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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1509話、キメラ・ウェポンとかいう共通の話題


 シーパング島首都アイトリアー。その中枢であるスパイラ城で、特別な食事会が始まった。


 こちらの面子は、俺、ベルさん、グレーニャ・ハル。そしてお客様は、ケルヴィスにアマタス元将軍、そしてクローマだ。


 ケルヴィスは、クルフだし、クローマの中身が、馬東サイエンであると識別も済んだ。あとは、どう対応していくか、その判断だけではあるが。


 傍目には和やかな晩餐だ。ベルさんやケルヴィスは普通に魚料理に手をつけているし、クローマなどは上品に料理を口に運ぶ。美人だと画になるが、中身は50代のおっさんというのが笑えない。……一人、アマタスは緊張が顔に出て、ガチガチだったが。

 これでも大帝国の将軍だった人間なんだがな。ま、メンツを考えれば、平静を装うなんて無理か、ははは。


「ここでの発言は、ここだけに留めるつもりで話す。まあ、将来何かの役に立つことなら、その情報を利用することがあるかもしれないが、出所は他言しない」


 俺はそう宣言しておく。親睦を深めるお食事会、というか、親睦を深めるに足るか確認したいという意思がある。


「クルフ、キメラ・ウェポンって言葉は知っているよな? 大帝国で研究されていた『人間と他の生き物を掛け合わせるという人体実験』、その軍事転用」


 ケルヴィス、アマタス、クローマが視線を俺に向けた。晩餐の内容には不適切だってか? いやいや、ここにいる全員がドン引かない内容をチョイスしているんだぜ。実際、ベルさんも、グレーニャ・ハルも変わらず食事を続けている。


「クルフ……?」

「話の前に、私のことをその名で呼ぶのは――」

「ここにいる全員は、お前が皇帝のクローンじゃなくて、本物の皇帝だったことを知っているからな。いいんだよ」


 ベルさんとは、ノイ・アーベントでバトったよな。そしてグレーニャ・ハルは――


「私のことを覚えていないのは、寂しいではなくて、クルフ」

「……グレーニャと聞いて、もしかして、とは思っていたんだけどね」


 ケルヴィス――クルフは諦めたように肩をすくめた。


「妹のエルは、大帝国で回収したけど、今はそっちにいるんだっけ。君が団長のそばにいるとは意外だった」

「まあ、色々あったのよ」


 ケルヴィスの姿とさほど歳の変わらない少女の姿であるグレーニャ・ハルである。


「色々ね。レディーにこういうことを言うのは失礼だと思うけれど……少し若返った? 妹のほうが成長しているよね?」

「そういうあなたも子供じゃないの。人の容姿をとやかく言えないのではなくて?」

「少なくともクローンではない。いや……」


 クルフの目が薄らと光る。


「君、吸血鬼だね?」


 アマタスがそっと、距離を取ろうとするような反応をした。真・大帝国とスティグメ吸血鬼帝国は、つい最近まで戦争をしていた。言わば敵同士だった。その吸血鬼帝国は、滅びてしまったが。


「そうよ。気づいたら、吸血鬼の体になっていた。大方、スティグメが……って、あの頃はまだ、あなたそちらの陣営にいたんじゃないの?」

「私は、世界中のダンジョンコア回収の任務を仰せつかって、反乱軍と真アポリト軍の戦いにはほとんど関わっていなかったからね」


 クルフとグレーニャ・ハルは、9000年以上前のアポリト文明時代の生まれである。どこまで個人的に知っているかはわからないが、反乱軍騒動の前では、二人とも有名人だった。


 何せ、グレーニャ・ハルは、大地の女神巫女で魔神機乗り。クルフはアポリト帝国の誇る十二騎士の一人だった。……まあ、俺はその十二騎士たちの団長を短いながらも務めたけど。


 と、当人たちしか知らない昔話に、クローマとアマタスはキョトンとしている。置いてけぼりなのは仕方ない。

 ベルさんが口を開いた。


「そろそろジンの質問に答えてやれよ、皇帝さんよ」

「……今は皇帝ではないのですが」


 クルフが眉をひそめれば、ベルさんは続けた。


「知ってる。ジンと約束して、この戦争には関わらないって話だろ。わかってるから、話を進めようや」


 このやりとりに、やはり呆然とするクローマとアマタスである。クルフは頷いた。


「そうでしたね。キメラ・ウェポン……。団長の仰る通り、人と他の生物を掛け合わせた計画です。提案は、魔法軍特殊開発団からだったはずです」


 ちら、とその魔法軍だったアマタスを見れば、彼女は首をすくめた。


「えっと、ジャナッハ殿の発案だったかと。……あ、ジャナッハ殿というのは――」

「大帝国が誇る天才魔術師だろう? 知っているよ、ありがとう」


 俺は頷いた。魔器やら珍妙な新兵器――異世界技術と関わっていないところで、結構な割合で関係している男。……最近、彼のクローンを暗殺したよ。


「当初は、死刑相当の犯罪者を実験体に使うという話だったので、私は承認しました。その後、規模が拡大され、帝国の体制に逆らった反逆者なども加えられたと聞いていますが」

「その家族もな。後は身寄りがない孤児や奴隷も含まれていたが」


 俺が補足すると、クルフは首を傾げた。


「そこまで拡大されていたのですか?」

「知らなかったか?」

「ええ。承認後は、時々経過報告が上がってきましたが、実験に用いられた者のプロフィールなどは記載されていませんし」

「まあ、そうだろうな」


 人間が素材に用いられたことがわかれば、それが犯罪者だろうが奴隷だろうが大した問題ではなかったのだろう。

 特にレポートともなれば、皇帝などトップは普段から接する報告も多いだろうから、緊急性がなければ、経過報告などスルーすることもあるだろう。報告を上げる方も、素材の過去など記載したとて無駄だし、関心もないと思われる。


 俺もウィリディス軍全体を把握しきれていないからな。末端のことまではわからないし、時間にかまけて、報告書を熟読どころか、さらっと一読で済ませることもある。……だから報告書は簡潔に書け、と言うんだ。ダラダラ長い文章や小難しい言い回しをしている報告書は、そのままゴミ箱へ放り込みたくなる。


 閑話休題。


 人体実験という血生臭い計画で、かつ俺の知り合いにその被害者がいるから思うところはある。計画の原本は諜報部が手に入れて、俺も資料に目を通して、クルフの言った通りであるのは確認している。


 重犯罪者や売国奴、スパイが対象とあれば、処分の一つの方法として認めていたかもな、と俺も思った。


「それで、団長。そのキメラ・ウェポンがどうかしたのですか?」


 俺が糾弾するような態度ではないので、クルフも意外そうな顔をした。


「前々からキメラ・ウェポンの対象になっていた人たちを、元に戻せないかなって、考えていた」


 当時のクルフからしたら、大帝国を乱す極悪人の処刑以外の利用法として採用し、兵器として使えるなら一石二鳥と見たんだろうけど。


「現場が実験体の範囲を広げたからな。政敵の家族――まあこれには冤罪で、無実の人間も混ざっていたらしいんだが、他に孤児とか、本来計画の外にいた人たちも犠牲になっている。……こういう人を元に戻してやりたいな、と」


 俺は、緊張しっぱなしのアマタスを見やる。


「君は、キメラ・ウェポンの専門ではないと思うが、魔獣やその他生物を弄って兵器へしていた人間だ。そっち方面で、何か思うところはあるかな?」

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