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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1556話、切れ目ない艦砲射撃


 戦艦『バルムンク』の艦橋で、俺は戦況を見守っていた。


 陸上部隊は、帝都の東側より防壁を突破し都市内へ侵入を果たした。真・大帝国の守備隊が当然の如く迎撃していたが、これについては想定通りの展開だ。

 連中にとっても、これ以後はない。決死の覚悟で抵抗するだろう。都市攻略戦の難しいところだ。


 それはそれとして、帝都の外の戦いだ。航空隊は、一進一退。双方とも奮闘し、どちらが優勢と断言できる状況ではない。


 で、地上戦闘だが、こちらが帝都東に集まっているから、北と南、双方から守備隊が挟むように向かってきている。町の周りはクレバスがあって、左右から迂回するしかないというところなのだろう。

 こちらは、ジャガノートⅡ級陸上駆逐艦4隻が、帝都方面に艦首を向け、左右に3隻ずつが艦首の壁で即席陣地を作り、敵に向けて防壁となっていた。


 もっとも、そこまでたどり着ける敵は少ない。シーパング同盟艦隊が、空から艦砲射撃を加えて、進軍する敵地上部隊を粉砕し続けていたからだ。

 ベルさんが呆れ顔になる。


「しかし、連中は懲りないよな。自分からプラズマ弾の雨に突っ込んでいくってよ」


 ろくな反撃もできず、艦砲射撃が耕しているキルゾーンに踏み込む真・大帝国魔人機。エアナル、ドゥエルタイプなど、回避しながら進もうとしている機体もあるが、そもそも部隊で固まって移動するから、余分な回避スペースはあまりない。


 自分たちより前の連中がやられているのに、そこに敢えて突っ込んでくる真・大帝国兵――青エルフ・クローン。盲目的過ぎるのも困りものだ。


「考え方としては、俺たちが、ファイラカーン要塞を帝都へ向けたのと同じ理屈だよ、ベルさん」


 こちらの弾薬を消耗させるため、敢えて撃たせている状態。


「統合作戦司令部の作戦だろうが、こちらのプラズマ弾のエネルギーやミサイルの残数を減らそうとしているんだ。で、こちらが弾切れを起こせば、残っている奴らが突っ込んできて、乱戦に持ち込む」

「するってぇと、肉壁ってやつか。エゲつないなぁ、真・大帝国は」

「エルフ・クローンの命なんて、消耗品としか見ていないんだろうね」


 生きた人間を弾除けに使おうって言うんだからさ。俺は戦術モニターの端の、航空艦隊の主砲斉射カウントを目にやる。そろそろ、冷却が追いつかなくなるかな。


「右翼、ヴェリラルド王国艦隊に後退指示。リヴィエル、エルフ艦隊と交代だ」


 俺は、命令を発する。


「左翼、大帝国解放軍、ネーヴォアドリス艦隊にも同じく後退を指示。シーパング本国艦隊第二群とクーカペンテ、プロヴィア艦隊は前進。砲撃を引き継げ」

『了解』


 シェイプシフター通信士が、ただちに該当(がいとう)する艦隊に指示を出す。俺は、キャプテンシートに身を沈めた。


「敵もこちらのエネルギー切れを狙っているんだろうが、そうは問屋が卸さない」


 艦隊をローテーションすることで、プラズマ弾のエネルギーチャージと砲の冷却を行わせる。そして敵には、その切れ目を与えないように、絶えず砲撃を浴びせ続ける。


「割と正念場だよ」


 帝都を制圧するまで、侵入口――橋頭堡を確保しておかないといけない。クレバスを挟んで展開する地上部隊が、万が一にもやられたら、帝都に侵入した部隊が退路を断たれて、孤立、殲滅(せんめつ)の危機に陥るからね。


「中だけでなく、外でも戦線を維持しないといけない。そして単純に考えても、外にいる敵のほうが数が多い」

「魔導放射砲で薙ぎ払うったほうが早くねえか?」

「いざという時はそうするよ」


 艦砲射撃のローテが破られそうと感じたらね。


「切り札と言うのは、とっておくものだ。最初に大技をぶちかまして、後で必要になった時に使えないってのが一番困るからね」


 戦場では、魔導放射砲は使い捨て兵器も同然。交換しないとその戦場じゃ使えない。


「それで使わずに終わっちまうやつ」


 ベルさんが笑った。俺は微笑する。


「切り札を使わずに終わるってのは、理想の戦い方だよ」


 しかし、いくら青エルフ・クローンとはいえ、この状況でよくもまあ、戦意を失わずに命令に従えるものだ。


 まともな神経ではいられなんだろうな。前へ進めば機関銃で蜂の巣になるとわかっていて、無防備に突っ込んでいくのと同じような状況だってことだ。


 第一次世界大戦の欧州戦線。その塹壕戦を戦っていた歩兵たちも、そんな気分だったんだろうか。

 自軍の塹壕にこもり、敵の塹壕を奪う。敵からの砲撃が突き刺さり、敵陣を奪うために歩兵が機関銃の前に身をさらし、そしてバタバタと死んでいく。

 第一次世界大戦の塹壕戦は、実に凄惨だったという。わずか数十メートル先の陣地の取り合い。十数キロの土地を確保するまでに双方合わせ100万が犠牲になったとか、って話も聞いたことがある……。


「少しずつ進んでいるじゃねえか?」


 ベルさんが指摘した。戦術モニターで、真・大帝国軍の先頭を見やる。……ああ、こちらの艦砲射撃の着弾が、先ほどより陸上駆逐艦陣地に近づいている。


 やられているとはいえ、敵も黙ってやられるばかりではなく、回避運動をとっている。それが1秒でも長く、彼らを生かし、そして前進させる。……結局最後はやられるんだけれど。


「高所をとったほうが有利ってのは鉄則だけど、それが全てじゃないからね」


 戦艦クラスの主砲は強力で、魔人機の障壁を貫通できるが、ちょこまか動く小さな目標相手にはあまり有利とは言えない。

 敵が回避する余裕がないほど密集しているところに撃てば、ある程度巻き込んで撃破できるが、いざ撃破が続き、数が少なくなってくると、敵機がヒョコヒョコ動いて、当てづらくなる。


 そういう運のいい生き残りが、陸上駆逐艦の防壁との距離を詰める。だが、今度は陸上駆逐艦のプラズマ弾が飛んできて、守りを固めているシーパング魔人機やASがお出迎えするわけだ。


 そこで待ち構える多数のシーパング機によって、結局防壁まで辿り着けない。ただ、それは艦砲射撃が、敵機の数をすり減らしたおかげ、という点を見落としてはいけない。

 空からの砲撃がなければ、多数の敵機が押し寄せて、そのまま押し切られてしまうからね。


「帝都に侵入した部隊のためにも、外にいる敵は片付けておきたいところだ」


 後顧の憂いなく、戦いを進めていきたい。それが最終的に被害を減らし、勝ちを呼び込むのだ。


「さて、中に侵入した部隊は、どうなっているかな」


 観測機からの映像を呼び出す。こちらは打って変わって、建物や障害物を利用しての攻防戦が繰り広げられている。

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