第1557話、怒濤の進撃! 同盟軍地上部隊
魔人機やASがおよそ全高5、6メートルサイズ。であるならば、民家の裏にしゃがむなどすれば、ある程度身を隠すこともできる。
しかしここ、帝都グラン・ディグラートルは、古代機械文明並の高層の建物が多く、近代化された構造ゆえ、一種の巨人の国と言ってもよく、立ったままでも隠れることができる。
あからさまに土嚢や石材を積んだ陣地が道の真ん中にある場合もあれば、突然、建物の陰から飛び出して斬りかかることもできた。
真・大帝国魔人機のエアナルが、陣地からソードライフルで侵入するシーパング同盟軍魔人機を撃つ。
盾を構えて突撃するレアヴロード。すると半壊したマンション型建物から、ドゥエル・ランツェが飛び出し、巨大槍で障壁を突き破り胴体を貫く。対向車線を飛び越え、建物に激突し崩れるレアヴロード。
槍を引き抜き、再び隠れようとするドゥエル・ランツェ。しかし、そこをASグラディエーターが2機、ブーストダッシュで近づきながらの33ミリマシンガンの連打。障壁貫通弾は、ドゥエル・ランツェの装甲を抉り、自慢の騎兵槍を盾に防御姿勢をとる。
が、加速して突っ込んできたグラディエーターの腕部プラズマナックルによって、槍を破砕される。
殴ってきたグラディエーターは直後に上昇。やられたドゥエル・ランツェは思わずそれに視線が誘導されるが、それが命取りとなった。もう1機が突っ込み、プラズマブレードで胴体コクピットを貫かれたのだ。
真・大帝国守備隊と、シーパング同盟軍の戦いは激しさを増す。同盟軍は人型兵器で乗り込んできているため、真・大帝国歩兵は陣地にこもっての持久が難しくなる。
待ち伏せや奇襲を仕掛けても、発見されたら最後、陣地ごと粉砕されてしまうのだ。拳なり足なりでミンチになった青エルフ・クローンや真・大帝国兵の数は数えきれず。
真・大帝国は新しい型であるエアナルの他、旧式のドゥエルタイプも総動員である。一方の同盟軍も、レアヴロード、リダラタイプ、グラディエーター、ソードマンと多様な魔人機ないしASで対抗する。
押さえ込もうとする真・大帝国軍だが、シーパング同盟軍には魔神機がいた。
セア・エーアールカスタムが、疾風のように駆け抜ければ、怯んだ真・大帝国魔人機を、ドゥエル・ファウストSが見えない拳で、その頭部を跳ね飛ばし、小隊がたちまち全滅する。
セア・ピュールEが炎の玉を召喚し、魔人機とセットで待ち伏せする敵兵にぶつけて、炙り出す。
「大火力が封じられていたってねえ、やりようはあるんだよ」
ペトラCは足元をチョロチョロする敵兵を見やり、舌を出した。
「あんま目障りだと、潰すよ!」
『ペトラC、上昇!』
「ッ!?」
グレーニャ・ハルの声に、反射的に愛機のセア・ピュールEをジャンプさせた。極太の熱線、いやビームが足元をかすめた。
「あっぶ! 市街地で大火力を使うなっての!」
ヒステリックに怒鳴るペトラC。射線を辿れば、市街地の道路の真ん中に四脚型の重戦車の姿があった。
「こっちが火力制限してやってるのに、そっちはお構いなしかよ!」
『落ち着きなさい、ペトラC』
グレーニャ・ハルのたしなめる声。それと同時に四脚重戦車の横のビルのような建物が突然、ボキリと折れるように倒れた。戦車はぺしゃんことなる。
「うっわー……。今やったのは、ハル、あなたですか?」
『そうよ』
セア・ゲー、大地の魔人機が、鬼神機セア・アネモス譲りのワイヤーカッターで、建物を切断、重戦車を下敷きにしたのだ。
『油断しないで。またまだ来るわよ』
統合作戦司令部建物がある方向には、まだ無数の即席陣地と敵魔人機の姿があった。
「なかなか歓迎してくれるじゃないか! ハル、司令部方向に味方はいないでしょ? プロクス、撃たせてくださいよ!」
『いいわ。まとめて吹き飛ばしてやりなさい。……ただし、別方向に逸らしたら、先行しているかもしれない味方に当てたるかもしれないから、それは承知しないわよ』
グレーニャ・ハルの厳しめの声。ペトラCは笑い出したくなった。自分たちは吸血鬼。同盟軍に受け入れられ参戦しているが、人間を味方というと違和感なのである。
「そんな前に味方がいるんですか?」
『私の妹がいるのかもしれないのよ、わかるわね?』
少々ドスのきいた声のグレーニャ・ハル。
妹、グレーニャ・エル。確かに風の魔神機乗りである彼女は突出しがちで、敵陣深くに潜り込んでいることも珍しくない。
「了解、気をつけますよ!」
ペトラCは、セア・ピュールEが背部に背負っている長物――プロクス・トゥリアを取ると構える。魔力式火炎砲は、鬼神機の強力な魔力によって、戦艦級の防御シールドを貫通し、轟沈させる武器だ。
「これで司令部も吹っ飛んだらごめんねぇ……!」
セア・ピュールEはプロクス・トゥリアの引き金を引いた。膨大な熱量が放たれ、パッと広がったそれは、射線内のエアナル、ドゥエルタイプ魔人機を障壁ごと溶かし、消滅させる。
「道が出来ましたよ、ハル!」
『よくやったわ。……第三大隊へ、統合作戦司令部まで前進!』
シーパング同盟の魔人機、ASが、セア・ピュールEがこじ開けた穴に沿って前へ出る。都市攻略戦の目標として、敵の撃破と司令部制圧が課せられている。
グレーニャ・エルの所属するソードナイト第一大隊も、別方向から司令部へ目指している。道中の敵機を掃討しながらなので、幾ら早い風の魔神機でも、それなりに時間を取られる。
市街戦の怖いところは、敵が容易に側面や背後に回れること。遮蔽が多いから待ち伏せはもちろん、移動さえ見逃す危険性もあるのだ。敵を倒したから、もうそこに敵はいないと決めつけてはいけないのが市街戦である。
・ ・ ・
その攻撃は、統合作戦司令部を揺さぶった。
エラ・キャハは顔を上げた。
「報告!」
『司令部正面に大出力の攻撃が着弾。結界水晶防御によって阻止しましたが、敵魔人機部隊が急速接近中!』
「くっ……!」
守備隊が押さえきれない。即席とはいえ都市内の陣地が簡単に突破されているかのようだ。
――こんなにあっさり陥落するの? 帝都が……!
あってはならないことだ。エラ・キャハは呟いた。もうこうなっては、防衛戦に参加すべき段階だと、彼女は考えた。
「バルティナを準備なさい。ワタシも出るわよ!」
エラ・キャハは、真・大帝国の魔人機乗りでもある。彼女は、チラリと統合作戦司令部の幕僚たちとラワル参謀総長を見た。
「貴方たちも、忠誠を誓った大皇帝陛下のために覚悟を決めなさい」
「閣下!」
通信担当が振り返った。
「地下格納庫より通信です!」
「残っている機体は全部出しなさい!」
「はっ、いえ、ケルヴィス・ディグラートルが、魔神機で出ると――」
「ケルヴィスが!?」
大皇帝の遺産の巣を巡る戦いで行方不明となり、そして別の場所で発見、保護された『本物』の大皇帝クローン。フィーネ・グリージスにもその所在を伏せていたが、この状況で出撃するという……。
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