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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1570/1886

第1560話、父と娘


 ケルヴィスの姿をしたクルフは、不在中に敵地であるシーパング島にいたという。この答えは、フィーネ・グリージスを驚愕させた。


「それは確かなのか、クルフ?」

「ええ。ジン・アミウールにも会えました。いやはや、まったくもって素晴らしい体験でした」

「ジン・アミウールだと!? 本当なのか!?」


 さらに驚かされるフィーネである。正直、信じられなかった。見えない拳に何発も殴られているような感覚だった。


「どうやって、シーパング島に!?」

「遺産の巣近辺に来ていたシーパング同盟の戦艦に忍び込んだんですよ。そしてそのまま彼らの本国に便乗です」


 クルフは、ティーセットを持ってきた。いつぞの苦いお茶――南方特産のニーヴェル茶がそこにあった。


「当面、連絡は取れなくなるというのは、まさか敵艦に忍び込んだからか?」

「そうですよ。……どうぞ」

「ありがとう。よく潜入できたな」

「苦労しました」


 言葉とは裏腹にまったく苦労を感じさせない表情だった。フィーネ・グリージスはお茶を一口。苦味、いやまろやかなコクを舌に感じる。


「あれ、ひょっとして美味しい、か?」

「初回より、舌が慣れたのかもしれません」


 自身もお茶を啜り(すす)ながら、クルフは言った。


「人間は慣れる生き物ですから。ファーストコンタクトが最悪でも、二度目は意外といけてしまうことは珍しくない」

「普通に君の腕が上がったんじゃないかな」

「あちらで、お茶の淹れ方を教わりました。シーパング島はいいですよ。法に抵触しない限りは、何でもやれますから」

「ふーん。それでシーパング島では何をしていた?」

「観光と滞在です」

「潜入したのだから偵察でもすると思ったのだが」

「観光で得た情報も、使い方次第では偵察や諜報になるんですがね。ただ私の場合、早々にジン・アミウールに正体が発覚してしまいまして。大っぴらなスパイ活動は無理でしたよ」

「ジン・アミウールに会ったと言っていたな。捕虜になったのか?」

「いいえ。彼は私を快く迎えてくれました。まんざら知らない仲でもないですし」

「……それがわからない」


 フィーネ・グリージスは睨んだ。


「ケルヴィス、いや、クルフの交友関係が随分と謎だった。マトウ博士とも知り合いだっただろう? クローン研究所、魔法団絡みで知り合った可能性もなくはないから、そこは目をつぶれたが、さすがに今回ばかりはな」

「ジン・アミウールは、私の師の一人ですよ。彼といると新しい発見がある。正直、楽しいです」

「……」

「嫉妬ですか? 自分がまだジン・アミウールに会っていないから」

「何を言い出すかと思えば」


 フィーネ・グリージスは鼻で笑う。


「私と彼は、敵同士だ。私は真・大帝国の宰相。現在の真・大帝国指導者だ。対してジン・アミウールは、大帝国打倒を掲げるシーパング同盟の将軍だ」

「私もかつて、彼の敵でしたよ」


 クルフはお茶をすすった。


「姉上が、ジン・アミウールに一定の好感を持っていたのはわかっています」

「何だ、好感とは!」

「彼の話をする時はいつも上機嫌だったじゃないですか。普通は逆ですよ。大帝国の敵なんですから」

「……」


 閉口するフィーネ。彼女は小さくため息をついた。


「それで、今の君の立ち位置はなんだ? シーパング島で、ジン・アミウールに会い、同盟に感化されたか?」

「私はどちらにも与することはない立場だったんですが……正確には、ジン・アミウールと約束しましてね。この戦争には大皇帝としては関わらないって」

「……!」

「ただ、実の娘が苦労しているので、親らしいことをしてやれなかった代わりに、この期に及んでお声がけしようと思った次第です」

「大皇帝、陛下……?」


 フィーネ・グリージスの言葉に、クルフは頷いた。


「まあ、そういうことですよ、我が娘。……といっても実感はあまりないんですが」


 何せ隠し子で、直接親子として関わったことは一度もなく、知らぬまま上司と部下の関係であった。


「オリジナルって……そういう」


 ようやく、フィーネ・グリージスは、目の前の少年が、大皇帝クルフ・ディグラートルであることを認めた。……まだ、にわかに信じきれていないが。


「君が、私の父だったとして、ご用件は? 伺いましょうか」

「君がこれからどうするつもりなのかなー、と思って、その確認」


 クルフは口調を改めた。


「一応とはいえ後継者に君を指名したわけだけど、タイミング的には最悪だったわけで、面倒を押しつけてしまった。そのことは悪かったと思っている」


 国を渡せば喜んでくれるかな、と思った時に書いて遺したら、彼女を苦境に立たせてしまった。つまりは貧乏くじを引かせた、いや押し付けたわけだ。


「この戦い、もうすぐ決着がつくだろう。……今、私のクローンが統合作戦司令部周りで奮闘しているようだが、直に片がつく。軍が壊滅すれば、もはや抵抗の余地はない。その場合、君はどうするのか、と聞いているのだ」

「……」

「降伏か? 徹底抗戦か? それとも自決か? あるいは亡命か」

「どれもあまりゾッとしませんね」


 フィーネ・グリージスは皮肉げに笑った。口調に関しては、完全に両者で力関係が逆転していた。


「最後の亡命というのがわかりませんが。……私に亡命できる国などありませんよ」

「シーパング本国に亡命できるようにしてある」


 クルフは告げた。


「我が師であり友人であるジン・アミウールは、君の立場に同情的である。現状、戦争継続を図る軍部の存在が、停戦も講和も妨げている。全ての責を、軍に押しつけたとしても、間違ってはいない」

「……」


 フィーネ・グリージスは無言である。その表情は冷静そのもので、しかし何を考えているのか、表情からは窺いしれない。


「あなたは、私が娘だから、助命をジン・アミウールに頼んだのですか?」


 フィーネの声は硬質だった。


「軍に全ての責があり、政府はそれに従うしかなかった、と? ふざけているのかっ!」


 彼女は怒鳴った。


「あなたが始めた戦争でしょう! 軍は、亡きあなたを信奉し、この狂った戦いを継続しているっ! それで娘は助けて、あなたを信じて戦った者たちをゴミのように捨てると? 自分がこの状況に追い込んでおいて、よくもぬけぬけとっ! 恥を知れッ!」


 クルフは黙って聞いていた。面と向かって彼に怒鳴ったのは、果たしてどれくらい遡る必要があるか。

 しかし、クルフは微塵も揺るがなかった。


「言いたいことはそれだけか?」

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