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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1608/1901

第1598話、戦争を続けたい者たち


『こちら、シーパング同盟軍所属、フレスベルグ1。帝都方面に移動中の真ディグラートル大帝国軍第660大隊へ。貴隊に移動命令は出ていない。速やかに所属基地へ戻られたし。繰り返す――』


 レイヴン偵察戦闘機の電子士官席から通信機で呼びかけるのは、リムネ・ベティオン。彼女は、シャドウ・フリートからの伝言役として、荒野を移動中の真・大帝国軍へ勧告を行っている。


『すでに戦争は終わった。無駄な血を流すことはない――』

『駄目そう』


 操縦担当のフラウラが呟く。リムネ――シーパング同盟軍からの勧告にも、まったく応答しない真・大帝国の魔人機部隊である。


『あちらさんは、こちらと話す気がないみたいだね』

『そのようね」


 リムネは、もう一度通信周波数を見やり、きちんと真・大帝国軍の標準周波数帯であるのを確認する。

 これで1機の魔人機も聞こえていないはないだろう。聞こえていて、敢えて無視しているのだ。


 そもそも、地上の魔人機――ドゥエル・ヴァッフェは武装を構え、周囲を素早く見回し索敵している。

 明らかにこちらの通信を受け取り、その出所を探しているようだった。もし見つけたら、普通に攻撃を仕掛けるつもりと思われる。


『随分と耳が遠い人たちだこと』


 リムネが冗談を言えば、フラウラの乗っかる。


『大皇帝の悪口を言ったら、即反応するんじゃない?』

『ああ、それは間違いなさそう』


 彼らが帝都に入ってまだ戦うほどの大皇帝信奉者なら、悪口を聞いて黙ってはいられないはずだ。


『でも駄目ね、フラウラ。そんなことを言えば、もしかしたらこちらの指示に従うつもりだった彼らを怒らせて、戦いになってしまうわ』

『うーん、難しい』


 軽口の応酬を終え、リムネは通信機を弄る。


『伝えることは伝えたわ。それでも無視するというなら、それは自己責任よね』

『異議なし』

『「バルムンク」へ。こちらフレスベルグ1――』


 リムネは、母艦に報告する。


『真・大帝国軍は応答なし。敵対意思のありと認む』

『――こちら「バルムンク」、了解。フレスベルグ1、観測任務につけ。第四艦隊は、第660大隊を敵と認定する』

『了解、「バルムンク」。フレスベルグ1は観測任務に移る。以上』


 レイヴン偵察戦闘機は高度を上げる。ステルス・マニューバー――エンジンの噴射炎すら隠す機動で、こっそり敵部隊から離れた。



  ・  ・  ・



「――終戦だと、ふざけおって!』


 真・大帝国陸軍第660大隊のカナール少佐は、シーパング同盟軍を名乗る通信に憤った。

 降伏と終戦の通知は、帝都より各部隊に伝えられた。数日前より停戦状態にあって、第660大隊も現状維持と待機を命じられた。


 しかし、状況から察するに真・大帝国にとって旗色が悪いのは予感していた。

 そもそも敵国に攻められ、停戦などという自体が初めてのことだ。間違っても統合作戦本部などは、そんな命令を出すことはなく、敵が降伏したというのであれば、そのように通達してくるものだ。


 つまり、どう考えても真・大帝国側から、シーパング同盟と交渉していることに他ならない。

 偉大なるクルフ・ディグラートルの時代なら、敵と停戦までしてする交渉などなかった。これは中央が、敵に降伏するつもりなのだとカナールは予想した。


 いつでも出撃できるよう準備をし、待機していた。大隊の士官、下士官らを集めて、いざという時は決起すると伝え、彼らの同意を得た。まだ真・大帝国にはディグラートル大皇帝を信じ、戦う者たちが多くいるのだ。

 そして、予感はしていたが聞きたくなかった降伏通知が基地と部隊に伝わった。同盟軍か解放軍が基地に到着したら武装解除するように命令が出たが、当然ながらカナールと彼の部隊はそれに従わなかった。


「大皇帝陛下がおられれば、降伏などあり得ないことである!」


 まだ真・大帝国には戦力が残っており、それを集めれば侵略者の同盟軍を撃滅することも可能。

 個々の戦力は小さくとも、それが寄り集まれば大軍となる。その魁けとなるのだ――かくて、第660大隊は行動を開始した。

 帝都で停戦の際に立ったカリューニ中佐らと、同じような動機である。


 徹底抗戦を選んだ彼らは、魔人機と支援車両で帝都への行軍を始めたが、すでにシーパング同盟軍にその動きは看破されていて、迎撃部隊が送り込まれていた。


『少佐ァ! 未確認の高速移動物体を探知しました!』


 先導の第一中隊から、敵らしきもの発見の報告が入る。


『敵は単機! しかし、かなり動きが速――うわっ』


 通信が途切れた。刹那聞こえた悲鳴と、部隊の前方で起きた爆発が見えたのはほぼ同時だった。


『敵襲!』

「敵だ! 全機、シーパング同盟軍を蹴散らせ!」


 まだ敵の正体ははっきりしていない。しかし先に送られた降伏勧告を考え合わせれば、敵であるのは間違いない。

 奴らは仕掛けてきたのだ。


「第一中隊! 敵の正体を知らせ!」


 単機と言うが、他にいないとは思えなかった。いくらなんでも40機の魔人機を相手に単独で挑むなど、正気ではない。


『敵は魔人機、いや魔神機と推定! 悪魔型――』


 悪魔型とは、黒騎士に悪魔の翼を生やしたような、魔人機としては大型のシーパング同盟のエース機体ではないか。カナールは舌打ちした。


「まさか、こうも早く大物と出くわすとはな……!」

『こちら第一中隊! 第一、第三小隊全滅! 敵は強すぎ――』


 報告の途中で遮られた。カナールは自身が操縦するドゥエル・バッフェは前進させる。


「第二、第三中隊は速やかに移動。第一中隊を救援する!」


 放置していい相手ではない。まだ戦力があるうちに数で集中攻撃を仕掛けるしか勝機はない。分散配置では、各個撃破されるだけだ。


『カナール大隊長! こちら第二中隊、側面より敵襲! 複数の模様――』


 敵の増援の報告が入り、カナールは歯噛みする。それ見たことか、シーパング同盟軍は単機ではなく他にもいた。


『敵は――見えな――』


 ガリガリと通信機からの声が雑音の波に掻き消される。先頭の第一中隊に続き、左翼第二中隊の機体反応が、あっという間に消えていく。

 どうやらシーパング同盟軍は、用意周到に待ち伏せていたようだ。


 カナールのような戦争継続派が決起を準備していたように、シーパング同盟軍もまたそんな彼らを迎撃する準備を整えていたに違いない。


「シーパングめ……!」

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