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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1606/1885

第1596話、皇帝の後釜?


 本当にな。クルフ・ディグラートルが、いなくてよかったと思う。

 彼が表舞台に舞い戻ったら、和平なんて簡単に吹き飛んでしまうだろう。


 ジャナッハ・クローンでさえ、姿が違えど大皇帝が帰ってきたら歓喜していたもんな。そっちの人間にしたら、神様みたいなものなんだ。


 シーパング同盟と真・大帝国政府の間にて停戦ならびに終戦交渉は、順調に進んだ。フィーネ・グリージス宰相の身も、国外追放、シーパング同盟受け入れという形に収まり、クルフに立ち上がらせる動機を与えなかった。

 事前に秘密を打ち明けられたアノルジ元帥も、渋々感を演出しつつ、交渉の場で了承して見せたので、他の同盟国も多くは言わなかった。


 真・大帝国は解体され、その政治形態は、一応、帝国のままだが、肝心の皇帝は不在。今後どうなっていくかは、アノルジら新政権がどうするかにかかっている。


 帝国であるからには、新たに皇帝を担ぎ上げるのが筋なのだが、ディグラートル大帝国という名が、国外に与える印象がよろしくない。

 おそらく改名することになるだろうが、その際に、帝国から王国に変わったり、あるいは共和制や連邦制に変わる可能性もあった。

 誰が皇帝になるのか、後継者問題が再燃したと言っていい。


「後継者の問題って、いつも荒れるからなぁ」


 そうしみじみと言ったのは、ジャルジー公爵である。終戦交渉の会談の合間の休憩時間、俺たちは今後について談笑していた。

 美味しい紅茶をたしなみつつ、心を落ち着ける。


「さすが、当事者が言うと発言が重いね」


 アーリィーとジャルジーの間で起きたヴェリラルド王国の後継者争い。……普通に考えれば、王子であるアーリィーが次の王だったが、『彼女』は王子ではなかったし、当事のジャルジーは自分こそが王の息子であると血気盛んだったからね。


「それはそれとしてだ――」


 ジャルジーは苦笑する。かつて争ったアーリィーとの仲は、友人、身内と呼べるほど親しくなっている。今さらほじくられても苦笑いしかでないというものだ。


「新しい大帝国に、皇帝にふさわしい奴がいるのか?」

「いれば、もう決まってるでしょ」


 いないから空位で、これからどうしましょって話しているんだから。


「正直言えば、大帝国の人材問題は深刻だ。今の真・大帝国を解体して新しい大帝国になる際に、人材はほぼ一新される。現職は追放、新任は解放軍か、それと関わり合いの深い者ということになるんだけど……」

「だけど?」

「なにぶん解放軍は、ほぼ大帝国軍人で構成されていて、それを支援するスポンサーが、大帝国の人間じゃなくて、俺たちシーパングだったから」


 普通はね、支援者が貴族だったり政治家だったりして、自国を解放する軍に資金なり物資を提供したりするものだ。で、軍が事をなしたら、その貴族だったり政治家が、新政権の中心になるものだが……。


「大帝国の反体制派は、クルフの親衛隊によって徹底的に弾圧、排除されたからね。真・大帝国になった時、大帝国議会の議員連中も大半が家族もろとも処刑されたから、いないんだよな」


 真・大帝国派か、それに追従して逃れた奴しか、解放軍以外で政治ができそうなのが。で、新政権に組み込めるのが、後者の上手く追従して逃れたような者しかいない。


「徹底的な弾圧で、大皇帝の意に添わない者は、昔から排除されていたから、いざその反対の組織が立ち上がっても人材がいないわけだ」

「ディグラートルの治世が終わったわけだから、次の皇帝は、その血縁ではないのだろう、兄貴?」

「そうなるな。ディグラートルの血筋が皇帝になることを、同盟国では危惧している国も少なくない」


 王族の見方なら、打倒した支配者の一族郎党皆殺し、だから、新しい皇帝、王族が後を継ぐわけとなる。


「アノルジ元帥が皇帝になれば早かったんじゃないか?」


 ジャルジーは指摘した。


「解放軍の指導者だったんだ。そのまま彼が皇帝になり、大帝国を治めれば済む話じゃないか?」

「本人は、自分はその柄じゃないのだそうだ」


 俺は指を立てると、サキリスがお茶のおかわりを持ってきた。ジャルジーにも確認するが、彼は断った。


「同盟各国で、彼を皇帝に推薦すれば、嫌々でもやってくれたかもしれないけど――」

「そういう話し合いはなかったな、そういえば」


 ジャルジーが唸るが、俺は微笑する。


「そういう議題は俺の方でも出さなかった。同盟軍の意向で、皇帝の後釜を決めるのは内政干渉だからね。当時の雰囲気としては、解放軍の将兵たちの士気に関わるから、敢えて言わなかった」


 自分たちの国を取り戻したら、自分たちで国をまとめる――そう思っているところに、味方とはいえ他国から、『次の指導者はこの人ね』とか『これこれこうしてね』と押しつけるのは、波風が立つわけだ。

 いくら誰も反対しない事柄だとしても、自分たちで決めるのと他国から決められるのでは、心情も違うさ。

 ジャルジーは眉をひそめた。


「オレたち戦勝国だよな、兄貴?」

「そうだよ。そして大帝国解放軍も戦勝国だよ」


 同盟国には敬意を示さないとね。


「それとは別に、アノルジ元帥を皇帝に推さなかった理由はあるんだ」

「というと?」

「彼、後継者がいないんだよ」


 息子さんは、戦争中に亡くなってしまったそうでね。


「跡継ぎがいないから、仮にアノルジ元帥を皇帝にしても、やっぱりその後継者を外部から連れてくることになるから、問題を先送りにするだけで解決になっていないわけだ」


 だから彼は、後任が現れるまで宰相に収まって、皇帝にはならなかった。宰相なら血筋はほとんど関係ないが、皇帝となるとそれも難しいからね。


「一応、ウィリディスの方で、皇帝の候補になれそうな貴族や有力者のリストを作ってはいる。皇帝になってもおかしくない、やんごとなき方が見つかればいいんだが……。誰にせよ、選ぶのは新政権の人たちだけど」


 今も残っている大帝国貴族で身分の高い人間。できれば亜人差別や他国を見下さない常識人を願いたいところだが。……まあ、そういう真・大帝国思想の強い人間は、解放軍上がりの新政権からは敬遠されるだろうけど。


「ただまあ、一筋縄ではいかないと思うよ」


 誰が皇帝になるかはわからないが、その皇帝を誰もが賛成して迎えるわけがない。クルフ・ディグラートルとその血筋しか皇帝と認めない連中とか、そのお仲間は、アノルジ元帥ら解放軍上がりの新政権のやることなすこと気にいらないだろうし。

 実際、終戦しても、何事もなく終わりとはいかないだろうね、残念ながら。


 すでにシェイプシフター諜報部によって、真・大帝国残存戦力の敵味方識別活動が行われていて……すでに『赤』判定されたところが幾つかある。

 口約束とはいえ停戦中だから、こちらから仕掛けるわけにはいかないんだけど。

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