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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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1431/1897

第1421話、暗君は国を滅ぼす


 真・ディグラートル大帝国帝都グラン・ディグラートル。


 宰相のフィーネ・グリージス・ディグラートルは、ご満悦だった。彼女のもとで、日夜勉強に励んでいるケルヴィス・ディグラートルは怪訝な顔になる。


「何かいいことがありましたか、姉上?」

「ああ、ケルヴィスか。まあ、悪い話ではない」


 フィーネ・グリージスは、義弟を招く。


「ノベルシオン国が、シーパング同盟の中心的戦力の一つである、ヴェリラルド王国に侵攻を開始した」

「それは……おめでとうございます」


 口ではそういいつつ、ケルヴィスはピンときていない様子だった。それもそのはず――


「姉上。ノベルシオン国とは?」

「ヴェリラルド王国の東に位置する国でな、我が大帝国の属国の一つだ」

「つまり、お命じになられたのですね。隣国を攻めろと」

「そういうことだ」


 満足げに頷くフィーネ・グリージス。ケルヴィスは首を傾げる。


「その、ノベルシオン国というのは、強いのですか? シーパング同盟の中でも強国として知られるヴェリラルド王国と戦えるような……?」

「ぶっちゃけ、弱い。我々が支援してやらねばな」

「……支援されたのですね?」

「多少はな」


 フィーネ・グリージスは愉快そうに笑った。


「まあ、資源や金を搾取するだけの存在だがな。そろそろこちらの搾取に耐えきれず国が潰れそうなのでな。その前に、敵国にぶつけて消滅させてやろうと思ったのさ」


 散々利用して、ポイ捨てする――フィーネ・グリージスはそう言ったのである。


「完全に潰してしまっていいんですか? 属国であるなら、完全に大帝国が乗っ取ってしまってもいいのでは?」

「もうあの国はボロボロだよ。民の支配者に対する憎悪と憎しみが募っている。そんなところに乗り込めば、治安維持のために兵力と金が掛かる。それはよろしくない」


 フィーネ・グリージスは机の上の筆を取る。


「地理も最悪だ。何せ、ヴェリラルド王国のお隣だ。こちらからは遠いし、変に軍隊を送ってもそいつらが叩かれて、こちらの負担ばかり増える。せっかく得た資源を、ゴミのために使って帳消しにするのは本当によろしくないのだ」


 ――ノベルシオンとやらのことを、よく思っていないのだな、姉上は。


 ケルヴィスは察した。切り捨てる気満々。フィーネ・グリージスが、利用できるうちは無駄なく使おうとする人間だと理解していたから、彼女が手放すというのは、本当に使い道がないのだろう。


 ――本当なら、支援もしたくなかったんだろうな。


 だがしないとまるで役に立たないから、仕方なく支援したに違いない。


 ――味方を切り離して上機嫌なのだから、相当だぞ、これは。


 一体何をしたら、ここまで一国の宰相から嫌われるのだろうと、ケルヴィスは思った。



  ・  ・  ・



 隣国の侵攻とあれば、対応しなくてはいけない。

 俺は、アリエス浮遊島軍港を経由して情報を収集。ヴェリラルド王国東部国境に迫る敵の軍勢の把握に務めた。


 数は前回のおよそ3倍である10万5000人。分析に当たったディアマンテは、顔をしかめた。


「これはノベルシオン国の限界を超えています。新たに物資、食料などを充足できねば、一週間以内に軍が崩壊します」


 兵站が保たない。数日中に物資・食料が確保できなければ、10万5000人のノベルシオン国軍は、瓦解する。


「つまり、現地調達なり、後方からの補給が届かない限り、勝手に自滅するわけか」

「そうなります」


 ディアマンテは頷いた。作戦室に妙な沈黙が下りる。ベルさんが鼻をならした。


「こんな馬鹿な話があるか?」

「攻める側が軍を維持できないにもかかわらず攻め込むなんて」

「現地調達っていうのは――」


 アーリィーが無感動な目を向ける。


「要するに、略奪だよね? ヴェリラルド王国内の、ヴェリラルド王国民の町や集落から」

「そうなるな」


 この場にジャルジーがいたなら、激昂して今すぐ侵略者どもを殲滅しに行こうとしただろうな。アーリィーもまた、断固略奪などさせないって目が血走っている。

 そこで、シェイプシフター諜報部を統括するスフェラが挙手した。


「真・大帝国側から、ノベルシオン国に対して補給を用意すると申し出があったようです」


 シェイプシフター・ロッド曰く、『貴国が財政的に苦しいのは承知している。同盟国のよしみとして、及ばずながら備蓄している食料を提供する。数はやや足りないだろうが、そこは敵ヴェリラルド王国から手に入れてもらいたい』とのことだった。


「で、実際は?」


 俺は問うた。スフェラは淡々と答えた。


「真・大帝国側に、ノベルシオン国行きの物資はありません。完全に、ノベルシオン国王は、真・大帝国に踊らされております」

「あー、思い出した。ノベルシオン国王は馬鹿だったな」


 ベルさんが嘲笑した。俺は思わず溜息(ためいき)が出る。


「馬鹿に付き合わされる民が気の毒だ」

「対応は決まってるだろ?」


 断固、阻止する。せっかく復興した王国東領が蹂躙(じゅうりん)されて、王国民に被害が出る。真・大帝国戦のために使うための物資を、こんな馬鹿どもに使うのは正直苛立たしくある。しかし、10万超えの敵となると、機械化されたクレニエール侯爵軍でも消耗は避けられない。


「おそらく勝てるだろうが、敵軍が崩壊した後の敗残兵がヴェリラルド王国内に散らばって野盗化するのが面倒だ」


 真・大帝国は、シーパング同盟国の国力、物資備蓄の面で削りにきたのだろう。直接ドンパチやるだけが戦争ではない。物資が不足すれば戦えなくなるのは、機械化が進んだ近代化軍隊といえど一緒である。


「何かこう、相手を消耗させて自滅させるやり方ができないものか……?」


 普通に戦えば勝てる。幾ら前回より強くなったとはいえ、戦車や航空機、魔人機などが充分に揃ったヴェリラルド王国軍に勝てるはずがないのだ。

 戦争ってのは、相手の嫌がることをするものだ。……嫌なこと、ねえ。


「……よし」

「お、何か閃いたのかい?」


 ベルさんが聞いてきた。アーリィーやディアマンテらの視線も集まる。


「消費は最小限で。ノベルシオン国には責任をとってもらおう」


 まずは東クレニエール領を預かるクレニエール東方侯爵に話を通そう。南方領ならともかく、この地方での指揮権は、あの人にあるからな。

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