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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1664/1885

第1654話、世界一高い高いタワー


 朝もけたたましくアヴリルとフィレイユが、シーパング島の別荘までポータルで移動すれば、のそのそとベルさんがやってくる。


「おはよう、ベルさん」

「おう」

「夕べはお楽しみでしたかー?」

「まあな」


 ベルさんが笑う。その間にもサキリスが、彼の前に朝食を並べる。


「お前さんほどじゃない」

「おいおい、こっちは覗かないって約束だろ?」

「約束した覚えはないが……どうかな?」


 ベルさんがサキリスにウインクすると、彼女はわずかに頬を赤らめて下がった。覗かれている、と聞いて興奮するM気質なサキリスである。

 普段、完璧にお仕事をこなす彼女が夜では……というのは、何ともギャップじゃないか。


「心配しなくても、アーリィー嬢ちゃんが嫌がることはしないよ」

「嫌がるというか、いちいちベルさんがちらついて気分が削がれるから、やめてって話でしょ」

「ここの家の連中はアブノーマルだからな」

「貴族の夜なんて、変態しかいないんだよ」

「そいつは偏見ってもんだぜ? 真面目一辺倒のマルカス坊やは、いたってノーマルだぜ」

「ノーマル過ぎて心配だ」


 話題が逸れそうなので、これ幸いとばかりに方向を変える。


「健全でいいんだけど、初夜で失敗していないだろうね」


 どうせあいつのことだから、結婚するまで性交渉はなしだったんだろうね。


「それこそ偏見ってもんだぜ。ああいう真面目野郎は――」

「覗いたのか?」


 俺はベルさんを睨んだ。この魔王様の覗き趣味は、あまりいい趣味とは言えない。


「いいや、見てないよ。真面目な奴がしくじると、顔を合わせるたびに、それを思い出して萎えちまうからな」

「……」


 理由は不純な気もするが、そっとしておいているならいい。

 面白半分で野次馬決め込んでいたはずなのに、どうしようもない修羅場を目撃して、以後気まずくなるやつ。


「そういや、ここんとこ、ディーシーを見てないが、あいつはどうしてんだ?」

「ダンジョン作りさ」


 DCロッドで忘れそうになるけど、あれでダンジョンコアだ。


「物作りが趣味だからね。戦争が終わって、好きなことに時間を使っているんだよ」

「ほーん、持ち主に似るもんだな」


 ベルさんが皮肉げに言う。いやいや――


「持ち主云々より、ダンジョン作りはダンジョンコアの存在意義にも関わるものだ。言ってみれば、もっとも自然な行為だと言える」

「まー、確かにダンジョンコアが、ダンジョンにもいなくて何をやっているんだって話にもなるわな」

「ディーシーの場合は、彼女の周りがダンジョンとも言えるから、そういう見方をすれば、間違っていない」

「見方の問題だな」


 ベルさんは頷いた。



  ・  ・  ・



「ダンジョンは芸術だ!」


 ディーシーは言うのだ。俺とベルさんは顔を見合わせる。


「誰のセリフだ?」

「我だ」


 人型魔術師姿のDCロッドさんは、そう言って浮遊する足場を動かした。

 彼女は地下へと伸びる長い長い塔を作っていた。


 ここはかつて世界樹が立っていた場所。木自体は、シーパング島へ転移で飛ばしているから、何もなかったのだが、そこにドドンと柱が建っているわけだ。

 地下から地上へと伸びる巨大な柱……。遠方から柱に見えるそれは、大きさのせいで感覚がバグっているだけで、実際は巨大な塔である。

 しかもダンジョンらしい。


「初めは世界樹型ダンジョンも悪くないと思ったのだがな!」


 ディーシーは雄弁である。


「中を作るために筒状にしたら、これを大木で覆うのももったいない気がしてな。それならば、塔にしてみたのだ!」


 変なところで面倒くさくなったんだな。まあ、ダンジョンは外観を競うものでもないし、大事なのは中身だから、ディーシーさんの思考も外より中なのだろう。


「それにしても……高いなぁ」


 浮遊足場から、俺は下を見下ろす。目もくらむ高さ。高所恐怖症には見せられない。


「しかも、世界樹ベースだから、幅もでかい」


 中も広いから、内装を居住スペースにしたら、高層マンションなんてものもできそうだ。……まあ、ここにあるのはあまりに巨大構造物過ぎて、俺のいた世界と比べても大きさが段違いで、かつ高層なんだけど。


「いや本当、ダンジョンじゃなくて住めるようにしたら、何人収容できるんだ?」

「何百……千以上?」


 ベルさんが小首をかしげた。


「これが地下じゃなくて地上だったら、さぞ周りの景色が地平線まで見えて絶景だったんじゃね」

「高いところが苦手な人には厳しそうだ」

「下を見なきゃ平気な奴も多いぜ?」

「でも下とか、つい見たくならない?」


 昔、何とかタワーに家族で言った時、やっぱり下が気になって覗いたもんだ。あの不思議な吸い込まれそうな感覚、なんなんだろうね。ガラス張りだから割れないか不安になったりしたもんだ。


「地上にタワーね。……衛星軌道上まで伸ばして、軌道エレベーターなんてものも作れそうだなぁ」

「きどう、エレベーター?」

「宇宙空間にまで塔を伸ばして、直接エレベーターで宇宙と地上を行き来できる施設だよ」

「お前んとこの世界にそんなものがあるのか?」

「構想段階で、まだない」


 正直に言ってSFのネタ、架空の代物だ。ただ技術が伴えば、現実になりそうなものの一つではある。


「テラ・フィデリティアの技術があれば、人類が宇宙に進出するのも現実のものだ」

「実際、宇宙に基地とか持っていたんだろう? 今もそれは稼働しているっていう」

「アンバンサー大要塞の時は、それで俺たち助かったよな」


 大要塞が呼び寄せた異星の機械艦隊。それに対抗すべく、過去の文明は兵器を量産し、宇宙からの侵略に備えていた。それがなかったら、この世界、終わっていたんだよな。


「現代の人間には、まだ宇宙は早いかもしれないが、シーパングがその距離を縮めていくことになるんだろうな、これからは」


 果たしてそれが吉と出るか、凶と出るか。遅かれ早かれ、いつか人類はこの宇宙にも乗り出すんだろうけど。

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