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第143話、戦利品の山分け


 冒険者の醍醐味の一つと言えば、倒した魔獣の素材を剥ぎ取ることであろう。

 エンシェントドラゴンの死体は、ダンジョンコアを喪失したことで、魔力化されず残っている。あとは自然に腐るまでそのままである。

 俺が深部フロアの入り口を閉じて、冒険者たちのもとに合流すると、マルテロ氏が咆えた。


「小僧! はやく、このドラゴンの埋まってる下半身を地上に出してくれ!」

「……」


 すでに俺の貸した対竜武具を持っている冒険者たちが、古代竜の解体を始めている。爪や歯、その灰色の鱗などなど……。


 エンシェントドラゴンを倒した喜びのままに、自分たちの取り分を話しながら、それでも手を動かしながら解体している。まあ、無理もない。古代竜の素材は超レアだ。その爪、歯、鱗ひとつでも、ものによっては金貨数百枚の値がつくかもしれない。

 こういうハイリターンがあるからこそ、冒険者に夢を抱く者も少なくないのだ。

 ……うん、気持ちはわかるけど、もう少し俺を労わってくれてもいいんじゃないかね?


「お疲れ様だな、ジン」


 ヴィスタが俺の肩をポンと叩いた。ありがとう、君だけだよ、そう言ってくれるの。


「君はいかないのか? せっかくのレア素材だぞ?」

「そうは言っても、私はジンの作ってくれた魔法弓が武器だからな。牙とか爪をもらっても、売る以外に使い道がない」

「鱗をとって、防具にする手もあるぞ」

「……ちょっと行ってくる」


 ヴィスタは真面目な顔で、古代竜のもとまで小走りになった。……慌てなくても、君にもちゃんと取り分あるだろうよ。あのドラゴンは巨体だし、鱗を加工した鎧くらいの素材分は充分にあるさ。


 まずは泥沼化した土壌を固めて、それらを取り除くのだが……うん、魔法をあまり使いたくない気分である。マジックポーションで回復したとはいえ、あの気持ち悪いのを思い出すと憂鬱になるからだ。


 とりあえず、魔法で地面を固めた後、取り除くのは『偉大なる失敗作』こと転移の杖を使って固めた土を直径5メートル範囲で取り除いていく。……エンシェントドラゴンのコアが壊れたことで、魔法無効がなくなっている可能性があるので、一緒に飛ばさないように気をつける。レア素材が消滅したら、他の冒険者たちに何を言われるかわかったものではない。


 だいたいの土砂を吹っ飛ばした後で、剥ぎ取り作業が再開された。

 鋭い爪や歯は、近接武器を扱う冒険者たちの取り分になった。これらは主に武器の素材に利用できるから、基本、近接戦をしない魔法使いにはあまり使い道がない。一方で竜の鱗は魔法使いを含めた全員で配分。こちらは防具や道具類の素材になるので、魔法使いでももらって損はない。不要なら売ればいいしな。


 古代竜の肉は戦勝祝いのパーティー肉に饗されることになり、希望者には骨が分け前とされた。骨の部位によるのだが、魔法使いたちは杖の素材や魔法薬の素材に利用できるからと言う。


 俺はベルさんと共同で分け前に与り、歯、爪、鱗、肉、骨と一通り頂戴した。ギルド長のヴォード氏が「お前は功労者だからその権利がある」と言った。誰もそれに文句を言わなかったから、そうなのだろう。

 剥ぎ取りが佳境に差し掛かった頃、ヴォード氏は告げた。


「ジン、お前の働きがなければ、今回の討伐は失敗していただろう。ありがとう」

「どうも……」


 いかついギルド長からお礼を言われ、俺はぎこちなく笑みを浮かべてやる。正直、どう返事したものか、とっさに浮かばなかったのだ。


「お前が、ドラゴンスレイヤーたちから同行を乞われる理由がわかった」


 うん?


「ドラゴン退治において、お前ほど共に戦ってほしいと思う男もおるまい。……さすがに戦闘の場で、剣を修理してしまうというのは常識離れしておるが」

「いやまあ……俺もそう思います」


 苦笑い。これはまあ、ヴォード氏からしたら最大限の賛辞だろう。


「今後もまた、非常時には力を貸してくれると助かる」

「それは……光栄です」


 差し出された手に、俺は応える。褒められるのは素直に嬉しいけど……別に俺、ドラゴンスレイヤーたちに乞われたことなんてないからね。全部、俺とベルさんで討伐したから……とは言わないでおこう。


 俺たちの様子をラスィアさんがニコニコした顔で見ている。ヴォード氏は真面目くさって言った。


「ランクはどうするべきだろうか、ラスィア? 確かジンの今のランクはEだったと思うが?」

「ええ、そうです。Eランク冒険者です」


 ラスィアさんは暗唱するように目を閉じた。


「副ギルド長として、適正ランクの昇格を提案いたします」

「まったくの同意見だ」


 ヴォード氏は腕を組んで、俺を見据えた。


「ちなみにランクはどれが適正だと思う?」

「今回の働き、いえ王都防衛での働きも考慮すればAランク冒険者でも、文句は出ないと思われます」

「あ、いや……それは」


 待って欲しい。俺は別に冒険者ランクの昇格など気にしない。というかあまり上げられても困るんだけど!


「そういえばベル殿は冒険者ではないのでランクはないのだが……」

「あの方もAランクは確定ですね。Sランクも考慮したいのですが、これには王家を含めて、認知される必要があるので根回しが必要になるかと――」

「あー、よろしいですか?」


 俺が小さく手を挙げれば、ヴォード氏は頷いた。


「ランクについてはあまり上げないでいただきたいのですが」

「……理由は?」

「あまり目立ちたくないので」


 英雄時代に逆戻りは御免だ。確かに今回や王都防衛戦で活躍したとはいえ、実際にそれを目にした人間は限られている。実際にランクが低いままでいれば、一般人や有力者からの認知度は上がらずに済む。


「いまさら、だな」


 ヴォード氏は首をかしげる。


「ここにいる連中を含めて、お前の働きを見た者たちから見れば、むしろランクが低いままであるほうが逆に話題になってしまうのではないか?」

「ギルドが昇格を渋っている、という悪評が立つのも困る話ですし」


 ラスィアさんが、困ったといわんばかりの表情になった。


「Aランク」

「せめてCで」

「Bランク」

「……わかりました、ならBで結構です」


 俺は降参した。確かに低さに固執して目立つのは本末転倒。初心者装備も、ちょっと周囲から風当たりが強くなってきたことだし、ちょうどいい機会かもしれない。


「おーい、小僧!」


 と野太い声を出しながら、マルテロ氏がやってきた。


「おぬしから借りた武具だが、もう少し貸してくれんか?」

「……いいですけど、何故です?」

「いやなに、戻ったら古代竜素材の武具をこしらえるんじゃが、その参考にな」


 ドワーフの名鍛冶師はすでに自分の分け前分を風呂敷状の布に包み背負っている。


「あと、後ろの連中からもこいつの素材の武器を作る依頼を受けたからのう。忙しくなるわい」

「エンシェントドラゴンの素材の武具ですか。武器職人の本懐ですね」

「まあな。というか、おぬしもわしの工房に来い。少し手伝っていけ」

「俺が?」


 予想外だ。なんで俺、名工に声をかけられてるんだ?


「おぬし、古代魔法武具生成術を使うじゃろ? 教えろとは言わんが、その力を貸してくれと言っておるのだ!」


 そういうことか。豪快に笑うドワーフに、ただただ苦笑する俺である。

 その後、ポータルを開いて、俺たちは王都――冒険者ギルドへ帰還した。

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