第1615話、修正を図ろうとする反乱軍
反乱軍艦隊旗艦『シュペール』では、エアガル元帥が矢継ぎ早に命令を発していた。
モハル教授の転移装置によって、艦隊の半数が同盟軍艦隊の中に飛び込んだが、そこは歴戦のシーパング軍。旗艦を狙った攻撃も、何とか凌がれてしまっている。
艦隊をどうにかしたいが、残念ながら奇襲で落としきれなかった。その分、突入部隊は逆襲を受けている。
そして元帥としては、艦隊ばかりを見ているわけにもいかなかった。
「――地上部隊は、都市のシールドの発生源を調査せよ。仕掛けた爆弾についても確認せよ」
イースタスのすぐ上を覆う防御の膜。これは反乱軍にまったく心当たりがなく、おそらく同盟軍の特殊工作部隊が潜入し、仕掛けたものだと思われる。
都市を巻き込む戦いをしようとしている反乱軍としては、このシールドの存在は邪魔そのものである。
そしてもう一つの気がかりは、いざという時に作動させる都市の自爆装置。これで住民もろとも、同盟軍に政治的にも戦力的にもダメージを与える算段であった。
だが謎のシールドの展開によって、その目論見も怪しくなる。
同盟軍が、反乱軍の計画に気づいたのなら、爆破の仕掛けを解除しないはずがない。つまり、敵は町で今も爆発物撤去作業を行っている可能性があるのだ。
「下は元の状態に戻さねばなるまいな」
エアガルが呟くと、グリーンヴェル参謀長は口を開く。
「地上と艦隊、双方を見なければならないのが我ら司令部の辛いところですな」
「まったくだ」
本来なら艦隊司令長官だけでよかったものを、地上部隊の面倒もまとめて見なければならなかったのがケチのつき始めである。
もちろん、都市守備隊、地上軍にそれぞれ指揮官はいるのだが、元帥階級となるとエアガル一人であり、最高指導者という立場に追いやられているのである。
当然、最高指導者であれば、艦隊だけ見ていればいいというわけにもいかない。
「地上戦はどうか? イースタスの外は?」
「現在、同盟軍が優勢であります」
司令部幕僚の一人、作戦参謀が報告した。
「イースタスのシールドの存在は、地上で戦っている同盟軍にも伝わったようで、彼らの進撃が強くなりました。防衛線は、残念ながら掃討戦まで押し込まれております」
つまり、時間の問題ということだ。
都市への進撃速度を早めた同盟軍は、陸上駆逐艦を押し立て、砲台陣地を粉砕、踏み潰し、塹壕を越えた。
魔人機サイズに掘られた塹壕線は、本来なら戦車も通れない大きな溝となるのだが、陸上をいく巨大艦船なら容易に跨ぐことができてしまう。
陸上駆逐艦を通過させ、敵の裏をとったとて、共に進軍する同盟軍魔人機部隊がいて、そこで掃討されてしまう始末である。
「これはいよいよ、都市での戦闘を覚悟せねばなりません」
「そうなれば、避難していない住民が巻き込まれて、連中も動揺するだろうよ」
敵が都市に入り、爆発物で住民と共に吹き飛ばせれば上出来であるのだが、その爆発物が片付けられてしまっては、いまいち効果が薄れる。
守備隊による調査で、爆発物が健在であるか急いで確認しなくてはならない。都市の外の敵は、すぐそこまで迫っているのだから。
・ ・ ・
「――奴ら、ようやくシールド発生装置に気づいたぞ」
俺は、ディーシーと共にイースタスの町に潜伏していた。
町の頭上を覆うディフェンスシールドは健在。これがある限り、上でドンパチやっても落下物を気にする必要はない。
だが、それは反乱軍も望んでいないわけで、シールドの発生源を突き止めて、青エルフクローン兵を送り込んできた。
……この期に及んで、クローンに全部やらせるわけか。爆発物が無事なら即爆破させてもかまわないって人選だ。嫌になるね……。
「ご苦労なことだな」
ディーシーも、広場の一角にある装置を覗き見る。
青エルフクローンの分隊が、シールド発生装置の周りにいるか、触れずにいる。それもそのはず――
「ディフェンスシールドは、装置の周りにも張ってあるんだ」
普通の人間には侵入不可能。つまり、とある方法がなければ、装置を触ることも、魔法をぶつけて壊すこともできないということだ。ざまあみろ。
一人の青エルフクローン兵が、手を伸ばし、ばちっとその手が弾かれた。一瞬触れただけで火傷。遅れれば手が蒸発してしまう。
その青エルフクローンは痛みに仰け反った。これは入れませんねぇ。それはそれとして――
「痛そう……」
俺とディーシーは高みの見物である。
青エルフクローン兵は、シールドを壊そうとした。槍で突き、その槍の金属が溶けてしまうのを目の当たりにする。
それならばと魔法銃を撃ち込んだが、これも効果なしである。
「そもそもディフェンスシールドだぞ」
攻撃を防ぐためのものなんだ。武器や攻撃魔法でどうにかなるわけがないのだ。
・ ・ ・
「なに、触れない? 解除できないというのか?」
反乱軍の旗艦『シュペール』に、守備隊からの報告が届く。情報参謀が、通信士官とやりとりした後、エアガル元帥のもとに戻ってきた。
「都市に複数のシールドの発生装置らしきものを発見しました。ご丁寧に、こちらが仕掛けた大爆弾のすぐそばです。しかも爆弾は撤去されたらしく、すでにありません」
「そのシールド発生装置とやらは止められんのか?」
グリーンヴェル参謀長が問うと、情報参謀は首を横に振った。
「装置にすら触れられないようです。どうもシールドがそちらにも作用しているようで、破壊を試みましたが、破壊できませんでした」
「未知のシールド……」
グリーンヴェルは唸る。
「しかも爆発物を撤去されているとか。……明らかに敵の工作であろう。ちなみに、その発生装置はどうやって壊そうとした?」
「歩兵による武器で。しかし魔法銃も効かず、武器は逆に壊れてしまったとか」
「もっと火力がいるのではないか? 戦車砲か、あるいは魔人機を使って破壊を試みるか……」
参謀長が、司令長官席のエアガルを見上げれば、かの元帥は聞いていたのか手を振った。
「参謀長、そのように指示を出せ。どうせ壊す町だ。前倒しで多少壊れてもかまわん。……ああそうだ」
そこで思い出したようにエアガルは言った。
「どうしても駄目なら、モハル教授に相談せよ。もしかしたらよい解決法があるかもしれん」
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