第1632話、順番は独断と偏見で
お偉いさん周りの最初をエマン王にしたのは、アーリィーのお父さんであること。俺が南方侯爵で、王は直接の上司でもあるからだ。
で、次に向かったのは、アーリィーに続き、俺と婚約が決まっている隣国リヴィエル国のアヴリル姫、その父親であるパッセ王である。
「何故、私が一番ではないのだ?」
などと言われても、まあ俺はヴェリラルド王国の貴族をやっているが、リヴィエルではまだ、お姫様の婚約者という立場しかないわけで。
「貴殿に領地をくれてやる。どこがいい? 好きなところを言うがよい」
「王陛下……」
「わかっておる。貴殿はそういう物言いは嫌いであったな。すまん、冗談として流してくれ」
そうやって、ちゃんと俺のことを覚えておいてくれて、非があれば詫びてくるところは、好意に値する。
「貴殿は、我が一族にとっても恩人だ。あの時、貴殿に救われなければ、我が一族は滅び、国は大帝国の支配下におかれていただろう」
大帝国の尖兵としてヴェリラルド王国と戦うことになり、多くの民が血を流すことになった――その未来はありありと思い描ける。
「あの時は、まさかあの大国に勝てるとは思わなんだが……、貴殿とシーパング、そして同盟に参加した国々が力を合わせることで大帝国を打ち倒した」
「光栄です、閣下」
「うむ。その中心にいたのは貴殿だ。我が国の恩人であり、英雄である。先は流したが、こちらとしては本当に領地その他、欲しいものがあれば用意する。気が向いたら遠慮なく申してほしい」
「承知しました」
欲しいもの、ねぇ。その気になれば、大抵のものは手に入れられてしまうからなぁ。難しいね。
「戦争は終わった。まだしばし後始末やら復興やら、忙しくなるとは思うが……貴殿とアヴリルの結婚式も近々やっておきたい」
……きた。
「エマンのところのアーリィー姫とも結婚式を進めるのであろう? 先日のジャルジー公の結婚式も見事なものだったが、あれに負けないくらい派手なのを期待しているよ」
「ご期待に添えるとよいのですが……」
「何だ、無理なのか?」
「いえ、あの時は無粋な真・大帝国がゲスト参加しましたが、次にやる時は、ああいうハプニングはないでしょうから、あれ以上に派手なのは難しいですね」
俺が皮肉を言えば、パッセ王は大笑いした。
・ ・ ・
「わざわざこちらに起こしいただけるとは、光栄です、ジン様」
「さすがに来ないわけがない」
俺は、プロヴィアの女王エレクシアにそう返した。女王陛下の要請を断れるとでも? なお、忙しさにかまけて、割とお断りしている俺である。
「長く苦しい戦争は終わりました。それは至上の喜びであり、我が国の民は、あなた様の凱旋の日を首を長くして待つことでしょう」
プロヴィアでの俺の評価って、今どうなってるのかね。あまり聞きたくないが。
「あなた様には、何度プロヴィアを救っていただいたことか。そして我々の宿願であり、真・大帝国は打倒されました。失われた民の無念も晴らされたことでしょう」
美貌の女王の気配に凄まじい憎悪の念が渦巻いた。この大陸でも、真・大帝国の敗北を心から喜んでいる度合いが高いのは、プロヴィア人なんじゃないかと思う。エレクシアにとって、家族の仇であり国の仇でもあったわけだからな。
「そしてわたくしは、大帝国打倒の暁には、あなた様のモノとなるというお約束を果たすとしましょう。よくわたくしの願いを叶えてくださいました、ジン様」
「……やっぱ、その約束って有効?」
連合国の英雄魔術師時代、プロヴィアを解放する戦いで、助けた王女――当時のエレクシアから、大帝国の打倒を約束した。それが果たされた時の報酬は、エレクシアの身柄。生殺与奪、自由にしてよい――という、独り身だった当時としては破格の報酬。
ぶっちゃけ不可能だろ、とは思っていた。プロヴィアや他の連合国の人々のために大帝国と戦うという使命感を持っていたし、復讐の願いを叶えてあげたいという気持ちに偽りはなかったが。
不可能だろうついでに、聞くけど――
「君が俺のモノになったとして、プロヴィアはどうするんだ?」
「もちろん、あなた様に捧げます。……どうか、この国の王となってくださいませ」
エレクシア女王は、ゆっくりと頭を下げた。
要するに、王女が報酬というのはあれだな。この国の王様になれますよ、っていう政略結婚的な意味合いもあったわけだ。
英雄が王になる。古今、歴史を紐解けばそういう伝説もあるもので、魔王を倒した勇者が王様になって国を治めるって展開だ。大抵のお伽話なら、それでめでたしめでたしなんだけど……。
「君は大変魅力的だけど、王様になるというのはね……」
改めて考えると、お伽話的展開だったんだなと今さら気づく。最初にそういう意味を含ませていたことに気づいていれば……いや、あまり変わらないか。
「そう言われると思っていました」
エレクシアは目を細めた。
「わたくし自身をあなた様に捧げるのは変わりませんが、プロヴィアについては、一つ案があります」
「……聞こうか」
あまりいい予感はしないが。
「プロヴィアを、シーパングに併合していただきたい」
あー、そう来たか。プロヴィアを、シーパングの一部にする。国としてはなくなるが、シーパングの領土の一つという扱いになるということだ。
俺がシーパングの裏のボスだと知っていて、これか? どのみちプロヴィアは、俺が直接ではないにしろ、間接的に管理する側につくということだな。
まあ、間接的なら、他の人に主なところをやってもらって、最小限の干渉で済ませることもできるから、直接、プロヴィア王になるよりはマシか。
「そういうことなら、シーパング国の方で、話し合えば問題ないと思うけど……いいのか? 君のことはわかるけど、民は併合に納得するだろうか?」
「……やはり、きちんと凱旋パレードをするべきですね」
エレクシアが、とても真面目な顔になった。
「この王国で、いかにあなた様が崇拝されているか、身を以て体験なさるべきです。エルフから伺っておりましたけれど、あなた様はアミール教の崇拝する『神』そのものではありませんか」
あれな――プロヴィア解放の日。そういえば君は俺のことをアミールの神ではなく、アミウール神として地上に降臨したとか、派手に演説ぶちまけていたもんね。
あの時の民の熱狂ぶりをみれば、俺の母国――ということになっているシーパングと併合も、あっさり乗ってしまうんだろうか。
「俺は人間だよ」
「ええ、知っていますとも」
エレクシアは、微笑んだ。
「でも、そんなものは、わたくしたちと間には些細な問題でしかありません」
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