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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1486/1886

第1476話、秘密の通路の先


 ヴェリラルド王国、アリエス浮遊島軍港。その司令部で、俺は馬東サイエンの行き先をトレースしていた。


「――真・大帝国内に、未確認の秘密拠点がある」


 馬東とその部下アマタスにつけたシェイプシフターの発信機は、その所在地を明らかにした。

 以前の観測ポッドの探索では、なにもない、普通の山岳地帯だった。地形のデータを参照する俺に、ベルさんは言った。


「また、魔法軍の秘密研究所かね?」

「かもしれない」


 大帝国魔法軍所属の魔術師である馬東である。しかし、シェイプシフター諜報部によれば、馬東とアマタスは生死不明で、軍には復帰していない。


「ただ、ここの存在は、魔法軍の資料にすらなかったから、軍でさえも知らない可能性はあるな」


 博士の個人的な研究所とか、軍も介入していない場所かもしれない。


「何があるにしろ、フォリー・マントゥルから例の素材を持ち帰っているんだ。放置はできない」


 というわけで、特別討伐隊で、馬東を追い詰める。マントゥルの廃城に乗り込んだメンバーをそのままに、異世界魔術師の居場所へ乗り込む。


「今度こそ――」


 ヨウ君は、次こそ仕留めると、表情からして怖い。笑ったほうが可愛いんだけど、因縁の深さ故なんだろうね、この鬼気迫る顔つきは。


「……それにしても」


 俺は、モニターに表示されているマップを示す馬東の居場所を睨んだ。


「ここには一体何があるんだ?」



  ・  ・  ・



 旧帝都は、さながらゴーストタウンだった。


 かつて栄華を極めた都市は瓦礫の山となり、復興作業は行われていない。真・大帝国となった時、旧大帝国は滅ぼされたのだ。

 帝都の住民も多くが死に、かろうじて生き残った者は、よそに移住した。だから旧帝都は、一般人のいない町となっている。


「ここがかつて、大帝国一の都市だったなんて、信じられないな」


 ケルヴィス・ディグラートルは、魔神機ガルタフトを操り、廃墟の町の上を飛んだ。かつての大皇帝の居城、グランシェード城もかつての姿を失い、朽ちている。


 その城の跡に、真・大帝国の一部隊が展開していた。

 フィーネ・グリージスの私兵とも言うべき、宰相親衛隊だ。本来は、フィーネ・グリージスの周りで、警護任務につくのが仕事であるが、彼女は情報収集や特殊工作をこなせるエリート部隊を作って、自分の手足として使った。


 宰相親衛隊の野外キャンプ基地。その駐機スペースで誘導員が、誘導灯を振っている。パイロットとしては、そういう誘導灯を無視するわけにもいかないので、素直にガルタフトを着陸させる。


「ご苦労様です、中佐!」


 出迎えの士官が敬礼した。


 ケルヴィスは、軍にいて、宰相親衛隊に所属という扱いである。アガデミーにすら行っていない彼が、中佐階級にあるのは、ディグラートルの血族だからだ。そうでなければ、ミドルスクールの年頃の子供に、そんな待遇はない。


「お出迎え、ご苦労様」


 きちんと答礼で答えつつ、ケルヴィスは機体から降りた。子供の姿だからこそ、きちんと軍人らしく振る舞う。これは大事だ。


「『姉上』から、調べるよう言われてきました。早速ですが、よろしいですか?」


 コネでこの立場にいることはケルヴィスはもちろん、周囲も知っている。だからケルヴィスは、そのコネ――皇帝一族の身分を利用する。宰相を『姉』と呼ぶことで。


 大帝国でも、その他の国でも王族への対応は年齢は関係なく、不敬にとられれば、物理的に処罰される。だから出迎えの中尉も、ケルヴィスに対して『子供だから』という態度は取らない。命が惜しいから。


「はい、殿下。……しかし、その、よろしいのですか?」

「というと?」

「その、入った者は皆、焼死しましたから――」


 保安システムのことを言っているのだろう。遺産の巣へ向かうと言われる転移門、そこへ行くまでの通路には、登録された者以外を自動的に焼き殺す侵入防止罠が張られている。


「報告書は読みました。だから私が来たんですよ」


 ディグラートルの血族ならば、保安システムも通れる。フィーネ・グリージスは言わなかったが、クルフ・ディグラートルのクローンだからこそ通れると踏んで、ケルヴィスを派遣したのだ。


「わかりました。こちらです――」


 出迎えの中尉は、城の跡地、その地下を進む。


「以前の地下と構造が変わっていたのです」


 案内をする中尉は、手書きの地図を確認しながら進む。


「グランシェード城の地下の地図と確認したら、いつの間にか変貌していたようで」

「まるでダンジョンのよう?」

「おっしゃる通りでございます」


 中尉は、地図を確認しながら進んでいく。確かに迷路のようだ、とケルヴィスは思った。

 城が破壊された時に、侵入者対策に防衛システムが地下を作り替えたのだろう。


「……ここです。着きました」


 中尉は、その通路の前に立った。真っ直ぐ一本道。


「この中ほどまで行くと、光の壁が現れて、人間を焼き殺します。調査に向かった者は、その壁を超えられず死にました」

「了解。では、ここから私が行きます」


 ケルヴィスは通路に足を踏み入れる。


「大丈夫だと思いますが、何かあれば、ありのままを上官と、姉上に伝えてください」

「わかりました。……御武運を」

「ありがとう」


 武運とは、何と戦うつもりなのか。内心苦笑しながら、ケルヴィスは歩く。


 ――さてさて、システムが狂っていないことを祈りたいが。


 いくらクルフ・ディグラートルと同一遺伝子の存在とはいえ、認証するシステムがイレギュラーを起こせば意味がない。


 覚悟の瞬間。認証結界を通り――抜けた! ここで弾かれた者は結界によって焼け死ぬ。どうやら保安システムは城の崩壊後もきちんと残っていたようだった。


 おおっ、と後ろで、件の中尉が声を上げたので、一度立ち止まり、振り返るとケルヴィスは手を振った。


「では、行ってきます」


 細長い通路をさらに進み、右へ左へ。一本道なので迷子になることはない。やがて、床に魔法陣の描かれた小さな部屋に到着した。

 ケルヴィスは迷いなく、その魔法陣の中心に立つ。


「転送」


 次の瞬間、青い光に包まれて、ケルヴィスの体は消えた。

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