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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1592/1885

第1582話、戦争、終わるといいなぁ


 色々やることあると言ったな? 嘘ではなかったがそれどころではなかった。

 俺のいる戦艦『バルムンク』に次々と連絡艇に乗って、いわゆるお偉いさんがやってきたからだ。

 まあ、真っ先にきたのは、未来の妻であるアーリィーだったんだけど。


「お疲れさま、ジン」

「君もな。空母機動部隊の指揮、ご苦労様」


 帝都攻防戦の間、アーリィーの指揮する空母群とその航空隊は、真・大帝国軍航空隊をよく押し留め、敵に制空権を一度も渡さなかった。

 おかげで地上部隊が、大掛かりな空爆を受けることなく、陸戦に集中できた。さすが同盟軍随一の空母部隊指揮官だ。


「ジンこそ、全体指揮お疲れさま。今回も勝ったね」

「そうなるように戦っているからね」


 自分にできることをフルに活用した結果だ。思い起こすと、シェイプシフター諜報部が上手く情報を得て、事前にヤバいのも潰せた。

 ジャナッハ・クローンやノイマン博士と接触できなければ、シーパング同盟軍は怪獣に手間取り、ようやく帝都周りを攻略できた辺りで止まっていたかもしれない。

 クティノスやフォースフッドとかと初遭遇して、前線は苦戦していた可能性もある。


 しかし、それらを排除したり対策できたから、味方の被害、犠牲もある程度抑えることはできたと思う。

 戦争だから犠牲は避けられないが、それが少なく終わるのが一番だ。たとえ勝っても、自陣営に犠牲者が多ければ、勝利の価値も薄れる。充分な力を残して勝つ、それが重要だ。


 その点、俺たちシーパング同盟軍は数で不利な分、常に犠牲を出さずに敵に打撃を与える戦い方に終始していた。それが活きたとも言える。

 アーリィーとあれこれ話していたら、ジャルジーがやってきて、クーカペンテ代表のヴィックが、騎士であり伴侶でもあるティシア嬢を連れてきて、エルフのカレン女王、プロヴィアのエレクシア女王が挨拶に次々に現れた。


 アーリィーとイチャイチャしている時間もないのか? というのは冗談だが、ベルさんが兵たちも戦勝祝いをしているというので、それに倣ってささやかな会食となった。……ああ、前線で今も頑張っている兵がいると思うと、少々心苦しさもあるが、これはこれで仕方がない。

 上層部には上層部の仕事があり、兵には兵の仕事があるのだ。



  ・  ・  ・



「帝都を巡る戦いは、シーパング同盟軍が制した。真・大帝国軍、その中枢は壊滅し、帝都の戦争継続派はだいたい片付いた」


 俺は告げると、ジャルジーが用意したとっておきのワインを一口。……マイルドな口当たりだねこれ。


「つまり、戦争は終わりということか、兄貴」


 ジャルジーが言えば、エレクシア女王とカレン女王がニコリとした。戦争終結――皆が待ちわびたその言葉。

 カレン女王のエルフの里は、幾度も大帝国に脅かされ、エレクシア女王のプロヴィア王国は二度壊滅した。復興だって大変なのに、よくぞこの戦争に協力してくれた。


 すべては二年前、功を焦った連合国が大帝国の息の根を止められなかったことが、ここまで長く苦しい戦争を生んだ。

 そのせいで、プロヴィア王国、クーカペンテは二度も大帝国に支配されることなり、多くの民が犠牲になった。


 早まった連合国の不始末は、結局自分たちを滅ぼすことになる。連合国の旧指導者層は、真となった大帝国によって逆に息を止められ、ウーラムゴリサほか四つの国が滅びた。犠牲になった民には申し訳ないが、俺を切り捨てたバチが当たったのだ。

 それがなければ、この戦争は二年前に決着がついて、連合国も崩壊することもなかった。自業自得だ。繰り返すが、指導者の誤りで犠牲になった民は気の毒だった。


「まあ、終わるといいな」


 俺がしみじみと言えば、アーリィーが眉をひそめた。


「何か気になることでも?」

「戦争は終わらせるのが難しい。で、いざ終わっても、まあ色々やることがあるんだよ」


 たとえば真・大帝国をどうするとか。かの国が占領してきた土地、領地の扱いとか、おそらく莫大なものとなる賠償金とかさ。

 シーパング同盟に参加した国々は、消費した戦費を取り戻したいし、戦功をあげた部下に報酬を、死んだ兵の家族は慰藉料や年金をと、とかくお金が掛かる。


 何より、大帝国、真・大帝国の諸外国のやらかしに対する恨み、怒りの感情は、同盟軍に参加した国々とその民には根強い。

 停戦から講和――もうこの段階で、真・大帝国には同盟軍に勝つ手立てはなく、降伏するしかないだろうが、そうなったら始まるのは、戦勝国側の報復である。

 過去の戦争犯罪を炙り出し、責任者の処罰。領地の没収、自国領への編入。賠償金は、数十年かけても返せないほどの莫大なものになるのは想像に難くない。


 財政破綻で大帝国が消滅ということもあるし、領土をバラバラに分割されて消滅もある。むしろ敗戦国の王族貴族を処刑して、完全に滅ぼすなんてのは、現代より前の文明ではよくあることで、この世界でも珍しくない。

 もしかしたら傀儡政権が樹立されて、戦勝国側から搾取されたり……うー、ちょっと考えただけで憂鬱になってきた。


 占領下や傀儡統治下だと、戦勝国側の略奪や性的暴行などが頻発するだろうから、それを阻止するための監視が必要だが、味方陣営で厳しく取り締まれば恨みを買って、国家間の不仲にも影響するから痛し痒しだ。

 そして、敗戦国もやられた恨みを忘れず、数十年後に報復で戦争が始まったり――とかいうのが、俺のいた世界の第一次世界大戦の後の、第二次世界大戦へのきっかけの一つだったりする。


「やはり人間、ほどほどが大事なんだ」


 何事もやり過ぎてはいけない。第一次世界大戦後の戦後処理が苛烈でなければ、ドイツは第二次世界大戦を起こさなかったかもしれない。戦勝国が恨みにまかせて全力で殴り掛かった結果、数十年後に潰すリストにあげられて占領されてしまうのだから、加減って大事だと思う、ほんと。


 そう考えると、現代人からしたら野蛮だが、敵だった王族貴族を皆殺しにして滅ぼすというのは、数年、数十年後の報復を防ぐ手段なんだろうな。一族郎党皆殺しは、連帯責任云々じゃなくて、報復が怖いからその可能性をなくそうってことだ。

 巻き込まれる方は迷惑なんだが、忠誠心厚い者とか、敵対者に反発している者だったら、容易に報復しようとなるからなぁ。


 明日、フィーネ・グリージス宰相と事前調整する予定ではあるけど、同盟参加国としては、どういう賠償、報復を考えているんだろうか。

 旧大帝国陣営が同盟軍に参加しているから、一定の歯止めはかけられるだろうが、大皇帝一族の処罰――処刑というのは想像できる。……肝心の元大皇帝陛下が不死身なんで、それ通用しないのよな。


 むしろ、フィーネ・グリージスに責任をとってもらって処刑とかになったら、大人しくしているクルフがプッツンして、報復とか、かえってこじれそうなんだ。


 責任問題については、死人に口なしというか、死者に鞭打つようでアレだが、熱烈大皇帝信者である親衛隊に全てをなすりつけてしまう方が、まだマシな気はする。事実だとしても、その親衛隊の親族などが迫害されるだろう未来が見えるのが嫌だけど。


 ……まあ、根っからの人間至上主義、亜人差別主義者だったなら、同情の欠片もないから楽なんだけどねぇ。

 本当、終わってからも大変なのよ、戦争ってやつは。


 そういえば、戦勝国側が無理難題をふっかけすぎると、戦争が終わらず、兵力がなくても最後まで戦うなんてことになることもあるんだよね……。

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