第1495話、相談するアマタス
真・大帝国軍は、地下から這い出すワームヘッド・モンスター(仮)の対処に苦慮していた。
魔人機部隊は、チマチマ攻撃するに留まり、なっているのかわからない時間稼ぎをしているように見えた。俺たちは監視ポッドで常時見張り、化け物と真・大帝国軍の戦いをずっと記録し続けた。
そしてわかったこと。どうやら太陽の光に対して、発狂状態になるようだ。地下にいたのだから、光が苦手というのはわからんでもないが、出てこれないということはないようだ。ただし、かなり暴れ回っている。
夕方から夜になると、ワームヘッドの動きが大人しくなるが、本体が動きだして、大穴から地上へ這い出てきた。
結構な深さの縦穴なのに登ってくるとか、どうなっているんだか、こいつは。
しかしおかげで全容がわかった。
ワームだと思われたそれは、本体から無数に生えた触手であり、その本体は巨大なスライムのようだった。
つまりは一見ヒュドラっぽいが、その頭はワームであり、胴体はスライム……いやこれはそのままか。
生物上、ワームとスライムのキメラというところか。垂直に近い穴も登ってこられるはずだ……。
スライムなら魔法や火などに弱いのではないか、と真・大帝国軍は考え、魔術戦仕様の魔人機で魔法攻撃を仕掛けたり、火炎放射器などを持ち出してきて、ワームヘッド・モンスターに使用した。
結果を言えば、効果なしだった。相手の巨体に対して、あまりにショボ過ぎた。
夜の間にすっかり大穴を出て移動するワームヘッド・モンスター。そして夜が明け、太陽光を浴びると、またも発狂を始めた。移動速度はなくなるが、その場で暴れまわり、真・大帝国軍の魔人機をワームヘッドで潰したり、攻撃したりしていた。
うーん……真・大帝国側には、本当にもう魔器などの大威力兵器は残っていないのか? 環境破壊兵器など使えないように、その貯蔵施設などを吹っ飛ばした俺たちシーパング同盟だけど、本当に全部なくなってしまったのだろうか? どこかにへそくりを隠しているのを期待したんだけど。
こりゃ、こっちでも本気で対策を考えておいたほうがよさそうだな。
・ ・ ・
というわけで、捕虜であるアマタス元将軍をお連れした。
「……少し、顔色が良くなったかな?」
「ここの料理が美味しいので」
皮肉かな? しかし元気は戻ったようだ。
「食べ物が喉を通るようになってよかった」
馬東博士の死に相当ショックを受けていたようだったからな、このアマタスは。
元々は、大帝国軍の将軍だった。モンスター・メイカーの生みの親であり、魔獣や魔物研究を専門としている魔術師。
異世界召喚された馬東サイエンの異形研究に感銘を受け、将軍職を放棄し、彼の弟子――部下に自ら志願した経歴を持つ。
常に馬東に付き従い、助手として行動。それは馬東が真・大帝国を離脱した後も一緒にいたのだから筋金入りだ。
おそらく真・大帝国より、馬東博士への忠誠心で生きているのだろう。……まあ、彼女の敬愛する博士は、目の前で殺されたわけだが。
「で、早速だが、これを見てくれ」
俺は、モニターに、ワームヘッド・モンスターを表示する。アマタスは首を傾げた。
「これは?」
……その反応を恐れていた。
「遺産の巣の地下から現れた巨大なモンスターだ。今現在、真・大帝国軍が頑張ってこいつを退治しようとしている」
「今?」
「リアルタイムだよ」
この化け物のことを何か知っているかも、と期待して連れ出したのだが、どうやら彼女もご存じないようだ。偉大なるマスター・馬東の作品ではないらしい。
「これは何だと思う?」
「資料を」
どうぞ。真・大帝国軍が命をかけて――まあ、大半が青エルフ・クローンだろうけど、半日の間、絶えず積み上げられた屍で得たデータだ。
「その様子だと、馬東博士の作品ではなさそうだ」
「マトウ様の作り出す異形は、あんな能無しではない」
データを参照しつつ、アマタスは言った。
「あれは明らかに野生生物の動き。マトウ様が知恵を与えた異形が、こんな原始的なはずがない」
「確かに」
俺も馬東博士の異形を全部見てきたわけではないが、どんな外見をしていても、一応、敵側の指示に従う頭は持っていた。……いや、待てよ。
「あ、スカーが巨大スライム化したことがあったぞ」
「あれは私がG成長剤の容量を間違えて、コアに直接全部投入したのが原因」
手元のデータパッドのモニターを注視したまま顔を上げないアマタス。……へえ。
「用法容量を守らなかった結果があれか。それで動きが緩慢だったんだな」
クスリをやり過ぎて、頭がイカれちまったってやつ。
「ちょっと待って」
アマタスが顔を上げた。
「あなたが何故、それを知っている?」
「俺が、あの巨大スライムになったスカーを、大帝国本土へ転送させたからさ」
「! ……まさか、あなたがジン・アミウール!?」
「そういえば自己紹介していなかったっけ?」
たぶんしてない。でも知っているような雰囲気だったから言わなかったけど。
「シーパングのジン・アミウールだ。プロヴィアやクーカペンテでもそうだが、西方諸国では、ジン・トキトモ侯爵で通っている」
「あのノイ・アーベントを作った異世界人」
「そういえば、先日、博士と町に来てくれたんだったな。いい町だっただろう?」
アマタスは、ポカーンとした顔で、俺を見ている。大帝国では、真だろうがその前から、俺の名前は有名だったからな。もちろん悪い意味で。実物に会えて、ビックリしているというところだろう。
「まさか、ここでジン・アミウールに直接会うことができるなんて」
アマタスは背筋を伸ばした。
何だ? ヴェリラルド王国へ侵攻した21万の蟻亜人軍団を吹き飛ばしたことへの恨み言か? あの時、第二軍を指揮していたもんな、君は。
「亡命したい。協力するので、私を弟子にしてください」
このとおり、と、アマタスは頭を下げた。
……は? いきなり何だこれ。まったく想定外の出来事に、俺もしばしフリーズしちまった。
お師匠である馬東博士を目の前で失って、とち狂ってしまわれたか? しかし、彼女の表情は真剣そのものだった。
うん、わからん。どういう流れだ、これは。……疑ってかかるべきなんだろうな。
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