第1607話、潜入! イースタス
都市へと地上から近づくシーパング同盟軍地上部隊。反乱軍の地上部隊に向かって、ジャガーノートⅡ級陸上駆逐艦が前進。
そしてAS、魔人機部隊が、敵魔人機やアラムール部隊へ攻撃を仕掛ける。騎兵槍、ブレード、斧などが激しくぶつかり、双方が近接戦闘を繰り広げる一方、同盟軍機は、魔人機用マシンガンやライフルで敵機を撃ち抜いて前線を押し上げる。
さて、このまま戦況をのんびり見守るといかない。残念ながら敵はすでに布石を仕掛けていて、それを解決しないと戦闘で勝ってもバッドエンドだ。
戦争の火を燃え上がらせることなく、綺麗にフィニッシュを決めるためには、敵の仕掛けを解除してやらねばならない。
観測ポッドで町の様子を観察、そして拡大。敵のいなさそうな場所に、転移で特殊部隊を送る。
敵さんは町に入ろうとする同盟軍を断固阻止する構えで、実際にこちらの地上軍は進撃中。町の外にいる敵は全力迎撃中だ。
こいつらが健在なうちは町の自爆――破壊行動はない。いよいよ戦力がなくなってきたところで、町を吹き飛ばすはずだ。
その前に、町の仕掛けを外しておかないといけないから、割と時間がない。
分身君に『バルムンク』を任せて、俺は転移地点を選ぶ。ソニックセイバーズ、シャドウフリート陸戦隊――敵拠点への奇襲攻撃を得意とする連中を、転移魔法で送りつつ、俺もイースタスへ移動する。
諜報部が調べて、すでに判明している爆弾の解除に、各部隊を隠密行動で向かわせる。それを尻目に、俺は町を一望した。
「ホログラフィックで立体的に見たが、実際に現地に行くと中々壮観だな」
三、四階の建物が乱立する。冬にはそれなりに雪が振るのだろう、屋根は総じて急角度だ。全体的に暗い色合いをしている。
頭上を見上げれば、真・大帝国の航空艦艇が浮かび、陣取っている。空の景色はあまりよくないね。
『しかし、本当に住民がいるようだな、主よ』
ディーシー――DCロッドが言った。わざわざ俺がここに出向いたのも、彼女の力を使うためだ。
『住民たちは家で大人しくしているな』
「自爆の際に、住民を巻き込むためだろうな。軍隊のやることか」
自国の民を守るのが軍隊というものだ。それは侵略する軍隊だろうが同じことで、自分のところは守るものである。
だが今回イースタスを占領する反乱軍は、自国の民を生け贄に戦火を広げようとしている。
町の外から聞こえる砲声。そして爆発。町の住民たちにも聞こえているのだろうが、避難を命じるでもなく、自宅待機を反乱軍は住民たちに命じている。
市街で戦闘をやったら巻き込む気満々ってやつだ。
大帝国解放軍が国軍となり、同盟軍がそちらの味方である以上、町の大帝国民を守らねばならないのは、こっちなんだよな。
「さっさと始めよう。ディーシー、テリトリー開始」
『了解』
DCロッドを設置。魔力の波を放ち、侵食していく。
「……こうも魔力が飛びまくっていたら、こちらのテリトリー波も感知できないだろう」
反乱軍も魔力索敵できる者が、町の各所で警戒の魔力を飛ばしている。もっぱら空を見張っているようだが、時々、町にもスキャンをかけているようだ。
うちの特殊部隊も警戒してはいるが、運が悪いとこの魔力波に掴まるやつが出てもおかしくない。
『主よ、イースタス全体のテリトリー化は完了した』
「よし、オブジェクトサーチ。反乱軍の設置した爆発物の所在を表示」
DCロッドから、青いホログラフィックで町の簡略図が現れた。シェイプシフター諜報部の事前情報で、同じようなホロを見ているから目新しくはないが……。
「おー、おー、あるある」
爆発物を示す赤い光点が、次々に街中に浮かび上がる。……うん?
「聞いていたより多くない?」
『小規模なものがあるせいだろう』
DCロッドは答えた。
『諜報部は、辺り一面を吹き飛ばすような危険な広範囲爆弾の位置を報告してきたが、パニックを誘発させる程度の小さなものまでは追い切れていなかったのだろうよ』
「まあ、報告の時には、まだそういう小さいのは仕掛ける前だったかもしれないしな」
パニック誘発用って、要するに嫌がらせ爆発というやつだ。爆発に驚いて住民たちを逃げまどわせるための。
今回の戦いで、町を破壊し住民を巻き込んだのは、解放軍と同盟軍の仕業にしたいと考えている反乱軍だ。
住民を犠牲にするつもりだが、全滅させるつもりもないのだろう。つまり生き残りが必要で、逃げる住民が無慈悲に戦闘の犠牲になるのを目の当たりにさせようという魂胆なのだ。
そのためには慌てふためく住民も必要ということだ。小規模爆発で家から逃げた住民たちが、市街戦に巻き込まれる――実に嫌らしい。
「デカいのは、特殊部隊に任せるとして、小さいものを処理していこう」
すでに爆発物撤去に、複数のチームが行動中。時間のことを考えるなら、手が回らない場所から片付けていくのがよいだろう。
小さな爆弾とはいえ、建物一つを吹き飛ばせる代物だ。ここで住民たちが町中に出てきてしまえば、さらに被害は拡大する。民間人が行き交う中をドンパチはしたくない。巻き添えってのが一番嫌だからね。
混乱が大きくなると収拾がつかない。治安維持すべき側は、反乱軍ではなく、こちらだと考えれば、場が荒れるのは極力避けねばならない。商店街の略奪や強盗が起きた時の被害に頭を抱えるのは、真・大帝国ではなく、解放軍側なのだ。
『意外だな、主。まずは一番危険な大型爆弾から処理すると思ったが』
「そちらには部隊を送っているからね。せっかく命じたのに、無駄足を踏ませたくはないし、俺はやってくれると信じている」
もちろん、特殊部隊がしくじったら、ディーシーさん。君にフォローしてもらうつもりだけどね。
信用していると言ったそばから、予備プランを用意済み。信じるとは?――いやいや、いざという時の手を用意しておくのは、別の話だ。
想定外の事態が起きた時にも、すぐに対処できるようにすることこそ、大事だ。最初のプランしかありませんでした、は、リスク回避がなってないよ。
「おや……」
『どうやら、我のテリトリー化に気づいた奴らがいたようだ』
俺たちのいる建物に、敵性――反乱軍兵が数名、やってきたのだ。
「人数からして、こちらの正体までは気付かれていないな」
『不審な魔力波を感知して、それが何か確認しにきたようだな』
「不審な魔力波」
『笑うな、主!』
「笑ってないよ」
被害妄想はやめてくれ、ディーシーさんよ。一階に入り、ここの住民と何やら問答をしている。俺たちのいる三階に来るのも時間の問題だろう。
ここの住民は一階と地下室にいて、二階と三階は無人。……ちょっと失礼させていただきますよ。
「ディーシーは、爆発物処理を続けろ。お客さんはこっちで対処する」
俺はオークスタッフを手に取った。
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