第1494話、クローマの保護先
シーパング島は、同盟国にとっても、場所のわからない謎の島である。
真・大帝国や、当時存在していたスティグメ吸血鬼帝国が世界樹を手にしないように回収したおかげで、世界樹6本が立つというアポリト浮遊島に近いそれになってしまったが。
今は、追放者や迫害から逃れた者、エルフの里のエルフたちを中心に住んでいる。
危険なモンスターがいない。
近代的な都市とインフラ。
機械文明時代のような、整った環境などなど、巷では伝説の島として移住希望者が多く、また探している者も少なからずいるとか。
基本的にシーパング側は、同盟国に対して留学生は受け入れているものの、移住にまで辿り着ける例はほとんどない。王族などが来訪希望した時は、受け入れるものの、ポータルなどを使い、場所が特定できないようになっている。
……まあ、そうさせたのは俺だけど。
何せ、先にも言ったけど世界樹を6本も保有しているからね。1本でもあれば、国ひとつの魔力がそれで賄える資源でもあるわけで、場所特定されたら、世界樹目当てに厄介な連中が攻めてくるだろう。……真・大帝国を含めて。
「安全と言えば、安全か」
今のところは。場所が特定されない限りは。
でもまあ隠れ家なり何なりも、どこだって特定されなければ安全か。
ダンジョンコアを内に抱えているクローマの身の上を考えると、シーパングもやむなしか。真・大帝国も、彼女の存在を知れば動くだろうし、ヴェリラルド王国では安全とは言い切れない。
見たところ、クローマは大人しそう、争いごととは無縁そうな印象を与える。それが素なのか、記憶がない故の性格なのかはわからないが。これでダンジョンコアの力を使いこなせば、相当好き勝手できてしまう。
だが、その力を暴力でない方向に使える環境、教育を施すなら、平和なシーパング島は打ってつけかもしれない。何よりモンスターがいない、という環境はやっぱり強いよ。
俺の独断で判断するのも何なので、ベルさんとアーリィーに何か反対意見とか代案あるか確認。……ない? はい、じゃあそうしましょうか。
そんなわけで、おめでとう、クローマ。シーパング島の住人になる資格を得たぞ。……という前に、一つ確認する。
「あなたは、ここに来る前、実は一人の人間に対して攻撃している。そのことは覚えているか?」
いわゆる、馬東サイエンを殺したやつだ。遺産の巣から、クローマの体を移動させようとした時、目を覚ました彼女が博士を刺し殺した。その後、すぐに意識を失った、と、現場を目撃した博士の助手アマタスが証言している。
なお、博士とアマタスにつけたシェイシフター発信機は、発信機任務に必要なリソースしかなかったため、何が起きたか、会話内容などは記憶していなかった。……実に残念だ。
「……いえ、私は……すみません、覚えていません」
クローマはショックを受けたようだった。
「私が、刺したというのは……殺してしまったのですか? 私が……?」
「覚えていないのならいいのです」
体の条件的反射、防衛本能ではないか、という説もあったが、本人が覚えていない、わからないというのであれば、無意識の動きだったのだろう。
返す返す、馬東博士の映像を送ってくれた潜入分隊のシェイプシフター兵がやられたのが惜しい。正規の通路を通らないと発動するトラップに引っかかったのだと思うが……。残っていれば、何かわかったかもしれない。
・ ・ ・
さて、クローマのことは現地に任せるとして、俺たちは、再び真・大帝国の戦況を見に司令部に戻る。
監視ポッドと偵察機からの映像で、真・大帝国が例のワームヘッドモンスターとまだ戦っているのがわかった。
送られてきた増援。輸送艦をやられ、その後、徒歩で移動した魔人機などが遺産の巣跡地に集まっていたが、彼らの装備では化け物に有効打を与えられないようだった。
「戦いは数っていうが、あの化け物、ビクともしないな」
「真・大帝国の連中も難儀してやがるなぁ」
ベルさんはご機嫌だった。アーリィーはモニターを見て眉をひそめる。
「さっき見た時より、また大きくなってない? ワームの数も増えたような」
「切り落とすたびに増えているみたいだからな、ワームヘッド」
穴から這い出そうとするかのようにへばりつきながら、ワームを伸ばして、真・大帝国魔人機を蹴散らしていく。
「強力な武器が必要だな」
「といっても、連中にそんな武器は残っているかね?」
ベルさんは、斜に構える。
「もう空中戦艦も残っていないだろう」
うーん、今動ける最後の艦隊を、ついさっき全滅させちゃった後だからなぁ。まあ仮に、あの本国艦隊残存艦隊が、あの場に辿り着いていたとしても、コルドアⅡ級が一隻のみでは、大したダメージも与えられなかっただろうけど。
連中が保有している魔器とか、あるいは、環境破壊兵器でもないと。
「敵ながら大丈夫かと心配になってきた。真・大帝国がアレを処理してくれないと、結局、俺たちが出張ることになるんじゃないかな」
「いいじゃねえか。そうなったら真・大帝国軍は全滅してるだろう?」
「心にもないことを言うなよ、ベルさん」
本当は、自分で真・大帝国を始末したいのにさ。化け物任せにするほど、飽きてはいないだろ、この魔王様はよ。
「真・大帝国軍ならいいけど、大帝国民に対しては、あまり犠牲が出ても困る。シーパング同盟には大帝国解放軍だってあるんだからさ」
それに、真・大帝国本土全体があの化け物に侵食されるとか、考えただけでも地獄だね。誰があれを始末することになると思っているんだっての。
「観測班へ。あの化け物と真・大帝国軍の戦闘記録をしっかりとっておけ」
連中が討伐できないなんてなったら、俺たちが出張ることになるんだからな。その時に、一から敵のデータをとるのは遅い。真・大帝国の戦闘データを参考に傾向や弱点を見つけ出す。
「まっ、真・大帝国が始末してくれることを祈るけどな」
面倒はごめんだ。モニターを注視する。
ワームヘッドが荒らぶり、魔人機がその体当たりを障壁で阻止――しきれずに弾き飛ばされる。あるいは、障壁で耐えた数秒後、障壁が潰れて機体に一撃を見舞われる。
魔人機の障壁でワームヘッドを止められるが、ゴリ押しされると障壁のエネルギーを破ることができる、と……。厄介な攻撃力だ。
エアナルがマギアライフルを撃ちまくり、ドゥエル・ランツァが槍を突き立てているが……そろそろ効いていないことに気づくべきじゃないかな。
本当に心配になってくる。この体たらくで、大丈夫なのか?
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