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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1652/1885

第1642話、彼女の人生、決めるのは彼女自身


 久しぶりに会ったエリサは、一言で言えば『女性』そのものだった。

 何故、そう感じたのか。その単語しかないというくらい頭を過ったので、他意はない。しかし有無を言わさず、それを感じさせてきて、説明は難しいが、そうとしか言い様がなかった。


「充実、している。そんな顔をしている」

「人からいっぱい愛されるというのは、いいものなのよ」


 エリサの緑色の髪を払う仕草一つをとっても、男の心をかき乱す。


「あたしも愛には愛で応えたいのよ。愛してくれるなら、あたしもいっぱい愛を注いであげるの」


 少し見ないうちに、印象変わったな。愛なんて語るような人だったかな?


「君、ひょっとしてチャーム(魅了)を垂れ流してない?」


 サキュバスの力が強くなってない? 大丈夫?


「チャームを抑えられなかったら、今頃ここでヤっているわよ」

「公共の場で、公然猥褻は如何なものかと思う」


 散歩がてら、ちょっとした広場を歩いているのだが、すでに周囲の男たちの視線が集まっている。


「この中の何人とお付き合いしているのかな?」

「イービスに聞いたの?」

「診療所に先に行っていたからね。君が留守だったから、お喋りしたよ」


 探るような視線が、ちらほらと俺の方に向いている。エリサが親密そうに話しているのは誰なのか、知りたそうな目だ。

 ある者は興味深く。

 ある者は嫉妬深く。


 エリサの彼氏仲間に加えて問題ないか、品定めされているようでもある。決めるのはエリサであって、お前らではないぞ――と見ず知らずの野郎共に、心の中で呟く。


「さあ、何人かしら」


 エリサは、さりげなく俺の腕を取った。


「何人かは、恋人にもなっていないのがいるみたいだけれど……」

「ストーカーかな? 言ってくれれば警備団を呼べるよ」


 たとえば、そこの広場の角にいるシェイプシフター・ガードがすぐ動く。


「心配ないわよ。不心得者は、あたしの彼氏たちが黙ってないもの」

「彼氏たち、か……」


 まあ、そうかもね。君の男たちの中には、ナイトを気取る者もいるかもしれない。……知らないけど。


「一応、確認するけど、キメラ・ウェポンの状態的に何か悪化しているかもしれないって感じていたりする?」

「悪化は……していないと思うわ」


 思い当たることがないか考えながらエリサは答えた。


「いきなりどうしたの?」

「キメラ・ウェポンで改造された部分について人間のそれに戻す治療法が、もうじき完成するんでね」

「……それ本当?」


 エリサは真面目な顔になった。先ほどまでの余裕ある大人の女性とは違う空気。

 俺は、クローマ博士の研究を元に、治療法について説明した。細かいところは、博士がより精度を高めているため、若干説明と異なる部分があるかもしれない。だが大まかなところは間違っていないはずだ。


「――実際のところは、上書きするわけだけど、人間のそれになるから、キメラの能力の反動や後遺症のようなものもなくなる」


 エリサの場合は、サキュバスのデメリット――異性のアレをとらなくても生きていけるようになるってことだな。


「デメリットがなくなるのはいいわね。体が変異してしまっている人たちは、人間だった頃の元の姿に戻ることができるし」


 何か他人事みたいに言うねぇ。やっぱり今が充実している人間は、身体的デメリットも乗り越えているのかもしれない。


「ま、そんなわけだから、治療できるようになったら、知らせるようにする。受けるかどうかは、君に任せるよ」

「そう……。わざわざ知らせてくれてありがとう」


 エリサは俺から身を離した。どうやら今日はここでお別れの雰囲気。

 彼女には彼女の生活がある。元は大帝国の出身で、でも反逆者の一族ということで改造され、故郷にもいい思い出はないエリサ。元凶である大帝国はもうなくなったが、彼女は新しい人生を着実に歩んでいる。……俺が過保護になることもない。


「ちなみに、ソッチのお薬とかあるから、奥様方との行為にマンネリがきたら教えてね。処方してあげる」

「ははっ、そりゃあどうも」


 元々、魔法薬屋だもんね、君は。


「ここで大丈夫? 送っていくけど?」

「ええ、これから約束があるから」


 はいはい、お盛んなことで――というのは、穿ち過ぎ……ではなさそうだ。彼氏たちがお待ちかねのようだ。


「じゃあね」


 俺はエリサから離れ、ふと彼女と付き合っている男たちを一瞥する。視線が合うと、何故か彼らは一斉に俺に頭を下げた。……この反応は意外。

 俺が、ここの領主であり、南方侯爵だってわかっちゃったかな?



  ・  ・  ・


「――あなたがいなければ、今のあたしがいなかったから、よ」


 エリサ・ファンネージュは、去り行くジン・トキトモの背中を見つめながら、彼氏たちが頭を下げた理由を口にした。

 呪われしキメラ・ウェポンの体。半サキュバスであることが発覚して、王国から処刑されそうになった。


 その危機を、正体を知りながら助けてくれたのが、ジンだった。

 普通、悪魔の仲間とされるサキュバスと知って助けようとする人間などいない。……いないはずだった。

 でもジンは、彼の仲間たちを動かし、王国、否、人間たちの法からエリサを助け出した。


 冒険者と魔法薬屋という関係だった。もちろんサービスはしたし、親しくはしていた。だけど、それだけのはずだった。

 今の彼氏たちに、サキュバスであることは言っていない。呪い、病気という話はしたし、過去、命の危険があったことも告げた。そしてその中で、助けてくれたのがジン・トキトモという魔術師であり侯爵閣下であることも教えた。


 診療所を開業し、今の彼氏たちに出会えたのも全て、彼のおかげ、だと。

 だから、彼氏たちも、エリサと出会えた運命を引き寄せた人物として、トキトモ侯爵閣下にまつわる数々の伝説、そしてノイ・アーベントという町を作ったことも含めて、頭が下がるのであった。

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