレが元の世界に馴染めない、あるいは何らかの都合で世界から拒絶された時に、向こうの世界に連れていけるよう、俺らも数日は留まるつもりなんだよね。もちろん絶対ではないけど、その間にドンパチに巻き込まれたら、防衛権を発動するわけだけど。


「こっちの世界のことはわからないんだよねぇ」


 リーレのお友達だから、彼女の味方をして参戦して面倒なことにならない? 大丈夫?


「まあ、なるようになれ、だ。どうせすぐ帰るんだし」


 ベルさんがリーレがやったように民家だったものの屋根に上がった。思わずため息が出たが、俺も浮遊の魔法で浮かび上がって視界を確保。


 身なりのいい騎士と、整った装備の兵たちがいた。どうやら村への略奪行為の最中だったようで、リーレは村人を守るために戦っているようだった。

 さすがは不死身の戦士。多勢に無勢、ではなく、無双している。


「大公の軍勢とか言っていたか?」

「リーレはそう言っていたな」


 なるほど、末端の兵までいい装備をしているわけだ。大公といえば、王の一族。お金を持っているのが、兵たちの格好でわかる。


「さてさて、どうする、ジンさんよ」


 ベルさんがニヤリとした。


「オレ様としちゃあ、この世界の住人がどうなろうと関係ないわけだが」

「そうも言ってられないでしょうが」


 俺は異世界転移の杖をストレージにしまう。万が一があったら困るからね。


「どうせここで絡んでも旅人の気まぐれ。俺たちがきた世界に、この世界の住人が介入する術がない以上、外交やら報復は気にしなくていい……な!」

「そういうこった!」


 暗黒騎士姿になるベルさん。俺たちもリーレが大公の兵たちを返り討ちにしている戦場に飛び込む。


「加勢するぜ、リーレ!」

英雄魔術師@コミック第9巻、発売中! ご購入よろしくお願いします!

1~8巻、発売中! コロナEX、ニコニコ静画でも連載中!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リメイク版英雄魔術師、カクヨムにて連載中!カクヨム版英雄魔術師はのんびり暮らせない

ジンとベルさんの英雄時代の物語 私はこうして英雄になりました ―召喚された凡人は契約で最強魔術師になる―  こちらもブクマお願いいたします!

小説家になろう 勝手にランキング

『英雄魔術師はのんびり暮らしたい 活躍しすぎて命を狙われたので、やり直します』
 TOブックス様から一、二巻発売!  どうぞよろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ