第1636話、魔神機組のその後
グレーニャ・エルは、その所属を巡って、少し揉めた。
「あたしは、センセの命令以外で働く気はないぜ?」
風の魔神機を操るシーパング同盟のエースとなっていたグレーニャ・エルだが、新生同盟軍の指揮官が俺じゃないと聞いて、同盟軍を辞めると言い出した。
彼女の場合、出身はアポリト魔法文明で、こっちの時代では大帝国の一員として戦った。俺と再会したら、あっさりこっちに移ってきて、以後、先陣をきって活躍した。
「この時代は、あたしの時代じゃないからね。縁があるのはセンセだけなんだぜ」
それで魔神機を手放すなら、まあそこまで大事にはならなかったんだけど、彼女にとってはセア・エーアールはもう自身の分身のような存在だった。
仕方ないので、俺の方で彼女は、同盟軍からシーパング島守備隊のほうに配置替えしておいた。
元々、シーパング島はアポリト文明の直系で、魔神機は――云々と適当に話を含ませつつ、同盟軍には風の魔神機に匹敵する最新型魔神機を開発し、配備するということで手を打った。
「魔神機は強力な戦力。それをシーパングばかりが保有しては、せっかくの新生同盟軍への運びも怪しくなってしまうからね」
俺が言えば、話を聞いていた黒猫姿のベルさんは笑った。
「まあ、能力がネックだからな。それに匹敵するものを代わりに出せば、性能厨もある程度納得するってわけだ」
「そういうこと」
「つーことで、これにて一件落着か?」
「……とはいかなかった。いや、最終的に解決したんだけど」
新型を作って同盟軍に配備するのは、セア・エーアールの分だけじゃなかった。
「レオスのドゥエル・ファウストな。あれも本人が同盟軍に参加しないから、その代替が必要になった」
そもそも魔神機を操れる人材がほとんどいないから、パイロットなしだと候補者探しから始めなければいけない代物なんだけどね。
その、ドゥエル・ファウストのパイロットなんだけど――
「レオスがな、グレーニャ・エルと付き合ってる」
「付き合うってあれか? 男と女の関係か?」
「らしい。真・大帝国帝都の攻略戦の時な、そういう約束をしていたらしい」
「へぇ、あの二人がね……。どっちが声をかけたんだ?」
「レオスが告白したらしい。エルは、だったらついてこいよ、って言ったらしいけどな。……というか、彼女、恋愛方面についてわかってるのかな?」
俺としては、グレーニャ・エルには、悪ガキのまま体は大人になった感じがあって、恋愛だとか、男女の関係に疎い気がしているんだよな。
ベルさんが首をかしげた。
「あー、何か、グレーニャ・エルにぶん回されるレオスの姿が想像できるわ」
「俺も」
付き合い始めるのはいいけど、ゴールインできるのかね。不安だなぁ……。レオスはレオスでストイックというか、真面目だし。他人の関係に、外野がとやかく言うものでもないけどさ。
まあ、レオスはしっかりしているし、グレーニャ・エルも精神的に攻撃的に育ったみたいだけど、あれはあれで大人なんだから、今後に期待して温かく見守ろう。あの性格は、成長期が戦争だった影響もかなりあると思うし、これからだよ。
・ ・ ・
さて、エルは双子の妹だが、姉であるグレーニャ・ハルの方はといえば、シーパング本国の情報局に務めている。
同盟軍でもよかったんだけど、本人が一応吸血鬼サイドの人間だったから、ちょっと周囲の偏見というか、情報関係部門にそういうのがいるのはどうなのか、という目が怖かったわけだ。
トキトモ領地の亜人集落と同様、種族偏見の少ないシーパング島ならば、その手の差別もないだろうと、そちらを薦めた。
彼女、スティグメ帝国でも重要ポストについていて頭がいい。せっかく働くなら、能力を発揮できるところがいいということだ。もちろん、本人のやりたいことを優先させたいけどね。
「私も、この世界について色々思うところがあるから、情報局は渡りに船なのだわ」
「思うところ?」
「吸血鬼帝国は滅びた。それは間違いないけれど――」
グレーニャ・ハルは憂いを帯びた目をする。
「地下帝国といったって、まだまだ地下は未知の世界。アンバンサーの遺物なんてものがあったくらいだもの、枕を高くして寝るには、まだ早いわ」
それはそう。まだまだ発見されていないヤバいものが、ゴロゴロしている可能性は否定できない。
なお、シーパング情報局は、シェイプシフター諜報部の人員が大半だから、元吸血鬼帝国のグレーニャ・ハルに対しても偏見なく働いてくれるだろう。
「この世界の人間の意識調査もしてみたいところだし」
いわゆる亜人や他種族差別の現状その他諸々。やる気があるのは大いに結構。シーパング島の情報局は、世界情勢の収集はもちろん、未知の敵に対する備えでもある。争いの火種があればマークして、迅速に対応できるようにする。
俺としては、ハルを情勢局の局長に推すつもりだったりする。吸血鬼だって気にしない、という俺のスタンス。
情報局には、ペトラ・ストノスのコピーである、ペトラ・Cも配置し、ハルの部下として活動する。
オリジナルであるペトラは、アポリト文明時代に戦死し、そのデータから作られたというペトラ・Cとは、俺との関係性は薄い。だけど、オリジナルの方は、短い期間とはいえ部下だったわけで、まったく知らないわけでもないから、面倒みちゃうんだよね。
ただ、やっぱり関係性は薄めだから、彼女に関しては、グレーニャ・ハルにお任せする。
一応、魔神機と鬼神機は封印扱いで、シーパング島に隠してある。ペトラ・Cには代わりの機体を用意したし、同盟軍にも炎の魔神機――鬼神機と同等のものを提供した。
今にして思えば、現代版オリジナル魔神機として、全部作り直したんじゃないかな、これって。
そうそう、巫女組といえば、リムネ・ベティオン。
かつての水の魔神機パイロットで、今は延命の影響で魔神機に乗れなくなったけど、レイブン偵察戦闘機の電子戦担当として軍にいる。
なお、アーリィーたち公認の俺の愛人。普段は軍の仕事だから、毎日会えるわけではないけど、会うたびに美人度が上がっている気がする。
元々妖艶な雰囲気はあったんだけど、何かもう魔性だよ、魔性。これで本物の悪魔などを差し置いて素で人間なのだから、恐ろしい。それでいて尽くしてくれるタイプだから、ギャップが凄いんだよね。男をダメにするタイプかもしれない。
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