第1552話、同盟軍、押し上げる
地形のおうとつのおかげで助かった者がいる。シーパング同盟艦隊による魔導放射砲の一閃は、真・大帝国地上部隊の戦力を大いに削った。
幾重にも連なる防御線も、敵を阻むはずだった壁は崩壊した。
だが、その壁の破壊と引き換えに、その後ろにいたことで、ギリギリ助かった者もいれば、防壁の準備が間に合わず、地面に堀った塹壕にいたことで助かった者もいる。
逆に、陣地構築ではなく、魔人機が大型盾を並べて、即席の壁とした部隊もあったが、それらは盾ごと消滅した。
生死をわける理由に必然もあれば偶然もあった。
結界水晶防御があれば、ジン・アミウールの極大魔法級の魔導放射砲にも耐えられる。真・大帝国守備隊にとってはそれが希望であり、頼みの綱だった。
が、それは同盟軍側にもわかっている。だからその結界水晶の出所を真っ先に叩いて、結界を剥いでから、広範囲攻撃を使うのだ。
怪獣の反逆と、航空艦隊からの掃射で、防衛線の守備隊はガタガタだったが、そこへシーパング同盟軍地上軍が攻め上がった。
ジャガーノートⅡ陸上駆逐艦が、でこぼこの地形をコピーコアによる地形操作で整地し、艦体前方の防壁兼ブレードで、障害物を押し上げ、あるいは潰した。
その強固な盾にもなる壁に、真・大帝国魔人機がマギアキューブ、マギラライフルといった飛び道具を放っても弾かれる。
戦車砲や、75ミリカノンを積んだ真・大帝国戦車の砲撃も、まったく歯が立たない。押し寄せる壁に逃げ出すか、駆逐艦同士の隙間に退避するしか、彼らには為す術がなかった。
が、その壁を抜けたら、シーパング同盟の魔人機やASが待ち構えている。レアヴロード、ソードマン・スケルトン、グラディエーターといった機体が、ブレードやランス、マシンガン、ロングライフルなどで、壁裏に潜り込んでくる敵機を始末した。
盤石の攻撃パターン。真・大帝国侵攻において、何度も繰り返された光景が繰り広げられる。
同じパターンといえば単純だが、回数をこなしている分、シーパング同盟の兵、シェイプシフターたちも無駄なく、損害なく、手際が最初に比べてドンドンよくなっていた。
戦いとは、いかに自分の勝ちパターンに持って行くか、なのだ。
本来、交戦の予定だった怪獣を無力化したおかげで、シーパング同盟はその勝ちパターンに戦いをもっていくことができた。
切り札を失い、兵力を激減させた真・大帝国守備隊は帝都へと撤退を開始した。ここが最後の防衛線ではあるが、帝都にも防衛戦力があるから、まだ一戦は可能だった。
・ ・ ・
一方、空の戦いは、シーパング同盟がやや優勢に見えるが、決定的に勝ちきれてはいなかった。
真・大帝国が戦闘機をあらん限り集結させた結果、相応に数が多かったこと。主力であるシュトラム戦闘機が結界水晶防御を採用しているために、魔導放射砲で一挙に薙ぎ払いといった数減らしができないことが主な要因だ。
ついでに言うと、末期の戦場でよく見られる経験少ない新人がほとんど、ということもなく均一の青エルフクローンパイロットたちが操る戦闘機は、ここでもその腕を存分に披露した。
だが――
「変わり映えがしない……!」
トロヴァオンE型戦闘機を駆るマルカスは、矢じりのようなシュトラム戦闘機の後ろに回り込むとプラズマカノンを連続で浴びせた。同時に操縦桿を握る親指を、ミサイル発射ボタンにかける。
敵機は後方のマルカス機に気づき、結界水晶防御を展開した。必中のプラズマ弾が弾かれたが、構わずマルカスはミサイルを発射した。
最近の戦闘機は、空対空ミサイルを全て結界水晶防御貫通弾になっている。だからメイン武装であるプラズマカノンが防がれても、結界貫通ミサイルで仕留めるのである。
――それだけ、こいつらが面倒であるということだ。
マルカスは口の中で、その感想を飲み込んだ。
スティグメ吸血鬼帝国での戦いで、真・大帝国が見せるようになった自爆体当たり戦法。量産できるクローンを使い捨ての弾丸として、敵機や敵艦にぶつけて倒す。パイロットとして、とても嫌悪する戦い方を真・大帝国はやってくる。
吸血鬼たちが自爆体当たりで、散々にやられている様を、シーパング同盟は見ていた。だから直接その戦法を喰らう前から、対策を講じてきた。
結界水晶防御を破れず、体当たりを許すなら、結界を貫通できる兵器で戦えばいい。
理屈としては、至極簡単な話だ。だが実際は、結界貫通させる兵器の開発や試験、できた後の量産など、クリアすべき問題は多すぎる。
普通の軍隊であれば、すべての好条件が揃うまでに時間がかかるものだが、シーパング同盟は、その点が実に充実していた。
ジン・アミウールの発想力と、魔力生成による超量産体制。どこかがネックになって完成が遅れるとか、配備が間に合わないという事態もほとんど起きていない。
そもそも通常の補給だって、転移による移動で、大幅に人員、設備、時間を短縮できる体制ができている。
鬼のように警戒している、真・大帝国航空機の自爆体当たりが中々成功しないのは、そうした同盟軍全体の、必要な兵器を不足なく供給できるからに他ならなかった。
「軍隊というのは兵士の質が均一であるのが望ましいと聞くが……」
機体を捻る。背後につきかけた敵機を急加速で振り切り、僚機に任せる。
「クローンで質が落ちないのは素晴らしいが、腕が同じというのでな!」
視界に入った敵機にプラズマカノンでご挨拶。コクピット、胴体を撃ち抜き、瞬く間にシュトラム戦闘機は火球と化した。
青エルフクローン・パイロットは、量産しているだけあって、個体差、その戦技はほぼ同じだ。突飛な発想で敵を欺こうとか、そういう駆け引きがない。
いや、空中戦技での駆け引きはあるが、どれもこれも同じパターンというやつだ。おそらく工場から出荷されたばかりで、余計に均一なのだろう。
――ウィリディスのシェイプシフターは、もっと凄い。
初期からいるマルカスは、ジンからシェイプシフター兵の存在を明かされている。そして彼らと共に戦場を駆けてきた。
シェイプシフターは経験を仲間に丸ごとコピーしていくことができる。一度作られたら、後は普通の人間のように個々に学習していくしかないクローンは、経験を伝えるにしても限定的だ。そして時間がかかる。
だがシェイプシフターたちは、一人の経験をほんの数秒で別個体に伝えることができる。見た、聞いた、あらゆる感覚をあますことなく共有することで、あたかも自分が体験したように身に着ける。そしてそれを繰り返すことにより、シェイプシフターたちの戦技の練度や思いつきがあっという間に全体に浸透するのだ。
だから、ウィリディスのシェイプシフター兵は全員がスーパーエース級の実力を持っている。そんな彼らと腕を競い学べば、マルカスや一般のパイロットたちも、シェイプシフターほどでないにしろ技量も大幅に引き上げられた。
だから、数の差があろうとも、シーパング同盟軍航空部隊は、敵に対してやや優勢を形成していたのである。
敵の腕が均一だから、それ以上の技量持ちであるマルカスら経験豊富なベテランエースと、シェイプシフターたちにとっては、青エルフクローンは格下で、お得意様状態だったのである。
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