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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第一部

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第142話、ドラゴンスレイヤー


 合成――!


 青い魔法陣が展開される。折れた竜殺剣『ドラゴンブレイカー』を修復する。

 俺が魔力を注ぎ込めば、魔法陣の色は赤く光る。オリハルコンのインゴットが溶けるように形を変え、折れたドラゴンブレイカーを繋ぎ合わせるように接合していく。形を整えるのは第一段階。難しいのはここからだ。俺はさらに魔力を注ぎ込む。

 ハッと息を呑む音が聞こえたが、正直誰が発したものか俺にはわからなかった。いまは集中だ。剣と追加オリハルコンを結びつける。溶け合い一つになるように――


「危ない!」


 ラスィアさんの声だったか。心配ご無用だ。魔法障壁は張ってる。エンシェントドラゴンは未だ泥沼にはまっていて、ブレスしかこちらを攻撃できない。ブレスなら凌げる。無視だ無視。


「なんてことだ……剣が」

「元に――!?」

「これが、古代魔法武具生成術か――っ」


 うるさい、黙ってろ。俺は耳に届く周囲の声をわずらわしく感じる。オリハルコンを曲げたり伸ばすとか結び付けるとか、どれだけ大変かわからないだろう? 鉄やミスリルを加工するよりもっと難しいんだ、この野郎!


 そんな怒りの波動がのったせいか、硬かったオリハルコンが少しスムーズに伸びていくようになった。見た目には一つになったように見えるが、まだ融合が足りない。隙間を作るな、溶け合え。


 一瞬、頭が重くなった。……畜生、集中を切らすな。魔力がやばい……!

 目元がぼやけてくる。吐き気が……もう少し、あと、少し我慢だ、んなろおぉ!


 赤かった魔法陣が緑に光った。合成、完了――だ。


「うぅっ……」


 俺は地面に右手を付いて身体を支えると、左手は胸をさする。やばい、吐きそう。


「剣が、戻った……! 信じられない!」


 ヴォードが感嘆の声をあげた。

 ルティもまた驚いている。……感激のところ悪いがね、いまはそれどころじゃないだろう?

 俺は顔を上げると、何とか笑みを貼りつける。


「さあ、ギルド長。お待ちかねの剣ですよ。……今度は、はずさないでくださいな。次はないですから」

「……ああ。……すまん」


 ヴォードはドラゴンブレイカーを手に取る。その目は、再燃した闘志に満ちている。


「貴様の尽力、無駄にはせん!」


 残っている者は? とヴォードが咆えるように言えば、ベルさんとマルテロ、そして近くにルティがいて、ラスィア、ユナがいる。


「よし、次で決めるぞ! 皆、力を貸してくれ!」

「おう!」


 ベルさんが先陣を切り、ヴォード、マルテロ、そしてルティが古代竜目指して駆ける。ユナとラスィアが防御魔法を前衛に唱え、先ほどからヴィスタが魔法弓でドラゴンの注意を引いていた。


 俺はと言うと、まだふらふらだ。魔力欠乏症がひどい。革のカバン(ストレージ)を漁る。

 あまりに気持ち悪くて、希少品だろうがなんだろうか構わなかった。保存しておいた文字通りの最高品質のマジックポーションの瓶を取り出し、栓を抜くと口に含んだ。舌が焼けるような苦さが口の中に広がるが、我慢して飲み込んだ。味のほうはどうにかならんのかね。


 しばし、呆けたような調子だった。頑張るほかの冒険者たちには悪いが。

 ちらと視線をやれば、ベルさんが古代竜の右手を引き離し、マルテロ、ルティが左腕を弾き、ヴォードがドラゴンブレイカーを心臓部に当たるダンジョンコアへ一撃――


 天にも轟く絶叫が深部フロアに木霊した。

 それは伝説の竜の断末魔の悲鳴。金属めいた灰色の外皮を持つ古代竜は、コアを失い、上半身を倒れこませた。


「勝った……?」


 ラスィアの声。ヴォードが大剣をかざし、声を張り上げた。


「おおおおおおおおおおーーっ!!!」


 マルテロが、ルティが歓声を上げる。ラスィアとユナが喜びのあまり抱き合っているのを尻目に、俺はホッと息をつく。


 討伐完了、だな。魔法が効かない相手では、まあこんなものだよな。ヴォードが古代竜を仕留め、今回はアシスト役で済んだから、これ以上の悪目立ちはしないだろう、うん。


 さて、と、とりあえず外の様子を見てこようかね。

 深部フロアに邪魔が入らないように外部掩護班やアーリィーたちが守っている。そっちの様子はまるでわからないが、激戦の真っ只中だったら助けてやらないとね。


「ジン……?」


 ヴィスタが俺の様子に首をかしげる。君は元気そうだな、よしよし。


「ついてこい。外の様子を見に行こう」

「あ、そうだな」


 外のことを忘れていたような顔をするエルフの魔法弓使い。エンシェントドラゴンとの死闘の直後だ。それどころではなかったのだろう。


 さて、俺とヴィスタが、深部フロアに侵入を果たした穴の外を出てみると――戦闘の真っ最中だった。

 わらわらと迫るオークやゴブリンの集団。アーリィーが魔石機関銃を連射し、敵をなぎ倒す一方、クローガら外部組、撤退指示で外に出ていたレグラスやナギ、アンフィらが敵と切り結んでいた。


「おう、ジン! 何をやってるんだ!? 撤退なのに、他の連中は!?」


 レグラスに怒鳴られた。なにグズグズしているんだ、と言わんばかりである。うん、まあ、そうだよね。


「ジン!? 無事かい!?」


 アーリィーが振り返る。うん、と、俺は小さく手を振って応えた後、呼吸を整え、呪文を唱えた。


「氷の檻、地より出でて、獣どもを貫け。アイススパイク!」


 味方が頑張る防衛ラインの外にびっしり、かつ無数の氷の柱を出現させる。後続の敵亜人どもがたちまち串刺しにされて、その身体を高さ三メートル以上にまで吊り上げられる。突如出現した氷の林、いや壁はオーク軍の後続と前衛を引き離した。これでしばらく時間が稼げるだろう。


「全員、聞いてくれ。エンシェントドラゴンは、ヴォードさんが倒した」

「え……!?」


 何人かがビックリして固まる。氷の壁の内側にいた敵と戦っている者たちはいたが、オークの数も、たちまち減っていくのはさすが精鋭冒険者たちと言ったところか。


「本当なのか、ジン?」


 アーリィーの問い――ちゃんと王子様なんだな――に頷きつつ、俺は言った。


「そうだ。よって、全員、穴を通って深部フロアに撤収してくれ。そこでポータルを開き、このダンジョンからおさらばしよう」


 近くにいた近衛の魔術師が「よしっ」と拳を固めて喜んだ。いわゆるガッツポーズというやつだ。負傷者を含め、俺の言葉に従い、移動を始める。気づけば、氷の壁の内側にもう敵の姿はなかった。……分断したら、あっさり片付けちゃったのね、君たち。

 アンフィとナギが俺のもとにやってきた。


「ホントに? ホントに倒しちゃったの!?」

「ああ、ギルド長がな。そっち行って自分で聞いてきて」


 それを聞き、深部フロアへと走る女冒険者たち。アーリィーやオリビア、近衛騎士たちも来る。


「終わったんだね、ジン」

「とりあえず、だな。あとは表のオーク軍を何とかしないとだが……今から王都に戻れば、軍の出発には間に合うかな?」

「そうだった。遅刻すると、周りから逃げ出したんじゃないかって言われそうだ!」


 アーリィーの言葉に、近衛たちも頷いた。


「お疲れでしょうが、もうひと頑張りです、アーリィー殿下」

「うん、オリビア。それにみんなもご苦労さま。と、言ってる場合じゃないね、急いで戻ろう。ジン?」


 先に戻って、と俺はポータルを指差す。王子様一行が先に撤収するのを見送ると、俺はポータルを閉じ、魔石機関銃と魔法車を回収すると深部フロアへと戻った。


 氷の壁を壊そうとしているのか、外から音がしている。俺は誰も残っていないのを確認すると、深部フロアへの入り口たる穴を土魔法で埋めた。……これで数時間どころか一日くらい足止めできるだろう……。


 さて、お楽しみの時間である。倒した古代竜の解体タイムだ――

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