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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1535/1886

第1525話、要塞の扱いについて


 ファイラカーン要塞のコアルームで、アティーヒム中将は絶望していた。


 要塞範囲の大半が、敵によってテリトリー化され、真・大帝国側の防衛システムは寸断されていた。

 要塞砲や対空設備も使用不能か、土台から破壊され、攻撃機能を失った。敵が至る所で領域化しているせいで、部隊移動も困難だった。


 魔人機部隊は地下から表に出そうとしても、シーパング軍のエース機によって出ることなく撃破され、それならばと動かないゲートを破壊して、遠い出口への移動を強いられる。


 平原で野戦陣地を作った部隊は、要塞の援護も得られず、これまで通り、空陸一体、鉄壁のシーパング同盟軍の猛攻に撃滅されていった。

 数の優位を活かせず、各個撃破されている。要塞は何の仕事もさせてもらえなかった。


「兵はある。魔人機も航空機も残っている。しかし出撃できないのではな!」


 魔人機部隊は時間をかければ、外に出せるだろう。しかしそれも、もはや戦局に影響を与えられない。

 そもそも移動から外へ脱した後、再編している間に、シーパング同盟軍が強襲して、それでおしまいだ。


 もはや、歩兵だけで要塞にこもり、敵の占領に対して最後まで抵抗するくらいしか、まともに戦えないだろう。そう、すでにまともに戦うことすら難しい状況なのだ。


 ――シーパングは、この要塞を占領するだろうか?


 外部への攻撃を喪失したファイラカーン要塞は、街道からも外れていて、無理に戦わずとも帝都まで進むことができる。場合によっては無視されることも考えられる。


「いや、こちらにある戦力が外に出てきたら、帝都に進むシーパング同盟の背後を攻撃できるかもしれん。そうであるならば、敵がここを素通りするとは思えない」


 そう呟くと、アティーヒムはコアルームを後にして、司令部へと戻った。幕僚たちが沈痛な表情をしていた。

 外の戦いは、その戦力を分断され、ことごとく失っている。劣勢を通り越して、もはや終局を迎えつつあった。


「閣下、この戦い、我々の負けです……」

「馬鹿者! 我々はまだ健在である! まだ、負けておらん!」


 アティーヒムは一喝した。


「敵は、このファイラカーン要塞を制圧するはずだ! 我々は、最後の一兵までこの要塞に立てこもり、シーパング同盟の兵を一人でも多く道連れにするのだ!」


 幕僚たちは顔を見合わせた。

 要塞の攻撃能力はほぼ失われている。あるのは防御性能だけだが、包囲され攻め込まれたら、シーパング同盟にどれほどの被害を与えられるのかわからなかった。


「真ディグラートル大帝国の軍人は! 最後まで戦う! それが亡き大皇帝陛下に忠誠を誓った我らの義務である!」


 アティーヒムは幕僚たちに背を向けると、大皇帝の肖像画に向かい、背筋を伸ばした。


「大皇帝陛下、万歳(ばんざーい)!」


 万歳を繰り返す司令官の姿に、司令部にいた青エルフ・クローン兵たちも続いた。


「大皇帝陛下、万歳! 大皇帝陛下、万歳!」


 事態が好転することは、何一つなかった。しかしそれでもディグラートル大皇帝への忠誠が、一瞬独特の熱気となって兵たちに伝播した。

 萎えかけた気力を奮い立たせ、ファイラカーン要塞守備隊は士気を何とか保ったのである。


 しかし、彼らは、相手を見誤っていた。相手は『あの』ジン・アミウールなのである。普通に攻略などするはずがなかった。



  ・  ・  ・



「守備隊は、徹底抗戦を選んだそうだ」


 戦艦『バルムンク』の艦橋。俺は、戦闘から帰還したベルさんに告げた。


「俺たちが要塞内に踏み込んで攻略してくるのを、最後の一人まで抵抗するようだ」

「外の戦いは決着がほぼついたのにな」


 要塞戦区、それに隣接する平原野戦陣地とそこに展開する真・大帝国軍は、シーパング同盟航空艦隊と陸上艦隊の前に、壊滅(かいめつ)した。要塞と連携が取れなかった末の妥当な末路である。


「で、どうするんだ、ジン?」


 ベルさんは問うた。メイド衣装のサキリスからエナジードリンクを貰い、一口。


「まだ要塞内には大勢の敵兵がいる。さすがにこれを放置して次に行くわけにもいかない」

「帝都へ軍を進めれば、連中、要塞を出てくるだろう。そこを叩く手もあるぜ?」


 要塞にこもられるより、外に出てきてくれたほうが叩きやすい。


「そうなんだけどね。帝都の真・大帝国軍と足並み揃えられると、双方に分散することになるから、面倒ではある」

「得てして、敵ってのは、こっちの都合の悪いタイミングを狙うもんだしな」

「そう。物事は、悪い方に想定するくらいがちょうどいい」


 まあ、そこでどうするんだ、って話なんだけどね。


「ということで、俺の案だけどね――」


 キャプテンシートのコンソールを操作し、戦術モニターにそれを表示する。ベルさんが口をあんぐり開けた。


「これ、マジで言ってる?」

「大真面目、糞真面目だよ」


 俺はニヤリ顔。


「敵のダンジョンコアを、コピーコアで包囲して力の範囲を抑え込んだからね。せっかくだし、それも利用してやろうと思ってね」


 どうかな? 何か意見はあるかい、ベルさん?


「まあ、いいんじゃね。……やっぱお前さんは、頭のネジが吹っ飛んでいるぜ」

「魔術師なんて、おかしくてナンボだよ」


 俺は、艦隊通信用チャンネルを開き、同盟軍の各軍指揮官に作戦を説明した。



  ・  ・  ・



 それは地震と、そして爆発音だった。

 ファイラカーン要塞司令部で、アティーヒム中将は、もたれていた司令官席から背筋を伸ばした。


「何事か!? 敵の攻撃か?」

「わかりません。現在調査中!」


 青エルフ・オペレーターたちが各部署に連絡を入れる中、モニターが爆発が起きたと思われる場所を表示した。


「これは一体……?」


 要塞より離れた場所を、ぐるりと取り囲むように爆発が起きたようだった。直後、ゴゴゴゴッと大地が呻り、地震が起きた。

 だが揺れはさほど時間も経たず収まった。しかし違和感を覚える。青エルフ・オペレーターらが騒がしくなった。


「閣下、大変です! 要塞が、要塞が動き出したました!」

「何を言っている?」


 要塞が動き出した――寝ぼけているのか、とアティーヒムは思った。しかし幕僚の一人がオペレーターの許に行き、確認。そして驚愕した。


「閣下、この要塞が、空に浮かび上がっているようです! 信じられませんっ!!」

「な、なにぃっ!?」


 ファイラカーン要塞とその周辺は、大地から切り離され、浮かび上がる。守備隊の誰一人状況が飲み込めないまま、要塞は浮遊島となったのである。

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