第158話、クラスメイトとダンジョンに行ってみた
翌日の午後、大空洞ダンジョンへは魔法車での移動だった。
「いったい何だこれは!?」
「これが、移動用の魔法具だといいますの!?」
初めて見たマルカスとサキリスの反応は、まあお約束といったところだろう。これからちょくちょくお出かけすることになる二人である。いまのうちに慣れてもらう。ああ、もちろん、他の人間には内緒な?
そして今回、大空洞へ向かうにあたって、付き添い人がいる。
魔法騎士学校教官である、ユナである。ダンジョンに行くと話したところ、同行を申し出たのだ。教官であり、同時にAランク冒険者である彼女がいれば、少なくとも体面は保たれているだろう。
ということで、俺は運転席、アーリィーが助手席。ベルさんはその間の専用席。残る三人は後ろに乗ることになったが。
「……狭い」
マルカス、ユナ、サキリスは装備で固めているからより窮屈さに拍車がかかっていた。……もう少し、大きな車を作るか。
魔力エンジンとなる魔石が必要か……ああ、そういえば王都防衛戦でオーク軍から回収した大量の魔石があった。あれを合成してある程度の大きさにまとめたらあるいは……。
そんなことを考えながら、俺は王都で魔法車を走らせる。相変わらず擬装魔法で姿を変えているので、騒がれることはない。初めて車に乗るマルカスとサキリスは、窓から見える周囲の景色を興味深げに見やる。行き交う人々。見慣れた王都の町並みが、いつもと違って見えるようだった。
そして王都外壁の門を抜け平原に出ると、俺は早速、スピードを上げてダンジョンを目指す。その速さに、初めて魔法車に乗る二人は目を見開き、驚きを露わにした。
「馬車なんかより断然速いな!」
マルカスが声を上げれば、助手席から振り返ったアーリィーがニコニコと彼を見るのだった。
一時間ほどのドライブの末、魔法車はダンジョン『大空洞』へ到着した。
車から降りて、俺たちは装備品の最後の点検。
俺は竜鱗の服にエルフマント、左腕にミスリル製小型盾、武器には古代樹の杖を持っている。英雄時代に古代樹の森で手に入れた素材から作った杖は、軽くて硬く、魔力との相性もいい。革のカバンに荷物を詰め、腰のベルトにはダガー『火竜の牙』を下げている。
アーリィーはカメレオンコートの下に、ミスリル製の胸甲と肩当を着込んでいる。俺がダンジョンでの行動を考え、極力軽いほうがいいと助言したためか、それ以外に防具らしいものはない。
だが以前渡した防御魔法具できっちり固めているため、軽装に見えて、おそらく一番防御力が高いだろう。武器は最近定番のエアバレットとライトニングソード。これに加え、腰には緊急時の薬などを入れるポーチと、魔石拳銃をホルスターに下げていた。
サキリスは、ミスリルの鎧に盾、剣と、ふだんの訓練ではおなじみの装備だ。女性魔法騎士としては定番のスタイルだが、大変高価なミスリルシリーズで固めているのは、さすが裕福な家の出と言える。
「兜は?」
俺が問うと、サキリスは不満げな表情を浮かべた。
「わたくし、あまり兜って好きじゃありませんの」
特にデザインが、と伯爵令嬢はおっしゃった。元々防具なのだし、肝心の機能さえあれば見た目は二の次……でもないか。
戦国時代の武将の鎧兜、特に兜の角飾りの独特さは個性の主張も甚だしいものがある。偉い人の装備はそれなりに自己を表現する道具でもあるから、サキリスの言いたいことは何となく理解した。
せっかくの美顔を損なう、という女の子的な思考の発露だとしても。
「それでも、頭を守る防具はあったほうがいい。帽子でも髪飾りでも何もないよりは……まあ、次までにちょっと考えてみようか。女の子らしい、可愛さとできれば機能も考慮して」
俺がそう言うと、サキリスは「可愛さ」という言葉に惹かれたのか興味を示したようだった。……あと、アーリィーが何やらとても熱心な視線を向けてきた。君は、この中では男の子という扱いだからね? 可愛さは無理だよ?
さて、マルカスの装備は、まさに騎士と呼ぶにふさわしいプレートメイルだった。……うん、マジで硬そう。同時に重そう。前衛に置いたらまさに壁。重量級でもなければ体当たり食らってもビクともしなさそうだ。
武器はアイアンソードで、盾は下が三角になっている、いわゆるカイトシールドを持っている。
「……どうしたんだ、ジン?」
「いや、別に」
何事も経験だと思う。以前の野外遠征の時より動くつもりだけど、これだけの防具をまとってどこまでもつかねぇ……。生半可な鍛え方はしていないはずだし、マルカスは生真面目だからある程度は問題ないと思うが。
見た目は重そうだが、可動部は大き目に作られているので意外に動ける。それはわかるのだが……伯爵家出身と階級上は同じはずなのに、サキリスと差を感じるのは妙な気分だ。
「マルカス、お前、ミスリル製の武具持ってなかったっけ?」
「ん? ああ、あれは家からの借り物だ。おれは次男だからな。後継の決まってる長男と違って、自由にできることは少ないんだ」
あぁ、そういえばよっぽどの無能か、健康上の理由がない限りは、貴族社会っていうのは長男が優先されるんだったな。後継者優先主義というか、次男三男はそのための予備的な扱いで、財産的にも雀の涙程度とか。
とはいえ、サキリスのミスリル製と比べるからいけないのであって、鉄製のプレートメイルだって、相当高価な装備なんだけどな。
一方でベテラン冒険者であるユナは、魔女帽子こと三角帽子に黒のマント、腕に銀色の腕輪をつけているが、おそらく防具をかねた魔力増幅触媒だろう。武器はデバステーターロッドである。
こっちは魔法使いのスタンダードな格好で、特に割り振るまでもなくポジションは後衛だ。
ベルさんは、今回は黒猫形態で通すつもりらしい。大空洞の初級階層で暴れるつもりはないのだ。いや、新人教育の場だと理解しているんだろうな。
その黒猫以外は、それぞれポーチを携帯。中にはポーションが三本、毒消しなどが入っていて、軽度な手当てや回復行為が行えるようになっている。俺やアーリィーが治癒魔法を使えるが、それができない状況などに備えるのだ。
以前、ホデルバボサ団のクレリックが落とし穴トラップでパーティーから切り離されてしまった事例もある。回復役を一人に固定してしまうと、その人物がいなくなった時に酷い目に遭うのだ。
俺とユナで、装備の不備がないか確認した後、ぽっかりと開いた大空洞の入り口へと足を踏み入れた。
アーリィーたち三人は、初めて訪れる場所に緊張やら興奮やらが表情に出ていたが、俺やベルさんにとってはもはや慣れた道だった。




