第1492話、地下に巣くう化け物
真・大帝国帝都。宰相、フィーネ・グリージス・ディグラートルの元に連絡が入った。相手は、親衛軍大将エラ・キャハだった。
『大変なことになったわよ』
開口一番がそれだった。
「聞こうか」
専用の椅子に腰掛け、フィーネ・グリージスは通話機を睨む。大皇帝の遺産があった巣は、シーパングの手によって破壊された第一報は受け取っている。さらなる追加報告だと思うが、いい予感はしなかった。
『遺産の巣は完全に破壊されたわ。こちらが送り込んだ戦力も第一波含めてね』
「皮肉か? それとも嫌味か」
本国艦隊残存艦隊と、数千機の魔人機が、またしてもシーパング同盟にやられた。しかも現在、そして今後の作戦計画を無視して、無理やりねじ込んだ作戦だ。計画を無茶苦茶にされた上に、肝心の大皇帝の遺産を手に入れることはできなかった。軍部が嫌味の一つを言いたくなるのも理解はできる。
『大皇帝陛下の遺産が失われたことは残念無念ではあるけれど、敵の手に渡らなかったのは僥倖だと言えるわ』
エラ・キャハは真面目ぶっているが、内情はかなり荒れているように感じた。前者の苛立ちを後者で言い聞かせて、落ち着かせている感じた。
『で、問題が発生したわ』
「何だ?」
『遺産の巣の跡地を調査したところ、得体の知れない化け物と遭遇した』
「化け物?」
いったい何だろうか? フィーネは、続きを待った。
『ワームのような、ワームではない。何か巨大な化け物』
要領を得ない。通話では少し想像できなかった。
とにかく、遺産の巣の跡地に、巨大なモンスターが現れたようだ。
「巨大といっても、ピンとこないな。人から見れば、魔人機だって巨大だし、その魔人機から見れば空中艦も巨大だ」
『巨大の定義については、後日、暇な時にでも付き合ってあげるわ。今はそんなどうでもいい話ではないのよ。魔人機でも小人に見えるくらいの大きな化け物が跡地の穴で増殖して表に出て来そうな雰囲気なのよ』
――そうか。跡地は巨大な穴だったな……。
遺産を根こそぎ吹き飛ばして、ポッカリ大穴が空いたと聞いていた。そしてそこから出て来そうというのは――
「確かに巨大だな。外に出したら危険か?」
『ワームは雑食。そして生命力が強い。しかも未知の種っぽくて、そんなものが増えていくのは、極めて危険だと思うわ』
「……そうだな。場所が場所だけに、マトウ博士の置き土産かもしれない。面倒になる前に始末できるか?」
『もう面倒になっているわよ。すでに魔人機を2000機近くを失っている。シーパングの連中に輸送艦をやられて、徒歩で移動している機が数百はあると思うけど、順次到着だから、手間取るかもね』
エラ・キャハはうんざりした調子になる。
『まさか、シーパングの生物兵器だったりする?』
「さあな。だが片付けねば面倒なことになるのだろう。なら始末するしかない」
フィーネ・グリージスはそこで少し頭を傾けた。
「いや、可能性の話だが、その化け物は捕獲できる可能性はあるのか?」
『そう言われるのを実は恐れていたわ』
エラ・キャハは冗談めかした。
『正直、無理そう、という印象だけれど、専門家に見てもらわないと何とも言えないわね。まあ、戦力が整うまでにまだ時間が掛かりそうだから、調べさせてもいいかもね』
ただ――とエラ・キャハは前置きした。
『わかっていると思うけれど、一般的に討伐するより捕獲するほうが難しいわ。ご命令とあれば現場は努力するでしょうけど、命令するなら必ずしも成功する保証はないことは言っておくわ』
「専門家の意見に従うさ。可能性の話だからな。無理ならさっぱり片付けてしまっていい」
始末できるのか、という問題もあるが。
『検討する』
そう言って、エラ・キャハは通話を切った。フィーネ・グリージスは無意識に天井を仰いだ。
面倒ばかりが起きる。自然と溜め息がこぼれた。
・ ・ ・
アリエス浮遊島軍港司令部内の作戦室。俺は、ベルさん、アーリィーと共にいた。そこへ来訪を告げるチャイムが鳴る。
「どうぞ」
「お邪魔するのだわ」
入ってきたのは、少女姿の吸血鬼、グレーニャ・ハルである。姿はこれだが、ウィリディス軍に加入した結果、最年長クラスの一人に数えられる。古代魔法文明――アポリト時代の人物だ。
「呼ばれたので来たのだわ、先生」
彼女は、俺のことを先生と呼ぶ。昔、アポリト時代のように。
「悪いね。君にもちょっと見てほしくてね」
俺は作戦室の壁にある大モニターへと視線を向ける。ベルさんとアーリィーもそれを見つめている。
「例の遺産の巣かしら?」
ポッカリと巨大な穴があるが、そこから、何やらウネウネしたものがいくつも伸びている。遠距離から撮影しているから、周囲のものと比べて異常な大きさだとわかる。
「首長系のドラゴン……ではなさそうね」
「ワームのようだが、ここから見えない下はくっついて一つらしい。ヒュドラとか、多頭竜系が近いのかな」
「周りで戦っているのは、真・大帝国?」
「そう」
真・大帝国のドゥエルタイプやエアナルが、小さく見えるほど相手は超巨大だ。そして懸命に攻撃をしているようだが、まるで歯が立っていない。
「馬東博士の異形かとも思ったんだが、確証がなくてね。もしかしたら地下に生息するモンスターかもと思い、地下のスペシャリストである君を呼んだわけ」
俺が言えば、ベルさんがニヤリとした。
「その様子だと、お前さんも知らねえようだな」
「あいにくと。でも地下世界には時々、アポリト文明時代の化け物や怪物が生き残っているということがある。見たことがないだけで、そうでないとも言い切れない」
「そうなんだ」
アーリィーが興味津々な顔になった。古代のロマンに弱い子なんだ、彼女は。
地下にこもって生きていたスティグメ吸血鬼帝国。今は滅びたが、そんな地下の住人たちでもわからないことはあるんだなぁ。
……それはさておき、真・大帝国さんはあの化け物を何とかできるのかねぇ。半分押しつけるような格好になってしまったけど。頑張ってくださいね、真・大帝国さん。
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