第1544話、爆弾という置き土産を配る
ドラゴン型怪獣は、非常にタフだった。
俺のタイラントSとクルフのガルタフト・ドルンで、色々試してはいるが、実にしぶとい奴だ。さすが、ワームヘッドモンスターの細胞を移植されているだけのことはある。
「これで動きが早ければな……」
『気のせいですかね』
クルフの声が通信機から入る。
『こいつ、少し動きがよくなっていませんか?』
「操縦されている感はなくなったな」
これまでは何者か――ジャナッハとかノイマンだろうが――に操作されていた怪獣だが、挙動が自然になった気がする。反応がよくなっている。自分で考えて行動している感じだ。
「野生を取り戻したかな?」
『それでも、鈍いことには変わらないんですがね』
タイラントSやガルタフト・ドルンの動きには、ついてこれていない。
「大方、ベルさんが――」
『おう、呼んだか?』
ベルさんからの通信が届く。
『こっちは始末を終えた。施設内は全滅させたぞ』
じゃあ、ジャナッハとノイマン博士も……聞くまでもないか。残っているなら、そう言うだろうし。
『あれ、そっちは終わってねぇの?』
「怪獣が元気でね」
『じゃ、こっちで止めるぜ。感謝しろよ』
ドラゴン型怪獣が動きを止めた。躾けられた犬みたいに大人しくなる。
『実に従順ですね』
「制御装置があるんだ。それを押さえられたらこんなものだよ」
致命的な欠点。それはこの怪獣が制御ができること。パイロットが乗り込むわけではなく、遠隔操縦だから、そこをやられたら、おしまいである。
「で、もう本当にジャナッハ・クローンは残っていない?」
『この施設にはいないぜ』
と、ベルさん。
『もうすでに逃げているならともかく、そうでなければ全滅だろ』
それはそう。ただそれについては、今すぐどうこう判断は難しい。すでにクローンが逃げられていたら、ここで見つけられるのは痕跡だけだろうし。後はシェイプシフター諜報部が他の施設を含めて調査するしかないだろう。
ジャナッハがあれで用心深く、自分のコピーを作っていた。保険の保険とか、かけてそうだよな。
「ここでの目的は達成した」
確認されたジャナッハ・クローンの始末は完了だ。今できることはやった。
「この研究所にあって、使えそうなものは接収したら、帰るか」
帝都決戦における危険要素は排除できた。すでに軍に納入された分は仕方ないにしろ、俺たちがぶっ潰した分は、決戦には参加できない。それだけでも戦果と言える。
・ ・ ・
ジャナッハ・クローンの秘密研究所の調査と処理を済ませた。転移魔法陣で、帝都の魔導研究所へ戻る方法も見つけたので、所長オフィスへと戻る。……まあ、俺たちは転移できるから、方法が見つからなくても帰れたけど。
「とりあえず、研究所にダメージを与えておく」
魔法軍開発団の本丸が吹き飛べば、真・大帝国兵に衝撃を与えられるだろう。決戦前にその士気を挫く。
末端の青エルフ・クローンたちは動揺しないだろうが、彼らを操っている将校らには、頼みのジャナッハがいないだけで、大なり小なりショックだろうな。
「具体的にはどうやるんだ?」
ベルさんが質問した。
「研究員を皆殺しにするのか?」
「時限爆弾を使って、施設を吹き飛ばす」
オーソドックスではある。定番中の定番だ。魔導研究所に爆弾を仕掛けて、時間がくればドカーンだ。
「ここで暴れると、外部からどんどん増援が来て、こっちが身動きとれなくなるからな」
ここは真・大帝国の帝都だってことを忘れてはいけない。この国が誇る魔導研究所が襲撃を受けたとなれば、帝都中の兵士が集まってくるんじゃないだろうか。
「さすがに帝都中はないだろう。なあ、クルフ」
「ええ、さすがに帝都中は盛りすぎです」
クルフは澄ました顔で言うのだ。
「他にも守らねばならない施設も多いですし」
真面目か。その辺りは雰囲気で察してくれよ。ベルさんがニヤリとした。
「ここで暴れて敵が集まってくるって言うなら、そこをまとめて一網打尽にする手もあるぜ?」
「ベルさん……。さすがに一網打尽は盛りすぎだ」
「ええ、全兵士が集まるわけではないので、一網打尽は無理ですよ」
「真面目か! 言葉のあやだよ」
言いたいことはわかるけどね。敵を集めてまとめてやっつけるのは、シーパング同盟軍の十八番だからな。
ストレージからタイマー付き爆弾を取り出す。研究所の見取り図を思い出し、効率的に仕掛ける。
ベルさんに言わせれば、研究員もろとも始末したいんだろうけど、研究所施設が使えないだけで決戦までの猶予を考えれば、施設メインの破壊で充分だ。
これは真・大帝国上層部を動揺させられればいいわけで、帝都決戦の際に研究員たちがその開発品を利用できなければよい。
真・大帝国親衛軍の将校らしく振る舞い、研究員たちを観察しながら、俺たちは爆弾を仕掛けていった。ベルさんとクルフは上手くやっているかな?
初見見つけにくい場所に、爆弾を取り付ける。さすがに起爆前に見つかって、解体されても困る。
研究員は二の次ではあったが、タイミングによってはガッツリ巻き込まれるんだよな。何も知らず、シーパング同盟軍を殺す兵器の開発に没頭している。……うん、やられる前にやれだこれは。
一通り設置が終わると、俺たちはエレベーターホールで集合した。
「首尾は?」
「問題ない」
「何もかも順調ですよ」
頼もしいお言葉。では、我々はドロンさせてもらおう。エレベーターに乗り、魔導研究所から上層へ移動。――と見せかけて、エレベーター内で転移して、外に出た。
もう少し帝都観光をしていきたい気持ちもあるが、研究所で爆弾が爆発すれば、帝都も厳戒態勢に入ることだろう。観光どころではなくなるから、逃げるが勝ちだ。
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