第1606話、突撃開始、イースタスへ
イースタス攻略作戦は、発動された。
偵察戦闘機であるフレスベルグ隊を先行させ、戦場を俯瞰しつつ、まずは一の矢が放たれる。
「攻撃隊、発艦!」
ヴェリラルド王国艦隊を指揮するアーリィーが、各空母群に攻撃隊の発艦を指示。
ファルケ小型戦闘機、ストームダガー戦闘機、トロヴァオン戦闘攻撃機、ファントム戦闘爆撃機、イールⅢ攻撃機が順次、空母から飛び立つ。
その攻撃目標は、町の外に陣取っている魔人機などの陸上部隊。敵からしても順当な動きと見るだろう。こちらが都市に向かえば、普通に外にいる部隊と最初に交戦する。
だからいきなり、都市を吹っ飛ばすこともなく、最初は戦況を注視するだろう。もし俺たち同盟軍が残党と侮り、返り討ちにできるなら、連中にとってもそれにこしたことはないのだから。
航空隊が進む中、俺は地上部隊にも進撃を命じる。陸上駆逐艦隊と、魔人機やASなど陸上装甲部隊による前進。シーパング同盟軍にとって定石であり、何ら不審なところはないだろう。
敵さんも、いつもどうりの同盟軍と見ているに違いない。
戦艦『バルムンク』の艦橋で、俺は戦況を見守る。艦隊戦はまだ先だ。敵が町の上に陣取っている以上、仕方のないことだが――
「あちらさんも、こちらが艦隊に仕掛けてこない理由を考えるんだろうな」
こちらの攻撃隊が、まず艦隊を狙わないというのは、すでに定石から外れている。同盟軍は、まず制空権を確保するから、艦隊に対する攻撃が最初というのがこれまでのパターンだったから。
「敵も、自分たちが都市を巻き込む戦いをしようとしていることを同盟軍に察知されているって、気づくだろう」
それでも、都市の上に居座るだろうが、どうだろう? 指揮官がそういうタイプではなく、積極的に前進して、こちらの艦隊に殴りかかってはこないだろうか。
「閣下、今さらですけど」
ラスィアが振り向いた。
「あなたの魔法で、敵艦隊を丸々転移させれば、町の上で戦闘をしなくても済むのではないですか? 以前、やりましたよね?」
ジャルジーの結婚式の時だな。無粋な真・大帝国が転移で艦隊を送ってきたやつ。
「まあ、場所を移動させるのは難しいけど、できなくはない」
「難しい、ですか?」
「あの時に比べて、敵艦艇の高度が低い」
もしかしたら都市の一部を転移に巻き込んでしまうかもしれない。
「それ以前に、町の上から艦隊が消えれば、連中は町の仕掛けを使って、破壊活動を行うだろうね。あたかも、こちらの攻撃でやられたように見せ掛けるために」
だから、準備ができるまで、転移で都市から除外とかも危ないわけだ。
「それなんですが……」
「どれ?」
「彼ら、本当にいざとなったら町を吹き飛ばすんでしょうか?」
ラスィアはそう疑問を口にした。
「戦争が終わるまでは、自分たちが守ってきた民です。いくら反乱のためとはいえ、同胞を犠牲になど……」
「つまり、仕掛けはしたが、いざ爆破のスイッチは押せないのではないか……君はそう言いたいんだね?」
「はい」
ダークエルフの副官は頷いた。普通の感覚だと、昨日まで慣れ親しんだ人々をいきなり爆破に巻き込むとか、正気ではいられない。
付き合いが浅くても、通勤の途中で見かける町の住民たちの顔は覚えるもので、大人もいれば子供もいる。それらを作戦とはいえ、良心の呵責もなく吹き飛ばすというのは、受け入れられるだろうか。
「気持ちはわかるけど、期待しちゃいけないよ」
相手は、かの大皇帝に忠誠を誓うイカれ信者と、命令を遂行するだけの青エルフクローンの集団なのだから。
「人ってのは、案外自分で引き金を引かなければ、どんな罪深いことでも実行できてしまえるからね」
いざ自分が、爆破のスイッチを押さねばならないとなると、色々葛藤するだろう。だがそのスイッチを、別の誰かが押してくれるなら、途端に決断が軽くなる。
何故なら、言い訳ができるからだ。
指示はした。だけど実際に押したのは、私ではない。本当にいけないことなら、スイッチを押した者が押さなければよかったのではないか――通るか通らないかは別としても、言い訳の口実にしてしまえる。
命令した奴が悪いんだけど、責任転嫁する奴には、そういう当たり前も通らないからね。
「青エルフクローンに押せと言えば、彼らは良心を傷めることなく、スイッチを押す。下手に感情のある人間に任せるより、確実だ」
だから、人の善意に期待して作戦を考えてはいけない。自分たちにとって都合がいいことを前提に作戦を立てるのも駄目だ。
かもしれない、を楽観で考えるな。
・ ・ ・
先鋒の航空隊が、反乱軍地上部隊を爆撃する。
イールⅢ攻撃機やファントム戦闘爆撃機が、結界水晶防御貫通爆弾やミサイルを撃ち込み、敵魔人機や、四脚小型戦車を破壊する。
ドゥエルタイプやエアナルが投射武器で応戦する中、リダラ・グリーヴなど飛行できる魔人機が飛び上がり、こちらの航空機に仕掛ける。
また、反乱軍も戦闘機を繰り出して、こちらの戦闘機部隊と空中戦を演じる。
最近定番の小型戦闘機であるシュトラムのほか、アポリト魔法文明時代の主力戦闘機であるラロス。トンボに似た攻撃機であるリヴェルリや、真・大帝国の三枚の可変翼を持つギィ・ラジィル戦闘攻撃機など、雑多な構成だ。
まさに、倉庫に眠っていた在庫も引っ張り出してきた感じだなこれは。もっとも、うちのウィリディス軍だって、ファルケやトロヴァオンを開戦前から使っているわけだけど。
こちらもバージョンアップを繰り返しているが、敵もアポリト時代兵器の近代化はやっていたようだ。
青と黄のプラズマ弾が飛び交い、時に機関砲から放たれた曳光弾が、相手の機体に穴を穿つ。ミサイル兵器が飛び、それを躱すべく熱源体や金属体がばらまかれ、しかし直撃して爆発する。
戦時中、数え切れないほどの戦いが繰り広げられた空。
そして地上でも、矢のように風を切って飛ぶ航空機が、敵の対空射撃を掻い潜り、爆撃やプラズマ弾を直撃させて、反乱軍の兵器を破壊する。
空の敵を撃ち落とそうとするエアナルや対空戦車だが、そこへジャガーノートⅡ級陸上駆逐艦の砲撃が突き刺さり、地面ごと耕される。
シーパング同盟軍のルプスⅡ戦車が75ミリ砲やプラズマ砲を撃ち、同盟軍ASのグラディエーター、レアブロードなどが、反乱軍地上部隊めがけて射撃しながら疾走。やがてブレードを抜き放つと、ドゥエルやカリッグなど反乱軍機に斬りかかった。
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