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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1602/1884

第1592話、宰相のささやかな思考


 フィーネ・グリージスは、シーパング同盟の誇る英雄、ジン・アミウールと面談した。


 取り立てて美形というほどではない。男性としては平均。その顔立ちは、明らかに民族の違いを感じさせる。

 体型もまた平均の域を出ないが、ドッシリとした安定感を強く感じた。大地に根を張り、たとえ地面が揺れようとも、強風が吹こうとも微塵も動かされることはない。この安定感は何だろう?


 動向したネーヴォアドリスの王子、ヴェリラルド王国の公爵と比べても、何があっても倒れないと思わせるのは、かつての大皇帝に通じるものがあった。


 ――クルフ・ディグラートルが名指しするだけのことはある。


 彼は、かねてよりジン・アミウールという存在に注目していた。連合国の英雄魔術師。その頃から、すでに赫々たる戦果をあげていて、大皇帝もまたそれを楽しんでいるところがあった。


 ……そういうところは、フィーネ・グリージスもまた似たようなものだ。思い返せば、シーパング同盟の侵攻、その戦いぶりを聞いてあれこれ考えていたところは、かつての大皇帝と同じかもしれない。


 親子という実感はあまりないのだが、そういうところでクルフ・ディグラートルと似ているのかもしれない、とフィーネ・グリージスは思うのだ。ただ単に、そんな大皇帝の姿に影響されていただけかもしれないが。


 ――そう言えば、あの人が、ジン・アミウールのことで怒鳴ったり罵ったところを、私は見たことがなかったな。


 大帝国の貴族や将軍たちは、悪魔のようにジン・アミウールを嫌い、味方の犠牲を嘆き、復仇に燃えていた。彼への罵詈雑言もまた凄まじかったが、クルフ・ディグラートルだけは、むしろ好意的に見ていた。


 大皇帝は、彼を自分と同格の存在と見ていたのだと思う。ケルヴィスの姿でいたクルフ・ディグラートルもまた、そこは変わらなかった。

 そして気づくのだ。クルフは、同格の友人が欲しかったのだと。


 フィーネ・グリージスは、ジン・アミウールと話をし、食事を共にする機会を得た。停戦、実質の敗戦が確定した後ではあって、自分としてもどこか自棄に近い感情で当たったが、それがむしろよかったのだ。

 真・大帝国宰相としての立場ではなく、フィーネ・グリージスとして彼と話せた。


 率直に言って、楽しかった。

 政治の話ならガードも必要だが、プライベートなお喋りだったから、ケルヴィス時代のクルフと話しているように遠慮しなかった。


 彼が、真・大帝国にいたなら、と思ったことは偽りがない。もし時間が戻せるなら、彼が連合国から切り捨てられた時に接触して、味方に引き入れていた。

 その願望は何度も思い返していたし、自分がその状況にいなかったからどうにもならない立場なのに、悔しく思ったりしたものだ。


 だが仮に、ジン・アミウールを味方に引き入れることに成功したとして、今のような関係になれかと言えば、それは疑問が残る。

 その時は、宰相と魔術師という立場で上下関係ができていて、今ほど気楽に話せたりはしないだろう。


 いやどうだろうか。当時の大帝国の空気からすれば、ジン・アミウールが味方に加わったところで、周囲からの風当たりが相当強かったと思う。

 それならばフィーネ・グリージスの直属とか、かなり近いところで関係を持って、気のおけない風になっていかもしれない。少なくとも、ケルヴィス時代のクルフのような関係だ。


 ――……いけないな。


 つい彼のことを考えると、ありもしない想像にはまってしまうことがある。

 閑話休題。


 過去を思っても仕方のないことだが、これからのことを思えば、最後にジン・アミウールと話せたのはよかった。

 これからシーパング同盟との停戦、そして終戦の流れとなって、真・大帝国は解体され、旧大帝国派閥による統治となる。

 戦後賠償で、新政府もまた当面は厳しい状況にあるだろうが、まだ大帝国人による政府があるならマシと言える。


 それと並行して、真・大帝国軍、政府の高官は、戦勝国や旧大帝国派の統治のための生贄とされることだろう。

 賠償で補い切れない部分で、戦争犯罪人として裁かれ、政治的に国民のご機嫌取りに利用されるのだ。

 フィーネ・グリージス自身、政治寄りに身を置いてきた人間だから、それはよくわかっている。


 ――クルフ・ディグラートルは私を生かすつもりのようだけれど。


 ジン・アミウールと話して、フィーネ・グリージスの亡命について話を通すこともできるという。あの人が始めた戦争なのに、よくもまあ部外者な立ち位置に身を置けるものだと呆れてしまう。

 フィーネ・グリージスにしても、大皇帝が身を引いた時、戦争をやめようと言えなかった分、人のことをとやかく言えないのではあるが。


 全てを死者であるエラ・キャハら大皇帝親衛隊将校に押しつけて、政治屋は生き残る――ということもできたし、その方向でシーパング同盟――ジン・アミウールは考えているようだった。

 実際、軍部が強かったのは事実ではあるが、責任の全てを丸投げしてしまうのは、フィーネ・グリージスの趣味ではなかった。


 互いに言い出せなかっただけで、エラ・キャハはフィーネ・グリージスにとっては友人だったのは間違いない。

 そうやって責任回避をしなかった場合、フィーネ・グリージスの未来は明るいものとは言えない。


 よくて幽閉。普通に考えれば断罪され、処刑というパターンだろう。軍部にいくら責任を押しつけたところで、戦勝国というのは気まぐれだ。ジン・アミウールや元大皇帝が手を回そうとも、同盟の他の指導者たちがそれを認めないこともある。

 むしろ旧大帝国派閥の怨恨、それを晴らすための生贄になるかもしれない。


 ――私の人生とは、何だったのだろうな……?


 軍に入らず、出世もせず、一貴族令嬢として生きていたなら――今頃、旧帝都の粛正で死んでいただろう。それも友人――いや軍に入らなければ友人にはならなかっただろうエラ・キャハの手によって。

 だが戦争もなく、平和に暮らせていたなら、軍に入らず、生きていたならどうなっていただろうか、と考えずにはいられなかった。

 それが、フィーネ・グリージスに与えられたささやかな自由だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィーネにものんびり生きてほしいものです。 馬東が味方サイドについたのはここ最近の流れで一番の意外性があったので、それに比べたらなんてことは…なんて思ってしまいますw [一言] 以前感想…
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