第1624話、終局のための一手
「――主、船は制圧したぞ」
ディーシーの声。俺は、強襲揚陸艦『エールタⅡ』の艦内にいて、シェイプシフター強攻兵の制圧の様を見守っていた。
例の魔術師の部隊は、俺が甲板に送った分身に相手をさせた。バカスカ魔法をぶっ放してきたけど、魔力の塊である分身君には効かないんだよな。何せ魔力だから。
おかげで俺は、敵との会話に全部念話で返事していたけど。
つまりは、あの場に俺はいなかった。そうとは知らず、反乱軍の魔術師たちは、分身を攻撃し続けた。
あれだけ攻撃がスカスカだと、偽物だと気づきそうなものを……案外気づかれなかったな。
それはそれとして。
「これで都市内の敵は排除できたかな?」
「そうなるな。まだ我々の知らない仕掛けでもない限りは」
ディーシーさんはそう言った。何度も魔力スキャンをして確かめただろうから、信用しているさ。
「町の外の戦況は?」
「こっちも大方、片付いたようだ」
ホログラフィック状に都市周辺の様子が表示される。
陸上駆逐艦に、魔人機や戦車などの機械兵器は、同盟軍のものばかりが目につく。巨大なワーム型の兵器があるが、当然、同盟軍のものではない。そしてそれらは分断され、大地に横たわっている。
……グリーディー・ワームを思い出すな。
「外も激戦だったようだな」
真・大帝国兵器の在庫一掃セール……。しかしよくもまあ、ここまで投入したものだ。
「ベルさんやマッド、リーレがいたんだ。そこまで心配していなかったけど」
「そうは言うが主、想定より被害が大きいのではないか?」
我らがディーシーは、そう指摘した。確かに、通常戦力を相手にしたのなら、もっと損害は少なかっただろうさ。
でも敵が実験兵器や試作兵器も投入してくることはわかっていた。だから俺としては、最悪、五分五分の戦いになるかもしれないって思って、ベルさんに出撃願ったんだ。あの魔王様なら、イレギュラーが起きても対処できるって。
「そもそも、試作兵器の戦力予想なんて、難しいからね」
スペック表を手に入れたって、その通りの性能を発揮するかは、実際に使ってみないとわからないものだ。
特にこれまでの同盟軍は、そういう兵器と遭遇記録はない。つまり反乱軍にとっても、実戦投入はぶっつけ本番だったってことだ。
彼らだって、その性能を把握しきれていない。いざ使ってみたら動かなかった、とか、五分動いたら壊れたなんてことだってあるんだから。
俺たち同盟軍の前身であるウィリディス軍の兵器だって、手探り、試験を繰り返し、ディアマンテら機械文明技術によるシミュレーションで時間を大幅に短縮できたけど、実戦で使うまで、それなりに苦労しているんだよ。
「ということで、ディーシー。関係各所に、イースタス内の敵の排除完了を報告」
「了解だ」
俺は、ベルさんに魔力念話を飛ばそう。ホロ状では、敵の残骸の上に乗って、辺りを睥睨しているブラックナイト・ベルゼビュートの姿が映っている。
やあやあ、ベルさん――
『こっちは終わったが、そちらはどうだい?』
『ジンか。こっちもほぼ終わった――』
ブラックナイト・ベルゼビュートの頭が、とある方向に向いた。
『残党の残党が残っているが、お外の部隊で何とかなるだろう』
少なくとも、ベルさんが出張るレベルの敵はいない、と。
『そっちに都市内にいた敵兵を送ったんだけどね』
『そうなのか? まあ、こっちは気にしてなかったけどな』
結構派手にドンパチやっていたみたいだから、ディーシーによって摘まみ出された反乱軍兵のことなど見ても気づかなかったかもしれない。
『割と楽しめたぞ。まさか魔神機に乗って化け物退治をまたやらかすなんて思ってなかったからな』
『ワーム型か。陸上駆逐艦がやられたみたいだが』
『あの巨体だ。防壁を超えて真上から突っ込んでくるなんて、想定の外だ。仕方ねえよ』
『トップアタック対策はしていたんだけどな』
思わずぼやいた俺だけど、視線は艦隊戦のほうへスライドする。こちらはまだ続いているが……。思ったより数が減っているな。
『どうした、ジン?』
受け答えが上の空になったのを察したのか、ベルさんが聞いてきた。正直に答える。
『艦隊戦のほうがね。……意外と敵さんが粘っているようだ。のんびり観戦という雰囲気じゃないな』
俺は、ディーシーを見た。
「町の封鎖を解除。外から入れるようにしてくれ」
彼女が頷くのを確認すると、俺は再び念話を飛ばす。
『ベルさん、悪いけど、表の部隊を入れて、町の警備を引き継がせてくれ。俺は艦隊に戻る』
『あいよ』
念話を切る。
「ディーシー、部隊が入ってきたら『バルムンク』へ戻るぞ。で、その待ち時間の間に、ちょっと反乱軍の通信を使って、旗艦と交信をしよう」
この強襲揚陸艦『エールタⅡ』なら、反乱軍旗艦との通信も可能だ。そう言ったらディーシーは、早速、近くの端末の操作を始めた。
「このタイミングということは、降伏勧告か?」
「そういうことだ。切り札がもう切り札でなくなった以上、戦っても無駄――と、敵さんが思ってくれれば、案外降参してくれるかもしれない」
「しないかもしれない。相手は、大皇帝親衛隊の残党だぞ」
冷めているねぇ、ディーシーさん。気持ちはわかる。これまで、降伏を呼びかけた連中は、ことごとく突っぱねてきたからね。
ワンパターン、分からず屋。まあ、こっちもあまり期待していないがね。
「世の中、話のわかる人もいるから、一様に決めつけて、機会を逸してももったいないからね」
やるだけやろうの精神。抵抗する術がなくなれば、ダメもとの成功率も変わると思いたい。
「まあ、話すのは主だ。好きなようにすればいい。――よし、繋がったぞ」
仕事が早いね。俺は通信端末に取りつく。
「あーあー、こちら強襲揚陸艦――エールタⅡ。シーパング同盟軍、ジン・アミウール将軍だ。反乱軍の指揮官殿と話がしたい」
静かだ。応答ないけど、これ、ちゃんと通信届いてる? ディーシーに身振りで確認していると、通信機が音を立てた。
『真ディグラートル大帝国元帥、パイル・エアガルである』
あ、クローンだ。俺は察した。本物の空軍元帥は、だいぶ前にヴェリラルド王国侵攻作戦で戦死しているからだ。
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