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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1521話、そしてレールは走り出す


 そうやって本を読んでいると、大陸を征服しようとした血も涙もない大皇帝陛下には見えないんだよな。

 シーパング島の大図書館で、宇宙の本を読んでいる読書少年ことケルヴィス――クルフ・ディグラートルに声をかける。


「よう、宇宙少年」

「どうも、団長」

「勉強熱心だな」

「ここにある本は、私の知識欲を大いに刺激してくれます」


 クルフは肩をすくめる。


「大皇帝の時と違って皆、私を放っておいてくれるので、好きなだけ本が読めます」

「読書家なのか。意外だな」

「ここしばらくは、本を読む時間もなかった」


 クルフ少年は言った。


「あったとしても、ここの本ほど面白味もない」

「わかる」


 こっちはカラー絵に、紙も上質だ。異世界の技術ではない、機械文明時代の技術だ。


「今さらだけど、お邪魔だったかな?」

「いいえ。……私に用なのでは?」

「君に教えてもらったウアグニャス大洞窟に、偵察部隊を送った」

「そうですか。居ましたか?」


 確認したんでしょ、という顔のクルフ。俺は視線を泳がせた。


「それが……真・大帝国軍が、あの大空洞を見つけてしまったようだ」

「……それはそれは」


 クルフは顔をしかめた。


「では、帝都に本物のケルヴィスが戻ってしまったわけですね」

「そうなるな」

「参ったなぁ……」


 クルフは背もたれに身を預けた。


「となると、私はこの姿で帝都に戻れなくなったということですか……」


 ケルヴィスが二人いることになる。間違いなく面倒事になるだろう。


「それなんだがな、ちょっとおかしなことになっていて、君の意見を聞きたい」

「何があったんです?」

「ケルヴィスは帝都に戻ったが、そのことを姉君は知らない」

「……どういうことです?」


 怪訝な表情を浮かべるクルフ。


「要するに、ケルヴィスは軍が保護して、その件が宰相殿に伝わっていないんだ」


 何故か知らないけど。シェイプシフター諜報部にはさらに調べさせているけど、今のところ、親衛軍大将エラ・キャハが、ケルヴィスを囲っているようだ。


「何故、フィーネに伝えないのか」


 クルフは腕を組む。


「私にも心当たりはないですが、あまりよろしくない状況ですね」


 政府と軍部が、クローンとはいえ、次の大皇帝候補としているケルヴィスのことで隠し事をするのは。


「これは想像ですけど……軍部は、真・大帝国を捨てるつもりかもしれない」

「……続けて」


 俺は、クルフに促す。


「つまり、シーパング同盟軍との戦いで、勝ち目がなくなったので、真・大帝国崩壊後のことを考えたのではないか、と」


 最初のうちは、最後の一兵まで戦い、刺し違えるつもりで親衛隊は(いくさ)に臨んでいた。

 だが次の大皇帝候補がいるから、その人を盛り立てるために生き残ることを考えたってことか。


 真・大帝国がシーパング同盟に敗北し、帝都が陥落した際、敗戦の責任はフィーネ・グリージス宰相に押しつけ、親衛隊の一部はケルヴィス・クローンと共に脱出し、どこかの辺境で再起する日を待つ。うーん、これは――


「ありそうな話だ」


 だが、後先のことを考え出したということは、真・大帝国の軍も、敗戦を認識しているということだ。敵を道連れに死んでやるが、明日のためにとか言い出したというわけだからな。


 ただこの辺りは、きちんと裏付けを取らないといけない。思い込みで動いて、手痛いミスはしたくない。

 真・大帝国が敗戦を意識しているとしても、次の戦場と思われるファイラカーン、そして帝都の戦いで、こちらが負けるようなことがあれば、終戦ムーブが吹き飛んでしまうからな。


 正念場だ。これまでも負けは許されなかったが、ここからの戦いはさらに神経を尖らせる必要がある。


 過去に連合国がやらかしたそれ――俺を切り捨てることで、大帝国との戦争の勝ちを逃した結果、戦いはここまで長引いた。

 今度こそ終止符を打たなくてはならない。できれば最短の手で。しかし確実に、多少手数が増えたとしても、ここで決めるのだ。



  ・  ・  ・



 真・大帝国軍の動きを注視する。アリエス浮遊島司令部に俺はいて、ベルさんやアーリィー、ディーシー、ディアマンテと、情報分析にかかる。

 普段はシェイプシフター諜報部に任せているが、正念場となればこちらも注力しないわけにもいかない。


 諜報部の収集する情報の他、監視ポッドの映像もチェック対象だ。


「――敵は、国境警備の少数部隊を残し、ほぼ帝都方面へ部隊を集結させています」


 ディアマンテが、戦術モニターにその動きを表示させる。


 現在ファイラカーン要塞に1万機の魔人機、1500の戦車ならびに地上兵器。航空機も2000機が集まった。ただし空中艦隊はすでになく、輸送船が行き来する程度である。

 そして帝都には6000の魔人機があり、残る1万数千が、各地方から帝都目指して移動中だ。


 ここまで結構削ったつもりだったが、こうやって見ると、やっぱり数の差は馬鹿にできない。


「まともにやったら、負けるかもね、これ」


 アーリィーは言った。ありのままを口にしただけで、特に悲観的でなさそうなのは、ここまで戦い抜いた歴戦感ゆえか。ベルさんはニヤリとする。


「まとめて吹き飛ばすチャンスだな。だが常道なら、帝都とファイラカーンの敵が合わさるのは困るな」

「ま、帝都をガラ空きにすることはないだろうが、各地から戦力が集まれば、ファイラカーン要塞に援軍を出す可能性は高い」


 物量を信じ、少しでも勝率を上げるか。犠牲は大きいだろうが、それでシーパング同盟軍に大打撃を与えられれば、彼らの勝ちなのだから。


「こちらとしても、帝都からの援軍が出る前に、ファイラカーン要塞を陥落させておきたい」


 そしてそこを突破すれば後は帝都だ。敵が集まってきているなら、残存戦力全てをぶつける総力戦――真・大帝国との戦い、その最終決戦となるだろう。

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