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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第1480話、遺産の行方


 シェイプシフター諜報員たちは、馬東のいる秘密拠点に侵入を果たした。

 変身できるという特技を活かして内部を捜索し、その映像を送ってくれるのだが、これがかなり広い。

 映像を見たベルさん曰く。


「吸血鬼どもの地下都市があったとしても驚かないね」


 ……だそうだ。広大な地下世界、地下都市があっても余裕の広さだ。


 が、この空間を、機械文明らしきものの遺産が、かなり占めていた。多数の空中艦艇が建造され、停泊している。


「テラ・フィデリティアの軍艦ではないようだな……」

「ここにきて、また新しい古代文明の品かぁ?」


 色々な文明が生まれ、そして滅んだ。俺たちにとっては馴染み深い機械文明。アポリト魔法文明。ナチャーロという魔法文明がもう一つあったか。


「金ピカなフネがある」

「巡洋艦――いや、戦艦クラスか」


 いやはや、黄金の軍艦とか、俺だってやろうとは思わないぜ。小さなデータパッドでは見にくいということで、モニターを持ってきて皆で見ているが、何やら唸っていたリーレが言った。


「結局、これ何なんだ? これがマトウっつーイカレ野郎のアジトでいいのか?」

「どうなんだろうな……」


 馬東サイエンという魔術師のことを、俺はそこまで詳しいわけじゃない。


「どうなんだ、ヨウ君? これを見た感想は」

「僕も、これが馬東博士の研究所かと言われると、疑わしいというか、確信が持てません」


 ヨウ君の知る馬東らしくない、ということなのだろう。


「異形の研究施設でもあればわからないでもないですが、それ以外のもの……たとえば軍艦を大量に作るとか、どうも馬東博士らしくないと言うか」

「世界征服でも企んでいるんかね?」


 ベルさんが言えば、ヨウ君は首を横に振る。


「彼、そういうのには興味がない人ですよ」

「どうかな、人間、力を持てば変わるものじゃね?」


 リーレが突っ込んだ。


 シェイプシフターたちの探索は進む。彼らが人間と違うのは、目も眩む高さから落下しても無傷ということ。階段などを探さなくても、地下深くへ飛び降りられる。


 三体だけだと間に合わないほど広いので、さらに増援のシェイプシフターを転移で送り込む。内部調査だけでなく、俺たちが乗り込めるよう入口を確保してもらう。今もドローンの映像を見ているようで楽ではあるのだが、相変わらず侵入経路が確保できていないのは問題だ。


 あとついでに……いや本命の馬東博士も探さないとな。

 それぞれが送ってくる映像を確認。時々映る化け物兵士は、ヨウ君曰く異形ということで、そこは馬東のいる施設っぽいのだそうだ。肝心の馬東はどこだ?



  ・  ・  ・



「さて、どうしましょうか」


 馬東サイエンは、ケルヴィスに尋ねた。


「私がここにいることを嗅ぎつけ、追ってきた者は、元の世界で私に因縁のある人物とその仲間と思われます。そして異世界人という共通点、ノイ・アーベントでの遭遇の件も考えれば、ジン・アミウールも無関係ではないでしょう」

「……」

「ここのことを彼が知れば、必ず部隊を率いて乗り込んできますよ」

「遺産の巣――これが真・大帝国の手に渡れば、シーパング同盟にとっても面白くないことになる……」


 ケルヴィスは視線を彷徨わせた。


「どうせ壊されるなら、いっそ――」

「今の大帝国に引き渡しますか? あなたの軍隊を」

「そういう言い方をされると、どうにも雑念が湧いてくるので好きではないのですが」


 ケルヴィスは溜息をついた。


「執着が残るようでは、私もまだまだのようです。……わかりました。ここは姉上に報告し、遺産の巣は、真・大帝国に献上しましょう」

「そうですか」


 馬東は薄く笑った。


「ここまで集めた遺産を手放す決断に敬意を表します。私にはできそうにない。執着、未練は尽きませんから」


 立ち上がると、通信装置を操作する。


「このコードを使えば、真・帝都に直接連絡が取れます。それで軍をこちらに寄越したとして……間に合いますかね? もうすでに我が友人がジン・アミウールに伝えたとすれば、彼らのほうが早く戻ってくるかもしれません」

「その時はその時です。……本音を言えば、私にとって、大皇帝の遺産を真・大帝国、シーパング、どちらが手に入れても構わないと思っている」


 ケルヴィスは通信機に歩み寄った。馬東は席を譲る。


「呼び出し中です。……誰かいるといいのですが」

「そうですね。どこに繋がるんです?」

「さあ。私は知りません。あなたこそ、ご存じないのですか?」

「残念ながら。これを操作するのが今回初めてなので」


 などと言っていたら、コール音が切れた。誰かがスイッチを入れたらしい。


『もしもし……』


 警戒感丸出しだが聞こえてきた声は、フィーネ・グリージス・ディグラートルだった。


「やあ、姉上。ちょうど出てくれて助かります」

『ケルヴィス? お前か?』

「そうですよ姉上。他に誰に聞こえました?」

『……ずいぶんと元気そうだな。旧帝都に行き、地下の捜索に出たと聞いて、そこから音沙汰がないので心配していたぞ』


 声の調子は、先ほどまでの警戒心が消えて、いつものフィーネ・グリージスのものになっていた。


「心配をかけたのなら申し訳ありません。……いい話と悪い話があるんですが、どちらから聞きたいですか?」

『嫌にもったいぶるじゃないか。遺産の巣を見つけたか?』

「……」


 ケルヴィスは振り返る。馬東は苦笑していた。


『ケルヴィス? ……お前、まさか――』

「姉上、ボケ潰しなんて言われたことないですか?」

『見つけたのか、大皇帝の遺産を!?』


 聞こえるはずがないが、ガタンと席を倒す勢いで立ち上がったような気配を感じた。きっと彼女の顔は驚きに満ちているだろう。それを見られなくて、ケルヴィスは少し残念に感じた。


「生前の大皇帝陛下が集めていた遺産が大量にありました。武器についても新たな艦隊を編成したり、魔人機なども新型を導入できるだろうと思います」

『でかした! ケルヴィス、よくやった!』


 ここまで素直に喜ぶフィーネ・グリージスも珍しいと、ケルヴィスは思った。顔が見れなくて、ますます惜しいことをした。


「……それで、水を差すようで悪いんですけど」

『そうだった。悪い話もあるのだったな。……いったい何だ?』

「おそらくジン・アミウールにここを嗅ぎつけられました。もうじき、シーパング軍が向かってくると思います」

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