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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第145話、迅雷の魔術師


 さて、アーリィーら第二次ダンジョン遠征軍が進軍している頃、俺とベルさんは、その目的地である地下都市ダンジョンにいた。


 ポータルを使って深部フロアへ。

 古代竜を解体した跡しか残っていないそこに、ダンジョンコア『サフィロ』をセットする。テリトリー侵食を開始するさまは、さながら、盤上の石がすべてひっくり返るようなものである。


 支配下に治めた地下都市ダンジョン。さっそくその様子を見れば、一度は戻ってきたはずのオーク軍が、また出払っているようだった。……えっと、残ってるの100もいない? しかも、バラけてる。


「なあ、ジンよ。ちょっと賭けないか?」


 ベルさんが黒猫から、黒騎士の姿になりながら言った。


「オレとお前で、どっちがここの敵を多く倒せるか?」


 100くらいなら、まあ、半分ずつとしても50そこそこだろう。適当に分かれているみたいだから、各個撃破できる。仮に固まっていたら、まとめて魔法で吹き飛ばせばいい。


「……ま、いいんじゃないか」


 そんなわけで、俺とベルさんで討伐競争がはじまった。


 対象は地下都市ダンジョン内の敵性存在。それらをすべて排除すればいい。オーク軍の主力がいないが、後々それらに当たることを考えれば魔力は節約しながら戦うのがいいだろう。

 となれば魔法具の出番だ。


 革のカバン(ストレージ)内にある武器を吟味する俺。選んでいる間にも、ベルさんはデスブリンガーを手に先行している。


 魔力をあまり使わないように戦うなら、飛び道具も悪くない。が、地下都市だと案外射線が通りにくそうでもある。歩く距離が増えるとなれば、あまり重い武器を持つのも疲れそうだ。

 軽く、それでいて威力のあるもの……。ああ、これなんてどうだろうか。


 取り出したのは、筒状の物体。リレーバトンみたいな大きさのそれには、ボタンがついていて、それを押すと――白く輝く光の刀身が現れる。

 光線剣というのか、ビームサーベルとかライトセイバーとかいうものの類似品で間違いない。この世界のものではなく、英雄時代に作ったのだ。


 その頃は合成魔法を覚えて間もなく、魔力の消費は大きかったが、こうレジェンド級の装備を持ちたいと思っていたから、どうせならと光線系ソードを参考に製作した。

 が、周囲から欲しがる声が高まるにつけ、使わないようにストレージにしまっていた。……今回、誰も見ていないのをいいことに、久しぶりに使おうってわけだな。


 ちなみに、この光刃は魔法の延長なので魔法無効の相手には効かなかったりする。それがなければエンシェントドラゴン戦でも使っていたかもしれないんだけどね。


 それでは狩りを始めよう。俺は光刃を手にエアブーツで駆けた。

 ベルさんは城を出て東側へ向かいつつある。なら俺は西側だな。滑るように廃墟の町へと飛び出す。ダンジョンコア(サフィロ)の索敵のおかげで、敵の居場所は筒抜けだ。


「こんにちは、オークさん」


 そしてさようなら――三人のオーク。それらが腰に差した剣や斧を手にした時には、エアブーツで加速した俺が懐に飛び込んでいた。まず一人を斜めに一刀両断。光の剣は鉄の鎧ごとオークの分厚い肉を切り裂き、焼いた。

 傷口が瞬時に焼かれるために血は出ない。簡単に切り裂くので、敵の身体に刃が引っかかることもない。

 一人を斬り、流れるように次のオークの首を刎ね飛ばし、三人目の心臓に一撃からの切断。


 まずは三人。一人当たりにかかる時間がわずかで済めば、人数の差など大したことはない。剣を打ち合ったり、引っかかってしまうから不利になるだけで、瞬殺していけばどうということはないのだ。


『ジン、そっちは何人倒した?』


 ベルさんの魔力念話。俺は次の敵を探しながら町を進む。


『いま始めたところだ。とりあえず三人。おっと――四人目』

『おいおい、こっちはもう十五人目だぞ。こりゃオレの勝ちか?』

『言ってろ。後でほえ面かくなよ!』


 視界に入った直後、猛然と加速し、通り魔の如くオークを切り捨てる。

 かくて俺とベルさんはそれぞれオークやゴブリン、その他トカゲの魔獣などを倒していく。だいたい、1時間ほどで掃討を完了させた。


 結果? 五体差で俺が勝った。


 まあ、そこはダンジョンマスターである俺が索敵面でリードしてるからね。数が減ってからのあぶり出しで追いつき、追い越したというわけだ。

 純粋な強さじゃ、ベルさんには敵わないけど、まあ勝ちは勝ちだ。



  ・  ・  ・



 ダンジョン内の掃除が終わったが、本番はこれからだ。

 ここを根城にしていたオーク軍の主力が出払っているのだから、今度はそいつを捕捉しなくてはいけない。


 サフィロを魔法車に戻し、俺とベルさんはオーク軍の捜索活動を開始した。発見するのはさほど難しくなかった。何せ大集団で移動していたからだ。


 オーク軍およそ1500は、砂の平原を北上していた。王都の方向への進軍だ。方向さえ変えなければ、アーリィーたち第二次遠征隊とぶつかるだろう。兵力差は1対3。正面からは圧倒的に不利。


 連中の行動原理を考えると、道中に集落などがあれば襲うだろう。だが、地下都市ダンジョンから王都までの小集落などは、前回の王都での攻防を前に襲撃されて滅んでいたから、真っ直ぐ正面から王国軍と遭遇することになるはずだ。


 そしてオークという奴は腹をすかせている時が一番凶暴だ。腹が減っては戦ができぬというが、人間の肉も喰らうので、むしろ人間の集団と見れば食事の時間と喜び勇んで突っ込んでくる。


 遠征隊に大挙押し寄せ、食糧代わりに兵たちを喰らうオークどもの図。……アーリィーやオリビア、近衛たちが奴らのエサになるとか、考えただけでもゾッとするな。


 日が沈み、オーク軍が平原のど真ん中で陣を組んでキャンプしている様を、遠くから監視する俺とベルさん。眼鏡型魔法具を通さなくても、暗闇に光る松明の明かりが見える。


「さて、どうするよ、ジン?」


 ベルさんは黒猫姿で、魔法車の天井の上に寝そべっていた。


「光の掃射魔法で一掃しちまうか?」

「それが一番簡単ではあるが、今回はそうはいかない」

「ほほう」

「理由1。掃射魔法を使った後は魔力が枯渇(こかつ)するが、今回は魔力回復役がいない」


 ユナとかヴィスタがいれば別ではあるが。最上級マジックポーションは使って、補充していないし。……というか調達する暇がなかった。


「理由2、アーリィーたち遠征隊がオーク軍と交戦する必要がある。俺たちが一掃しちゃったら、エマン王が何言うかわからんでしょ? 戦わずに逃げたとか難癖つけられると面倒だから、アーリィーたちにも戦果を持ち帰らせないといけない」

「面倒だな」

「まあ、面倒なのは否定しない」


 俺は同意した。


「とりあえず、遠征隊が交戦する頃には同数程度までは減らしたいね」

「すると、オイラたち2人で1000体近くを倒す必要があるってことか」


 ゴーレムとか、サフィロのガーディアンを使えば、もう少し数の差は縮まるだろうが、まあ、四桁相手には雀の涙だろう。


漸減(ぜんげん)作戦だな」

「ぜん……なんだいそりゃ?」

「一度にやっつけられないから、ちまちま敵の戦力を削って数を減らしましょってことさ」


 俺はドアを開け、車内のダンジョンコア(サフィロ)を見やる。


「ダンジョンテリトリーを展開。ただし、範囲は絞っていけ。無駄に全部をカバーする必要はない」


 必要な範囲にだけ支配下におく。コアのテリトリー化も魔力を使うのだ。準備だけで枯渇させるのは本末転倒。無駄は省きつつ、準備を進める。

 ひとつ、現代の戦い方をオークどもに教えてやるとしよう。

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